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日蓮大聖人・池田大作

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“物質革命”の成果  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  “物質革命”の成果
 この比較的短い有史時代の期間に交代しつづけた五百世代の人びとは、先史時代の全期間中に彼らの祖先たちが成し遂げたよりも、驚くほど多くのことを成し遂げてきました。そこで成就されたことのすべては、人間がごくわずかの断片的な土地を耕し始めたときをもって開始されましたが、その後、人間は地球上を探検しては住みつき、植民地や交易所、そして最後には強大な帝国を築いて、人間の支配を強めました。人間の精神は自らが創出した偉大な諸宗教によって高められ、人間生活は、幾十もの文明に花咲いた芸術や文化によって豊かになりました。探求的な人間の心は、物質の本質や生命の不可思議について、より多くを学ぶように鍛えられました。打ちつづく諸発明は、最終的にわれわれの祖先を、この宇宙のはるか極小のものや無限大のものとの接触にまでたどり着かせました。しかし、これまでの人間の向上は、常に必ず自然への深い畏敬と尊崇の念に満ちていました。自然に対して、人びとは、あるいは自然が与えてくれる創造的刺激や数多い恵みのゆえに、あるいは自分たちや家族を生存させてくれることのゆえに、敬意を捧げていたのです。そして、あるいは新しい土地や植物や河川を発見したとき、あるいは古来のものを用いて自らの欲求や発想を役立たせるより効率的な方法を考え出したとき、あるいは七つの海をより安全に航海する術を学んだとき、人類は、地球という自分たちの環境のもつ圧倒的な威力と荘厳さに感謝し、深い敬意を払ったのでした。
2  この有史時代の百世紀のほとんど全期間にわたっての、原始的状態からの人間の向上は、昨今起こっている事柄に比べれば、きわめてゆったりとした速度でなされています。しかし、その後、事態が変化したのです。人類の出来事の速度は速まり、人間は自らをより強者として感じるとともに、自然界の出来事やその束縛に依存することがますます少なくなりました。最も新しい加速の段階は、いまからおよそ二世紀前──さきの一週間の時計で計ればほんの束の間――に始まり、それ以後、その速度は、産業・科学・技術の諸革命の翼に乗ってますます勢いがつきました。これらの“物質革命”は、それまでよりももっと“良くも悪くも”使うことのできる──実際これまでそのように使われてきましたし、いまなおそう使われていますが──途方もなく大きい、予期せぬ知識と力をわれわれの世代にもたらしました。人間の条件と、人間の感情は、まったく変化したのです。
 人類はいまや自らが獲得したこの支配的な立場を、最大限有利に利用しようと奮闘しています。この立場は、たしかにわれわれの祖先のあらゆる想像を超えた、有益な諸発達を培ってくれました。しかし、現代人はまだ満足しておりません。自己を主張し、欲望を即座に満足させることだけを目的として、地球上の事物の秩序に変異を起こそうとして自らの膨大な新たな資産を用いる、現在の人類のあの気まぐれで乱雑で無責任なやり方には、際限がないように思われます。現代人のエゴをくすぐるものはすべて、自らをあらゆる他の配慮に対して盲目にし、自らの行動の結果に対して無感覚にしがちです。そして、他者に与える犠牲やあらゆる倫理的基準が侵害されうることなどにはおかまいなしに、至上権を求めて戦い合い、即席の利益を刈り取ろうとして、殺人的な競争に身を入れているのです。しかも、その一方で自らの環境を荒廃させているのです。事実、現在、人類の新奇な知識と力が最大限に悪用され、それによる最悪の影響が生じているのは、われわれがそれらの知識や力によって、あまりにも傲慢で自己中心的になり、自然との交感(コミュニオン)を捨て去ってしまったからなのです。
3  大昔から、もろもろの動植物は人間の仲間であり、人間の生存を支えてくれました。ところが現代にいたって、われわれは、彼らをきわめて短期間に、無制限に殺戮したのです。われわれはまた、自分たちが他のあらゆる生物とともに依存している大地や空気や水そのものを汚し、毒することによって、自らの環境をも劣化させてきました。人類は、無秩序に広がる人工的な都市や工業やあらゆる種類の人工的制度からなる、巨大なテクノスフェア(人間中心の工業・科学技術)を作り上げましたが、この間、それらがますます必要とする空間や資源は自然システムを犠牲にして獲得されているという事実も、また、それらが増え広がることは人間自身を反自然的で、機械的で、人口過多の生活様式の軛に服従させることになるという事実も、顧みようとはしなかったのです。
 われわれはいまようやくにして、非常に高い代価の支払いを請求されるだろうということに気づき始めています。それは、地球が他の多くの形態の生命体の貢献によって現在の姿になっており、それゆえにこそ美しく寛大であるのに、その地球を、あたかもわれわれだけの居住地でもあるかのように改造しようとする誘惑に屈してきたことへの代価です。こうした仕事の最後を飾って、人類が作り出した最も人工的な加工品こそ、人間生命を含め、あらゆる生命にとって必要なすべてのものを一瞬のうちに破壊できる、あの「爆弾」だったのです。

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