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第十章 壮大なる人類誕生のド…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  「生命進化」の“カレンダー”
 ―― ここでは、私たち人間の起源はどこにあるのか、「生命誕生の謎」と「進化の流れ」について、語り合っていただければと思います。
 池田 むずかしいテーマになりましたね。しかし、一つの焦点です。人類はいずこより来り、いずこへ行かんとするか――。二十一世紀のためにも、ぜひ光を当てておきたい。
 ログノフ 生命の誕生は、宇宙の始まりと同様、人類のルーツを探る大きな課題であり、わが国でも熱心に研究されてきました。
 ―― 「生命進化」の“流れ”を見ていく意味で、地球ができてから現在までの四十六億年を、「一年」に当てはめてみてはどうでしょうか。地球の始まりを「元日の午前零時」とすると、最初に“生命”が現れたのは、何月ごろになりますか。
 ログノフ 四十億年ほど前ですから、「二月の中旬」ということになります。六億年という準備期間を経て“原始の海”に蓄積されてきた有機化合物から、原始生物が誕生するのです。
 池田 生物が登場することによって、地球それ自体も変わり始めた。現在の地球のように、大気が酸素で満たされるのは、光合成生物が現れてからですね。
 ログノフ そうです。二十億年ほど前のラン藻の化石が発見されていますから、「七月」くらいになります。このラン藻類の出現によって、地球をとりまく大気が現在のように酸素を含むものになったのです。
 池田 では、生物が“原始の海”から陸に上がってくるのは、いつごろですか。
 ログノフ 今から四億年ほど前ですから、もう「十一月下旬」になってしまいます。まず、植物が上陸をはじめ、それにつづいて動物も陸に上がってきます。さらに哺乳類の時代がくるのは、「十二月の半ば」です。
 池田 そうしますと、人類の出現は「大晦日」あたりですか。
 ログノフ ええ。しかも「夜の八時ごろ」です。(笑い)
 ―― 八十万年前の北京原人の登場はどうですか。
 ログノフ 北京原人ですと、「大晦日」の「午後十時三十分過ぎ」です。
 池田 日本でも最近、宮城県の高森遺跡から、北京原人と同時代と推定される石器が出土し、注目されました。「原人」(ホモ・エレクトス)は言葉をもち、複雑な石器を使い、火を利用していたとされます。それからわずか「一時間半」ほどの間に、近代科学の「文明の火」がともされた。考えれば考えるほど、劇的な変化であったといえます。
 ログノフ そうですね。メソポタミア文明、インダス文明など、四大文明が現れるのが約五千年前。これは「午後十一時五十九分二十六秒」です。
 ―― 文明の出現は、ほんの「三十秒ほど前」ですか。
 ログノフ さらに、西洋近代科学についていえば、その始まりは三百年前ですから、わずか「二秒前」にあたります。
 池田 地球の誕生以降という限られた時間をとってみても、われわれの文明がいかに新しい存在であるか。さらに宇宙に目を広げれば、生命や人類の誕生の背景に、時間的にも空間的にも、奥深い広がりが見えてくる。
 ログノフ そのとおりです。敬虔な思いを禁じえません。
2  尊厳なるドラマ“生命の誕生
 ―― 驚くべきことに、母親の胎内では、この地球上の「進化」のドラマが“再現”されるといわれますが。
 池田 胎児の世界、またそこに刻まれた長遠な生命の記憶については、さまざまな報告があります。
 たとえば、三木成夫博士は、生命の発生から人類の出現にいたるまでの「生物進化」の歴史を“再現”しつつ、人はこの世に誕生してくるとし、胎児の成長の過程にみられる、他の生物との形態の類似性を指摘しています。(『胎児の世界』中央公論社を参照)
 ―― 胎児は「羊水」の中で「十月十日」を過ごしますが、それは原始の生命が育まれた“太古の海”にも擬せられますね。
 池田 胎児にとって“生命の水”である「羊水」は、“太古の海”そのものといえるでしょう。
 その中で一個の受精卵は分裂・分化を繰り返し、心臓や呼吸器が作られ、脳が形成されていきます。
 そして受精後二カ月までには、身体の主要な器官の原型がほとんどできあがります。
 ログノフ 十九世紀のドイツの生物学者ヘッケルは、「個体発生は系統発生を繰り返す」と言っていますが、たしかに個体の発生過程には、「生物進化」の歴史を連想させるものがあると思います。
 池田 地球上の“太古の海”に誕生した生命は、今から四億年ほど前に約一億年の歳月をかけて、“海”から“陸”へと上がってきました。
 母親の胎内では、一億年を費やした脊椎動物の“上陸のドラマ”がほぼ一週間に凝縮して劇的に“再現”されるといいます。これは受胎後一カ月ごろのことです。
 ログノフ 一カ月目というと、胎児はまだ体長五ミリ程度でしょうか。
 池田 ええ、そのくらいです。ヘッケル博士によると、三十二日目の胎児は、まだ“魚類のエラ”の形(鰓裂)をあざやかに残している。
 それが、三十四日目になると、鼻の穴ができて両生類のおもかげが現れ、その二日後には、目が正面を向きはじめ、爬虫類の相貌に近づいてくるというのです。
 ログノフ 「生物進化」の“系統樹”をたどっていくと、魚類から両生類、爬虫類、哺乳類、そして人類の起源へといたります。
 胎児も、生物の「進化」と同様に、魚の時代から両生類、爬虫類の時代を経ておりますね。
