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日蓮大聖人・池田大作

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拮抗する三つの“圏”  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  拮抗する三つの“圏”
 人類にとって必要なことは、地球が良好な条件を維持していることである。さらに人類にとってもっと直接的な重要性を担っているのは、人間の生命維持に適した唯一の場所で、しかも宇宙のほんの一角にすぎないこの地球上の土と空気と水からなる薄い膜、生物圏(バイオスフェア)の状況である。われわれ人類は、この生物圏の中で生き永らえる生命の集合体の一部であり、一群である。だからこそわれわれは、この生物圏をできるかぎり健全な状態で維持するよう努めなくてはならない。
 生物圏は、約百万年昔に人類が誕生したときには、すでに数十億年という進化の過程を経ていた。人類はやがて、その集団生活を組織していくうえで必要な社会圏(ソシオスフェア)を築き始め、ついでこれを動かす筋力として技術圏(テクノスフェア)をつくった。人間の生命は、この生物圏、社会圏、技術圏の規制を受けて維持されている。だがそれぞれ独自の条理があり、お互いに両立しえないというのが常態である。近年、技術圏がとくに生物圏を犠牲にしてまでその条理を強要しており、これが今日世界が直面する非常に多くの問題の根底をなしている。
 数万年前に定住生活を始めた人類は、その生活の場として最も適した土地を選んだ。その後、人類はしだいにより広い土地を占有していったが、この間、人類は秩序をわきまえず、しかも土地を適当な形で維持する知識を持ち合わせていなかった。このため土地の崩壊、枯渇化が進み、今日のような結果をもたらした。
2  いまや、利用可能な肥沃な土壌に覆われているのは、三千三百万平方キロメートル足らずで、凍土地帯を除く全地表面積の約四分の一というかなり限られたものでしかない。しかも高い生産性があるのは、そのうちわずか二〇パーセントにすぎない。この土地と沿岸水域だけが、人類が実際に住んでいる唯一の場所、棲息環境(ハビタート)であり、今後さらに人口増加が見込まれている人類も、ここに定住しなくてはならない。
 地球の表面の土地と海、大洋、さらに大気と地殻の表層部は、諸環境(サランディングス)と総称することができるが、これらもまた、きわめて重要な意義を担っていることは言うまでもない。これらは生物圏にもともと備わった要素であり、生物圏の維持にあたって不可欠のものである。しかも、人間の需要を満たす多くの価値ある資源を提供する。だが、こうした諸環境は、人間の永遠の家にはなりえない。
 近い将来に地球を覆うとみられる新たな人口の波に、いかに対処していくかを知るために、われわれはここで棲息環境を根本的にチェックする必要があるであろう。まず人間は数百年に及ぶ膨張と上昇の全過程で、何をしたかを考えてみたい。この間、人間は地球上のほぼ全域で、実際に真の変化を成し遂げた。だがその結果はプラス面もあったが、マイナス面もあった。森林を伐採し、農業を振興させ、町や村を広げた。だが一方では他の種を追いたてて死滅させ、さらに地表の砂漠化を加速させた。この結果、地上には人間の存在や活動がなんらの痕跡ももたないような本来の姿を残した場所(すなわち、いまもってなんらかの文明の洗礼を受けていない場所)はごくわずかとなり、野生が太古の姿のまま残されているのは、ごく限られた地域だけとなった。

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