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日蓮大聖人・池田大作

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現代人に巣くう症候群  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  現代人に巣くう症候群
 こうした前提をわきまえたうえで、われわれは旧来の生活体系、価値観を根本的に変革しなくてはならない。なによりもまずわれわれは、過去の世代から受け継いだ“暴力の複合体”ともいうべき現実から己を解放しなくてはならない。何百年にもわたって人類を揺り動かしてきた“暴力複合体”は、いまも概念的には人間の本性の一部とみなされている。もっとも、過去の世代はもろい基盤に立っており、自らを守ることをまず考えなければならず、自己防衛の方便として暴力に依存した。だが今日、われわれには全地球をコントロールする能力、支配するに必要な限度をはるかに上回る力がある。いまこそ、かつては生存の手段であった暴力が終末の原因にもなりかねないことを認識しなければならない。
 だが、この重大な変革の時期に、いまなお解決されていない古い数多くの問題と複雑に絡み合って、新たに大きな問題が派生したため、文明の進化は従来にまして困難な事態に直面している。現実をみると、人口、飢餓、貧困、無知、不正、不寛容といった古くから存在する問題が、国際金融危機、社会体制の人類史上例のない肥大化と混乱、はなはだしい技術の悪用、誤用、自然環境の破壊等によって誘発された新たな問題と結びついている。
 われわれが直面している障害は、機構の定型化・官僚化によって拡大し、さらに道徳的価値観・市民規範の衰退、自己に対する誠実さ・卓越した力に対する忠誠心の喪失にともなって悪化の一途をたどった。
 これは、現代人が背負った十字架とでもいうべきか。冷戦、果てしない軍備拡張、地域紛争、市民社会を巻き込む暴力、一歩処理を誤れば制御不能となりかねない事態を克服する手段として安易に力に頼ろうとする誘惑──いずれも、この十字架の影響である。
 こうした閉塞状況の中で、国際社会のより公正な秩序と成長を模索するもくろみは、いずれも行き悩み、人類の大半は否応なく枯渇状態、損失状態へと追い込まれかねない危機に瀕している。
 この混沌とした状況に対処するうえで、大きなつまずきとなったのは、重要課題を処理するさいに、それぞれの問題を互いに無関係のものであるかのようにみなして、単独で取り扱おうとする現代人の体質である。現代人は病根や機能障害を深くえぐり出すのではなく、ただ問題の症候群を浮き彫りにするだけである。

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