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日蓮大聖人・池田大作

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序 章  

「平和と人生と哲学を語る」H・A・キッシンジャー(全集102)

前後
1  七年前の会談から
 一九七九年・東京での会談から七年目の対話
 池田 キッシンジャー博士に私は、最初にお礼を申し上げたい。
 ちょうど七年前に、この対談の話しあいをしたことを覚えております。信義を重んじて、ご多忙のところ、このように有意義な対談を実現してくださって私は心から感謝申し上げたい。
 とともに、数年前に博士がご病気であったことを今回知りました。謹んでお見舞い申し上げます。
 キッシンジャー 私も当時の会談を懐かしく思っております。
 先生の側近の方々からご著作をお送りいただき、私も読んでおりますが、先生の哲学・思想には深い感銘をおぼえております。
 また、このたびは真心の歓待をしていただき、すべて効率的に万端の準備をもって迎えてくださいまして……。
 池田 とんでもありません。ともかく、対談ができることがうれしい。
 キッシンジャー このように行き届いた準備をしていただきましたが、そういう点ではアメリカはまだ発展途上国であるという気がします。(笑い)
 池田 お上手なジョーク、私は、感謝します。
 博士は、世界にとって大切な指導者です。
 また、アメリカにとっても、日米間にあっても、大変な立場である。とともに、すべての次元からみて、私は深く友情をもち、博士を大事にしていくことが、今後の世界にとっても大切であると思っています。
 キッシンジャー 万端の準備と申し上げましたが、それは効率的でありながら、細かいところまで配慮が行き届いておりまして、本当に感謝しております。
 昨日来日しましたが、このあと韓国へ飛び、また京都に戻ってまいります。京都では、先生がいらっしゃらないので、きっと寂しい思いをするでしょう。
 池田 親しみのあるご厚情、重ねて感謝申し上げたい。大変多忙な日程ゆえ、お体を大切にしていただきたい。なお、できるものならば、関西のほうでも歓迎の準備ができればと、今、考えております。
 キッシンジャー 京都には一日滞在し、国際戦略研究所(IISS)の年次総会で講演することになっております。
 池田 全部知っております。
 せめて私の代理が、空港まででもお迎えに行ければ、と思っております。これが当然の礼儀ですから……。おそらく、わずらわしくないように、お迎えすると思いますが、一応、ご了承ください。
 キッシンジャー 私の予定は……。
 池田 よく存じあげております。うかがっております。ともかく、今日の対談と、明日の対談が、有意義に、楽しく進むことのみです。また、私はそれを願っております。
 博士がこの対談で疲れないように、いな、この対談を通して、さらにご健康に拍車がかかっていくようになれば、と思っております。
 キッシンジャー もちろん、そうなることを私も確信しております。
 それから、先生からお送りいただいたご質問も、じつに細かい点まで配慮して用意されたもので、大変に感銘いたしました。また、思索がつくされており、論点が網羅されていると思います。
 池田 恐縮です。
 博士の論文は、現在、「読売新聞」に連載していらっしゃる。まあ、「地球診断」という、グローバルな論じ方だが。それから回想録(『キッシンジャー秘録』小学館)等々は、全部拝見しました。
 それはそれとして、あまりその中で出ていない次元を、部分を、私は語りあいたい。その語りあいが、これからの青年、これからの人々、これからの世界の方々にとってなんらかの参考となれば、また少しでも二十一世紀への、平和への橋渡しとなれば、これほどうれしいことはない。また、その点をなんとか博士より引き出したい、こういう気持ちでおります。
 そういう意味からも、時間が限定されていますもので、できうるかぎり、焦点をしぼった対談のもっていき方を、と私は考えております。
 どうか率直に語ってください。
 キッシンジャー 先生のトインビー博士との対談、またペッチェイ博士との対談を読みました。
 池田 それは、それは、ありがとうございます。
 キッシンジャー 大変に啓発的な、また優れた洞察の対談集です。
 池田 恐縮です。
 キッシンジャー これは対談集にも書かれておりましたが、対談を行った後に、往復書簡による意見の交換があり、また双方がそれぞれ原稿を読む時間があったということで、私もぜひそのようにご配慮いただきたいと思っております。もちろん、私の発言だけで結構です。
 池田 全部了解です。後世に残すべき、大事な歴史的証言である。ですから、当然、推敲もしてもらいたい。添削もしていきたい。まあ、互いに時間がない。多忙ななかですから、それも無理かもしれませんが。(大笑い)
 ともかく、粗茶ですけれども、東洋流で、お茶を一杯、召し上がってください。