 池田 さらに、胎児の顔貌に哺乳類の特徴が現れるのは、三十八日目です。四十日目を迎えると、ようやく「ヒト」と呼べる顔立ちになってくる。
 ―― なるほど。生命誕生の重み、また母胎の不可思議さをあらためて痛感します。
 池田 仏法が生命の尊厳性を「宝塔」として表していることは、前にも申し上げました。
 経典では、「宝塔」は「宝浄世界」から出現すると説かれている。日蓮大聖人はこの「宝浄世界」を「母の胎内是なり」と示され、「宝塔とは我等が五輪・五大なりしかるに詑胎たくたいの胎を宝浄世界と云う故に出胎する処を涌現と云うなり」と説かれています。
 「宝塔」とは胎児の生命であり、その「宝塔」を育む母親の胎内は「宝浄世界」である。
 ログノフ かけがえのない生命を誕生させる母胎を「宝浄世界」というのは、ピッタリの表現ですね。
 仏法の生命尊厳の哲理は、たいへん勉強になります。
 池田 そして大聖人は、「出胎する処を涌現と云うなり」と言われている。一個の生命は、母胎という存在の基盤より“涌き出ずる”がごとく誕生する、ととらえられております。
 ―― 最近の研究では、胎児の側から母親に、出産のタイミングを知らせるシグナルが送られることによって、母胎が出産の準備に入るということがわかってきたそうです。
 いよいよ誕生の時が近づいてくると、胎児は自分のほうからプロラクチンというホルモンを分泌して、母胎に出産の合図を送るといいます。
 池田 そうですか。そうした主体的な誕生の姿は、仏法の“涌現”という表現に合致するように思います。
 一人一人が、尊き使命を果たさんがために、みずから願い求めて、この世に“涌現”する――。生命誕生のドラマは、このことを強く語りかけています。
 ログノフ 本当にそうだと思います。
3  生命発生の謎を解く
 ―― 生命の起源について、生物学的な意味での第一の功労者としては、ロシアの著名な生化学者A・オパーリンがあげられますね。
 池田 私も青年時代に学びました。
 最初に無機物から有機物ができ、簡単な有機物がしだいに進化し、より複雑なものになっていった。その結果として、原始的な生命が発生したとする「化学進化」の仮説を、彼は一九二四年に発表しました。
 彼の『生命の起源』は、学界に大きな反響を呼び、その後の研究は、「オパーリンの仮説」を軸に展開しています。
 ログノフ オパーリンの学説についての評価は、以前の対談『第三の虹の橋』の中でも、若干申し上げました。
 シカゴ大学のユーリーとミラーは、この仮説を確かめる実験を行っています。フラスコの中に原始地球の“大気”を再現し、六万ボルトもの高圧の放電を断続的に繰り返したところ、一週間余りで乳酸やアスパラギン酸など十数種類の有機化合物が発生した。
 “原始の海”には、これらの有機物質が溶け込み、温かくて栄養分の濃い「スープ」がつくられていました。
 池田 まさに“母なる海”“生命の海”です。
 ログノフ イギリスの生物学者ホールデーンは、生命はその“原始の海”から誕生したという仮説を提唱しています。
 そして、形成された有機物は、より大きな分子へと成長しながら、DNA(デオキシリボ核酸)やタンパク質といった“生命体”の基本素材の形成を経て、次の「生物進化」の段階へと入っていきます。
 池田 すべての生物はDNAという遺伝情報をもっています。生命の起源を、DNAに求める考え方がありますが、これについて博士はどうお考えですか。
 ログノフ 生物学的な意味での“生命の条件”の一つとして、「自己複製」できるということがありますが、それを可能にしているのはDNAです。生物にとって重要な、あらゆる機能を発揮するタンパク質を作る情報は、DNAにあります。したがって、DNAに生命の起源を求めることは、おおむね間違いないといえるでしょう。
 ただ、タンパク質を作る情報はDNAにあるのですが、そのDNAはタンパク質からなる酵素の助けがないと、形成されません。ですから、どちらが先に現れたのかという“難問”があります。
 ―― DNAが先か、タンパク質が先かという迷路に入っていったわけですね。
 ログノフ 最近になって、核酸の一種であるRNA(リボ核酸)がタンパク質の助けを借りないで、自分自身を切断―連結する触媒反応を行うことが発見されたことによって、その問題は大きく解明に近づきました。
 池田 RNAというのは、一言でいうとどういうものですか。
 ログノフ RNAは、DNAの遺伝情報を運搬したり、伝えたりする媒体です。その脇役であったはずのRNAに、生命の起源の“鍵”が隠されていたというので、ほとんどの学者が、腰を抜かさんばかりに驚いたのです。
 池田 ポーリング博士も、そのことを話されていました。
 ログノフ お互いを抜きにしては存在しえないDNAとタンパク質が、最初どのようにできたのかということは、これまで生物学上の大問題でした。しかし今では、有機物の「化学進化」が繰り広げられる“原始の海”の中で、RNAが自然に生成されたということ、すなわち、DNAの出現する前段階に、RNAの独自の世界(RNAワールド)があったということが、広く認められるようになってきています。
 これによって、地球上の無機物質から有機物ができ、RNA、DNAが形成され、原始的な細胞からより高次な生命体が生まれ、植物や動物、そして人間が誕生してきたという、「化学進化」「生物進化」の“道筋”が明らかになったのです。

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