Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

九、減速は可能か  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

前後
1  九、減速は可能か
 池田 あなたは、現代に要求されることとして、歴史の流れが加速しているため、一つの問題に対処するのに、以前よりはるかに長い未来を眺望に収めながら、しかも即断即決で行動しなければならないとおっしゃっています。たしかに、即断即決が必要な場面が多々あります。
 しかし、現実問題として、現代はあまりにも変化が激しく、見通しうる未来がきわめて短くなってきています。変化があまりに激しいため、私たちは一年先のことも予測がつかなくなっているのです。この現代の私たちがおかれている状況は、晴れ渡った大空を悠々と飛行しているパイロットではなく、うっそうと茂った森の、曲がりくねった道をフルスピードで走っていく、自動車の運転手のようなものです。
 即断即決はたしかに必要ですが、遠くを見通すことができないのですから、即断即決が破滅を招く危険性が多分にあります。ところが、現在も、科学者や技術者、政治家、事業家など、進歩に栄光を認める人びとは、ますますスピードを増すことしか考えていないようにみえます。これは、恐ろしいことだと思うのです。私は、したがって、いま大事なことは、この曲がりくねった道を、事故なく通り抜けられるよう、私たちの運転技術に見合ったスピードにまで減速することであると思うのですが、いかがでしょうか。
2  ペッチェイ われわれは、曲がりくねった道を無謀な速度で車を運転しており、いまにも大惨事を招く危険を冒しています。しかし、もしこのスピードが技術(テクノロジー)を表すとすれば、われわれの絶えざる突進を減速させること──すなわち技術化を遅らせること──はできません。現実には、社会の運転手として走行するとき、二つの事態が生じます。一つは、技術文明からより単純な社会に後退することは、ほとんど不可能だということであり、もう一つは複雑性がさらに複雑性を生み出していくということです。こうして、われわれは、そのいずれもがますます高度化する技術を必要としているより大きな組織、より巨大な官僚制度、より複雑な機構、より大規模なオートメーションなどに、否応なく依存せざるをえない悪循環にはまり込んでいるのです。
 同時に、われわれの抱えている、環境、エネルギー、食糧生産、都市化、社会正義、安全保障、失業、犯罪、人間疎外等の問題は、互いに分枝を重ねて無秩序に絡み合い作用し合いながら、いわゆる地球的な“問題複合体”を形づくっています。そうした諸問題の挑戦に対処するために、われわれは、都市、産業、情報、通信、交通、通貨、教育、軍事等の数多くの複雑な制度を作り出してきました。そして、それらはあまりにもしばしば、互いに金銭や資源を求めて競合し、あるいは相異なる目的に奉仕し、また、異なる論理に従っているため、人間の構造物の寄せ集めとなってしまって、順調に機能していないのです。そのうえ、これらの制度のいくつかは、ますます増大する要求に圧迫されて過密状態になり、過熱または破裂寸前の様相を呈しています。われわれは経験上、これらの制度が一つでも崩壊すれば、ドミノ効果によって他の制度にも悪影響を与えることを知っています。
 ですから、現在のわれわれはほとんど野放しのままの。、さまざまな要因によって前進させられている。のであり、運転速度を落とすことはとうてい望めそうもありません。われわれがなしうること、またしなければならないことは、ギアを切り換えて、自らの能力に得意満面となって運転するのをやめ、冷静で責任ある行動様式をとることによって、それらの要因をもっと上手にコントロールすることです。われわれは今日まで怠ってきたことを(その怠慢はほとんど信じ難いものですが)しようとすればできますし、またしなければなりません。たとえば、われわれの旅行の準備として、自分たちの進路を地図で示すとか、あるいは少なくとも利用できるかもしれない別な道をよく呑み込んで、それから、より安全に前進すべきです。
3  池田 あなたは「われわれはほとんど野放しのままの、さまざまな要因によって前進させられているのであり、運転速度を落とすことはとうてい望めない」と言われ、われわれがなしうることは「冷静で責任ある行動様式をとることによって、それらの要因をもっと上手にコントロールすることだ」と言われました。
 しかし、私は、曲がりくねった危険な道を、得意満面で猛スピードで走っている人が冷静になったとき、まずなすべきことは、スピードを落とし、ときには車を止めて、自分がどこにいるかを確認し、正しい方向を見つけ出し、それから再び適切なスピードで走り出すことであると思います。
 たしかに、科学技術文明の今日の進行速度には、さまざまな要因が絡んでおり、速度を落とすことは不可能にみえます。しかし、結局は、人間がアクセルを踏んでいるから、こうした猛スピードになっているのです。正気さえ取り戻すなら、アクセルを踏むのをゆるめ、ブレーキを踏むことが可能なはずです。

1
1