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日蓮大聖人・池田大作

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平和論議にひそむ虚構  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  平和論議にひそむ虚構
 戦争と平和をめぐる問題は、現代人のこうした誤った姿勢を最も鮮明な形で示す悲劇的なケースである。「戦争か平和か」という生死にかかわる問題を考えるにあたって、現代人は根源的な理由をえぐり出そうとしない。軍備競争と軍縮といった、半ば自己完結した技術問題として、「戦争か平和か」の問題を考察する。また他のすべての問題とは無関係のものとして、「平和か戦争か」の問題を単独で取り上げ、本質的には軍事外交用語にすぎない言葉を並べるだけで、解決できるかのようにみなしている。
 現実の世界の内側に踏み込むことなく、旧来のままの姿勢を踏襲し、煩雑な技術問題だけに拘泥するため、専門家といえども現実を十分に把握しているようには思えない。しかも彼らの言明も、一般の人間には十分に理解されているとは思えない。
 こうした背景のもとで軍縮交渉がこれまでなんらの成果をも上げていないとしても、なんら不思議ではない。当初は各方面から期待が寄せられた八二年六月の国連特別総会でさえ、本来の目的の軍縮推進については完全な失敗に終わり、不満を残しただけだった。軍縮交渉は三十年以上にわたってつづけられてきたにもかかわらず、世界の核保有量は増大する一方で、今日、核による破壊力が三十年前の数十万倍にのぼったとしても、なんら不思議ではない。
 だからといって戦争防止、紛争解決、兵器制限を図り、核兵器、化学兵器の使用制限地域を確立することで、非武装・軍縮の合意に向けての努力を怠るべきでないことは言うまでもない。だが、このような合意が平和と同義語だなどと考えたとしたら、あまりにも早計である。軍事面で軍縮措置を講じるだけでは、戦争のない世界を実現することはできないし、公的なものにせよ秘密のものにせよ、最新兵器の研究・開発を押しとどめることもできない。バランス・オブ・パワー(勢力均衡)理論にもとづくだけの合意に、砂上に書いたもの以上の意味をもたせることもできない。今日の世界では、日常のミニ暴力を当然のものとして受け入れる風潮がじわじわと広がり、法による統治体制と合法的な政治、社会的異議申し立ての基盤に代わって、国家による非人道的な抑圧、拷問、血なまぐさい破壊工作、テロが多くの国ではびこっており、現状ではこうした傾向をとどめることもできない。

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