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日蓮大聖人・池田大作

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十、宇宙開発の効用  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  十、宇宙開発の効用
 池田 人間は、常に未知なるものに対して、限りない好奇心、探求心を燃やしてきました。まず、この地球上の大地と大海に向けられた好奇心は、大探検時代、大航海時代と呼ばれる歴史上の現象を生み出し、地表面はほとんど隈なく究明されました。
 それは、もちろんごく浅く、表面的に認識されるようになっただけで、深く探求するとなればどこまで行っても際限がないでしょうが、一応どこへ行ってもすでに先人の踏んだ跡があるということから、二十世紀後半に入ってからは、唯一の未踏の世界として宇宙空間に眼が向けられるようになりました。しかし、地球の引力圏を脱出して宇宙空間へ飛び出すには、莫大なエネルギーと精密な技術が要求されます。
 宇宙への夢は、はるか昔から人類の心を占めていたわけですが、それを可能にするこれらの条件が整ったのは、二十世紀後半になってからでした。これらの条件は、軍事技術の一環として発達し整ったものでしたから、宇宙開発は人間の科学的好奇心と冒険を求める心の成果であるとともに、米ソの国家的威信と軍事技術の開発の一変形でもあるわけです。さらに、地球上における人類の生存についての危機感から、あたかもノアの方舟はこぶねのように、絶滅を逃れる手段として考えている人もあるようです。
 もちろん、現在の技術では、一人の人間を宇宙空間へ送り出すのに要する費用はあまりに膨大ですが、あるいは将来、もっと安価に宇宙旅行ができるような技術が開発されるかもしれません。そうした宇宙開発の可能性と、それが人類にどんなプラスをもたらしうるかという問題について、あなたはどのように考えておられますか。
2  ペッチェイ 宇宙探査は壮大な成果を上げ、その成果は関連分野で科学の進歩を促進しましたが、私は、現世代の人びとも、次代の人びとも、その壮大さに見合うような配当は、そこから期待すべきでないと思います。新たな宇宙計画からは、さらなる知識と技術の進歩が間違いなく生じることでしょう。しかし、計画そのものが莫大な才能と財力・資金を必要とするものであり、それらをもっと別な道に適用するならば、より有益な成果を生み出すことができましょう。
 とはいうものの、人間は──たとえその動機が全面的に高い理想によるのではない場合でも──何か新しいものを求めて、あるいは知りたいと願う何かを調べるために、宇宙空間へ乗り出そうとする考えを決して捨てないでしょうし、また捨てるべきではないと私は考えます。
 現在、三つの主な動機が、人間を宇宙に駆り立てているといわれます。それは、はるかなる彼方の神秘の魅力、可能性をはらむ未知の資源の魅惑、それに、新たな軍事的足場への希望です。このうち、アメリカとソ連が互いに宇宙で戦略上優位に立とうとして、何十億というドルやルーブルを注ぎ込んでいることが十分に立証しているように、軍事的目的が最大のものであることには、疑いの余地がありません。しかし、ことによると、もう一つ、第四の理由があります。それは、この地球のさまざまな諸問題から逃避できるかもしれないという幻想です。
 ともあれ、私は、軍事上のもくろみがまったくなくなったとしても、なおかつ人類の宇宙冒険はつづくだろうと思います。それはなぜかといえば、答えは簡単です。そこに宇宙があるからであり、また、われわれが宇宙のすべてを知ることを望み、可能なかぎり、どこにでも人類の存在を示したいと望むからだということです。
3  しかし、このような態度や人類の宇宙計画も、その前提として、それらがわれわれの敵愾心や戦闘衝動を募らせないという、また、わが故郷たるこの“母なる大地”が最大の思いやりを要する未解決の問題に満ちていることを忘れないという条件付きでならば、結構なことでしょう。その未解決の問題の最たるものは、われわれの親であり不可欠かつ永遠の生命の源泉である“地球の自然”と人間との恐るべき関係がひきおこしているものです。これらの関係を矯正することこそ、われわれの最優先の目標でなければなりません。最初にすべきことを、まずなすべきでしょう。

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