 じつは一昨日、創価大学に行った。その折、数千人の学生と会い、語りあった。その会合の終わったあと、博士とお目にかかることを知っている学生が、ぜひ、会ったらよろしくお伝えください、また、国際情勢をぜひとも、聞いてほしい(笑い)と言っていました。
 まあ、そういう意味から、学生や日本のジャーナリストや、または、指導階層の人々がぜひ聞きたいという問題から、私は話を進めていきます。
 なお、私はこれまでも多くの世界的に活躍している人々と対談してきた。またこれからも、していきたいと思っている。しかし、実践者として、行動者としての優れた指導者といえば、まあ、キッシンジャー博士ではないかと思っております。その意味から、私も無駄のないように対話を進めていきたい。
 と同時に、これまでどちらかというと、博士の思想的深さ、哲学的深さというものがあまり引き出されていない。その思想的、哲学的な、博士の内奥から昇華されたものを、私は期待したいし、それをつかみたい、引き出したいと思っている。この点もご理解願いたい。
2  米ソ首脳会談の重要性
 米ソ・サミットは平和への展望を前進させる一つの手段
 池田 それでは本題に入りたいと思います。
 ここ数年来、私は米ソ(=ソ連)最高首脳の会談が、世界の平和のために不可欠なことを、機会あるごとに主張してきた。
 一九八一年五月、私が三たびソ連を訪れたさい、当時のチーホノフ首相との会見では、ソ連首脳に対し「モスクワを離れて、スイスなどの良き地を選んで、アメリカ大統領と話しあいの場を徹底して開いてくれれば、どれほどか全人類は安堵するであろう」と、呼びかけました。
 その後も、いくたびか提言を通して、米ソ首脳会談の早期開催を要望してきました。世界の平和に大きな責任をもつ米ソの最高首脳が、まず万難を排して会うことから、また何回も対話を重ねることから、行き詰まりを打開する大胆な発想と行動も、勇気ある決断も生まれてくるというのが、私の確信だからである。
 もとより、私は米ソ関係の今後を楽観視しているわけではない。とりわけ核軍縮の実質的成果が、米ソ首脳会談の最大の焦点となっており、この面での進展は予断を許しません。
 しかし、世界の多くの良識ある人々の願いは、さらに硬直化しかねない現状を、なんとか打開する方途を両国首脳が見いだしてもらいたい、またそれをすべてに最優先して取り組んでもらいたい、ということです。
 キッシンジャー 私は五回、米ソ首脳会談に参加しております。そのほかにも、私自身の立場でソ連のトップの方々と会談しました。ですから、私はもちろん、米ソ両国の首脳会談が重要であると確信しております。
 このサミットが重要であるというのは、一つには、米ソ両国民がそれを望んでいるからです。また一つには、世界のあらゆる国民がそれを望んでいるからです。そして、なかんずく、米ソ・サミットが平和への展望を前進させる一つの手段だからです。
 今、私はもちろんアメリカ人としての考え方で話をしておりますが、同時に、未来のために何かを築いていこうとする為政者は、相手の考え方も考慮に入れなければならないと信じております。
 当事者の一方のみを利するような協定など絶対に結べるわけがありません。一方的な協定が守られることはないからです。
 国際関係の本質がわからない人々にかぎって、会う人ごとに違った話をしてもかまわないだろうとか、自分たちが利益を独り占めにできるとか、考えるものです。国際関係においては、つねに相互の利益を考えなければなりません。
 現在問題となっているのは、現代の国家には多数の官僚機構があり、それらがいずれも自分の目先の関心事にのみ力を注いでいるということです。これはとくに共産圏諸国で問題になっていると思います。というのは、共産圏諸国には〈抑制と均衡〉がないからです。
 したがって、米ソ首脳会談で最も重要なのは哲学的側面である、というのが私の持論です。
 私たち(アメリカ側)はソ連側に働きかけて、ソ連の機構からは生じることのないようなさまざまな問題を考慮するように仕向けることができます。
 米大統領がソ連書記長と会談するさいには、大統領が話したり書いたりしたことは、逐一、ソ連側に目を通してもらわなければなりません。認めるかどうかは別にして、ともかく目を通してもらうことです。
3  ですから私は、今度の会談、またその後に予想される何度かの会談が、ただ今お話しした程度の哲学的な理解に役立つことを望んできました。
 池田 確かなるポイントです。しからば、今後の米ソ首脳会談のもっていき方をどう考えますか。きわめて流動的ですが、新しい発展はあると思いますか。全世界が期待しているけれども、その期待に答えが出ると思いますか。
 キッシンジャー 二つの多少矛盾する問題があると思います。
 一つはもちろん、条約を結びたいということです。もう一つは、それと同時に現状になんらかの変革をもたらしたいということです。
 条約のための条約にならないよう、注意しなければなりません。われわれがなすべきことは、現状を改善することであります。

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