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日蓮大聖人・池田大作

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第十三章 “地球生まれの宇宙…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
1  現代文明の危機を超えて
 ログノフ この対談では、池田先生から「科学と宗教」という遠大なテーマを与えていただき、私なりに深く思索することができました。心から感謝しております。
 池田 いえいえ、とんでもありません。博士から多くの示唆に富んだお話をうかがうことができ、私こそ御礼申し上げます。ただ、お互いに限られた時間のなかでの対談であり、十分に語り尽くせないところも多々ありました。それは引きつづき今後の課題とし、また若き優秀な青年たちが深めていってくれることを期待したいと思います。
 ログノフ 賛成です。この対談が、「科学と宗教」をめぐる大いなる語らいの“序章”となれば、これ以上にうれしいことはありません。
 ―― 二十一世紀を志向した、池田先生のハーバード大学での二度目の講演は、大きな反響を呼んでいます。ノーベル化学賞を受賞したダドリー・ハーシュバック教授も、“池田先生の講演は、人類に対するすばらしいメッセージであった”と、絶賛していたそうです。
 ログノフ 私もさっそく、内容をうかがいました。現代文明の課題を乗り越えるための仏法の視座が、明快に、そして鮮烈に説かれていたと思います。とくに、“生も歓喜、死も歓喜”との仏法の生死観は、多くの西洋人にとって驚きだったにちがいありません。
 池田 恐縮です。ともすると、現代人が避けて通ろうとしがちな「生死」という根源的な問題を、私なりに正面から取り上げたつもりですが、予想していた以上に仏法の哲理に対する関心が深まっていることを感じました。
2  ログノフ この七月、私の長男オレグが亡くなりました。息子の死を契機として、「生死」の問題をさらに真剣に考えました。そのような時だっただけに、池田先生の講演はひときわ感銘深く、私の心に刻まれました。
 池田 ちょうどアメリカに出発する少し前に、ご子息の訃報に接しました。四年ほど前、ログノフ博士とオレグさんが来日されたおり、ご一緒に親しく懇談したことが忘れられません。聡明なすばらしい青年科学者でした。最愛のご子息を亡くされた博士のご心情、痛いほどわかります。
 ログノフ その節は、さっそく真心こもる弔電をいただき、ありがとうございました。
 池田 私は仏法者として、ねんごろに追善させていただきました。ハーバード大学の講演でも、ご子息の墓前に捧げる思いで、仏法の生死論を展開してまいりました。
 ログノフ 慈愛あふれる励ましの言葉、心より感謝します。息子にとってもなによりの喜びだと思います。私はこれから、息子の分まで精一杯生きていくつもりです。ここでも二十一世紀のために語り合いましょう。
3  ―― 私どもの現代文明を、歴史上の他の文明と区別するものは、いうまでもなく、科学的文明であるという点にあります。その科学技術文明は、今、さまざまな局面で見直しを迫られています。
 ログノフ 核兵器の脅威、熱帯雨林の消失や砂漠化など生態系の破壊、地球温暖化、異常気象の進行。また、南北格差の拡大や、先進国を中心とする精神病理の広がり。発展途上国での飢餓の深刻化、あるいは民族・宗教間の抗争など――現代文明はかつてない危機に直面しています。人類文明は、未来に希望を見いだせるか否かという、大きな転換点にさしかかっているといえるでしょう。
 池田 そうした危機の根底には、科学技術が飛躍的に進歩したにもかかわらず、人間の精神的な側面が取り残され、むしろ衰弱してしまった現実があります。
 フランスの行動する作家アンドレ・マルロー氏とは、私も対談を重ねましたが、“二十一世紀は精神性の時代になるであろう”(『人間革命と人間の条件』聖教文庫)と予見しておりました。これは今や、洋の東西を問わず、共通の認識となっています。
 ログノフ おっしゃるとおりだと思います。わが国の現状を見ても、“精神的なもの”の復興が、今ほど必要とされている時代はありません。
 池田 その精神復興の過程においては、現代文明を支えている科学技術のあり方が、人間との関係性のうえから、問い直されなくてはならない。そして、根底にある自然観や世界観、いわば哲学自体が変革されなくてはなりません。
 ―― “地球的危機”を、どのように乗り越えるか。もう二十年以上も前に、歴史学者のトインビー博士は、池田先生との対談(『二十一世紀への対話』、本全集第3巻収録)で、「高等宗教」への期待を語っておられましたね。
 池田 現代文明の内包する危機を克服するには、物質文明の発展と精神文明の衰弱との、深い“溝”を埋めなくてはならない。民族や国家の枠組みを超えた「世界宗教」こそが、精神文明復興のカギを握っているとの認識で、博士と完全に一致しました。
 ログノフ 残念ながら、トインビー博士の本を、私は読んだことがありません。といいますのは、わが国ではこれまで、イデオロギーが障害となって、多くの作品が翻訳されてこなかったのです。私も、西洋の科学技術や物の考え方は、あまりに物質的な側面に偏りすぎてしまったと思います。

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