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七、食糧の供給と分配  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  七、食糧の供給と分配
 池田 食糧問題に関してもさまざまな難問が絡み合っていますが、とくに、現代の世界の問題は、国際的分業化によって、自国民が必要とするだけの食糧を、自国で供給できない国が増えてきているという点でしょう。
 とくに日本は、もともと耕地面積が狭いうえに、工業化を偏重して農地を犠牲にしてきました。ソ連も本来は農業国であり、世界的な食糧供給国であったのが、今日では、需要側になっています。中国は、その点、農業と工業の均衡のとれた発達を意識的に心がけ、いまのところ深刻な食糧不足はありませんが、人口は増大しつづけており、これから先どのようになるか、必ずしも楽観はできません。
 さきに私は、人口問題を考える基準として、その国で生産・供給できる食糧の養いうる範囲ということを申し上げましたが、それと同時に、産業問題に関しても、食糧生産にかかわる産業、すなわち農業、漁業、牧畜等をこそ、最も優先すべきであると考えます。
 現代文明は、工業化が産業の進むべき方向であるかのように考えています。たしかに雇用の推進、経済力の向上、そしてなかんずく軍事力の増強のために、工業化は欠かすことのできない要素でした。しかし、どんなに工業が発達しても、食糧を供給するのは、農業、漁業です。食糧を犠牲にして工業の発達を推し進めた先進諸国は、工業で得たお金によって、まだ農業に依存している国々から、食糧を買い付ければよいと考えたわけです。
2  しかし、いまや、農業に依存している国々も、先進諸国を手本に、つぎつぎと工業化を進めており、食糧の供給国はますます少なくなっていく傾向にあります。農業は人間の生存の最も基本的で不可欠な食糧供給を担っており、いずれの国においても最も重視すべきでしょう。それぞれの国が食糧に関しては自給自足できるようになることが、私は理想であると思います。
 今日でも、世界の多くの国々は飢えており、食糧生産の増大が急務です。そのためには、これまでの効率の低いやり方は、改めなければならないものも出てくると思われます。
 これまで人類は、陸上の動物については家畜化に古くから成功し、蛋白資源の拠りどころとしてきました。しかし、海中の動物については、海中での人間の行動が限定されるのに対し、動物自体は縦横に自在であるため、家畜化にはほとんど成功していません。ところで、おそらく食糧問題が深刻化し、技術が進歩すれば、動物については海の牧場、植物については海中の農場が実現することも、夢ではないと思われます。
 ただし、その場合に、気をつけなければならない点があります。それは、人類はこれまで、陸上の植物の馴化すなわち農業の発達、陸上の動物の家畜化すなわち牧畜の発達によって、自然を大幅に変革し、ある面では破壊してしまったという教訓です。海という大自然を、海中の動植物の飼育化によって破壊することのないように注意しなければなりません。日本人は、たとえば海中の植物であるワカメや海苔の栽培、海中動物であるエビ、ウナギの養殖等に成功した世界の先駆者であるわけですが、こうした海中の動植物の飼育化、栽培化の可能性と、そのさい注意すべきことについて、どのようにお考えになるでしょうか。
3  ペッチェイ あらゆる形態の農業と食糧生産を人間のすべての活動の基本におくあなたのお考えは、まことに正しいものだと思います。その考え方は、われわれの思考においては、常に自然そのものと、われわれと自然との関係を、最も重要視しなければならないという信条に一致するものです。
 あなたは、一例として海洋を挙げ、その大部分が未開発の食糧源であると述べられました。海洋は、たぶん期待できるほどではないにせよ、おそらく、ひとつの将来有望な分野ではあるでしょう。最近になって、われわれはひとつの警告を受けています。それは、世界の漁獲量が、その経費の増大とより精巧な装置とにかかわらず、減少しているということです。これは、競い合う各国の大漁船団が、すでに各海域から過度に乱獲していることを示すものです。こうした事態を改善するには、公海での漁業を永続的なものにするための国際的協力を行う以外にありません。しかし、そのような協力はいまのところ存在しておらず、近い将来にも生まれそうにありません。したがって、それよりも一層有望なのが、河口域や沿岸水域での海中農業(養殖)でしょう。ただ、この技能は、日本や中国、その他の極東諸民族が全般的に得意としている分野で、その他の地域ではあまり行われず、伝統としてもあまり根づいていないのです。
 われわれの心を占めるべき重要課題は、まさに五十億、六十億、あるいはそれ以上の人口のための食糧問題でなければなりません。これに対処するためには、新しい着想と新しい取り組み方が必要です。私のみるところでは、まずその基本となるのが、地域的自立と地球的連帯の原則です。各国が自国のためにだけ努力すればよかった時代、そして世界的市場のメカニズムに則ってすべての国々が自由に競い合えばよいと考えられた時代は、すでに終わりました。今日では、食糧欠乏国にとっては自国救済が第一の問題であり、食糧余剰国にとっては他国の飢饉が最大の問題なのです。

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