Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

六、人口増大への対策  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

前後
1  六、人口増大への対策
 池田 資源、エネルギー、食糧等、物質的条件にかかわる問題の根底にあるのは、結局、人口問題だと思います。なぜなら、人口が増えつづけるかぎり、その生存を支えるために、最低限の物質的条件を満たさなければならないからです。
 とくに、発展途上国にみられる人口増加の激しさは、爆発的といっても言いすぎではありません。その原因としては、医療の発達と普及によって幼児死亡が減ったことにあり、それ自体はまことに喜ぶべきことですが、それに反して、そうして生きながらえている子供たちの大部分は、極度の食糧不足で栄養失調に苦しんでいるのです。
 発展途上の国々では、親たちは、幼児死亡が高率を示した昔からの考え方を変えないままでいます。すなわち、かつては、産めるだけ産んでも、無事に育った子供はわずかでしたから、人口増加はそれほど激しくなかったわけですが、同じ考え方でたくさん産んでいけば、死亡率の下がった現在では増えすぎるのが当然です。
 生まれた子供が、十分に栄養をとって健康に育ち、教育も十分に受けられるようにするためには、産む子供の数を抑えることが必要です。すでに、中国やインドなどでは、政府関係者や指導者たちはこのことを認識しており、努力しているようですが、効果はまだ思うように表れていないのが現状のようです。
 事は最もプライベートな分野の問題であり、もしも権力によってこの人口抑制を進めようとすると、人びとの私生活にまで権力が介入するということになります。しかも、それは産児数の問題だけでなく、個人の人権全般に対する侵害をひきおこしかねません。それは物質的諸問題よりも、もっと恐ろしいものとなるでしょう。この人口増加の抑制について、最も適切な方法はどのようなものだとお考えでしょうか。
2  ペッチェイ 私の考えでは、理想的な状態とは、男にせよ女にせよ、人間一人ひとりが子孫や社会に責任をもちながら、各自の道徳的・実際的判断に従って、自由に子供を産んでいくことであると思います。このことは、子供を産む権利には、他のすべての権利と同様、さまざまな義務が前提となるだけでなく、もろもろの固有の制限もともなうことを意味します。そして、各個人が、より高度で全体的かつ恒久的な社会・政治・経済的福利への当然の配慮をしながら、この権利を解釈し、行使していかなければならないということにもなります。さらにまた理想的には、一人ひとりがこれらの義務を認識し、制約を遵守できなければなりません。しかし、残念ながら、現実はそうではありません。往々にして、(それが根強い伝統になっていない場合でさえ)子供好き、虚栄心、男っぽさ、母性本能、まったくの無知などがそうした配慮をすべて踏みにじってしまい、その結果、家庭環境や社会的安定のうえから必要とされ、あるいは許容される限度を超えて、たくさんの子供を産んでしまうことがあまりにも多いのです。
 この問題に対する受け止め方は、世界の多くの地域において、頑迷さや扇動によって支配されています。そして、それはなににもまして、事態の重大性やその本質や原因を理解できずにいるところからきているのです。このことは、頑迷さや扇動がいかに人間の果てしない苦悩の根源となっているかを証明する、もう一つの証例です。しかもこの場合、犠牲者は他のだれでもない、子供たち自身なのです。つまり、この世界人口の爆発と、その結果生じたあまりに劇的で破滅をも招きかねない人類の現状には、結果を考えずに子供を産んでいるそれぞれの個人はもとより、人口が不断に増加していくことこそ自国の威信を高め、力を強化することになると信じている各国政府も、責を負うべきなのです。
3  一九七四年にブカレストで開かれた国連人口会議では、出産の自由を全面的に束縛すべきでないことを唱える国が多数派を占め、会議を支配しました。しかし、その後、これら諸国のいくつかは、最終的に態度を変えました。なかでも顕著なのが、メキシコでした。しかし、メキシコでは人口増加率は依然としてきわめて高く、最大の国内問題となっています。
 人口が指数関数的な割合で増大する激しさには、われわれの想像を絶するものがあり、このためいくつかの国では、極端な政策を採らざるをえなくなるかもしれません。中国の場合がその典型です。中国は、折に触れてその激しい人口増加を抑制しようと試みてきましたが、そのつど、明らかに不満足な結果に終わっています。そして一九八二年の統計で、この問題の巨大さがついに露骨に表面化しました。それというのも、中国の人口は、一九四九年の解放以来じつに二倍以上にもなっていたからです。つまり、当時は五億人だったのが、この三十三年間で十億人以上にまで増大したのです。また同時に、開発に関する研究から得られた結論によれば、中国の国土が健全な、人間並みの生活を営む人口を支えられる限度は、約八億人にすぎないということです。
 このように、きわめて苦しい選択を迫られた中国政府は、今世紀末までに人口が最大限十二億人を超えるのを防ぐために、厳格な、残酷とさえいえる強硬政策を採ることを──強制されないまでも──選びました。この目標はきわめて達成困難なものです。この中国の例は、われわれが人口問題に真っ向から、しかも早めに取り組むことができなければ、結局は大変な代償を支払わざるをえなくなることを証明しています。

1
1