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第九章 新しき「宇宙文明」の…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  ホイル博士の『暗黒星雲』を読む
 ―― 「宇宙論」に引き続き、「宇宙文明」をテーマにお願いしたいと思います。
 先日、アメリカのSDI計画(宇宙空間に及ぶ戦略防衛構想)の中止が発表されました(一九九三年五月十三日)が、新しい世界の潮流をあらためて印象づける出来事でした。
 ログノフ 時代の大きな転換ですね。われわれは、宇宙まで“対立の戦場”にしてはなりません。宇宙は“人類の夢”を育む新天地です。
 池田 まったく同感です。宇宙は、人間の知性が高度に発揮される英知の場であり、国家や民族を超えて、人類の一体感をもたらす、大いなる飛躍の舞台でなければならない。それこそ人類の進歩の証となるからです。
 ―― 「宇宙は生命の活動である」と言ったフランスの思想家がいました。多くの優れた科学者が、宇宙を題材としたSF(科学小説)を書いているのも、生命の神秘への憧憬があるからだと思います。
 ログノフ ロシアの“ロケットの父”ツィオルコフスキーも、科学的な啓蒙のためにSFを書いています。彼の描いた月世界旅行は、当時の人々の心をとらえ、宇宙への大いなる夢をかきたてました。
 ロシア生まれの生化学者アイザック・アシモフも、『銀河帝国衰亡史』や『宇宙の小石』などの傑作で、世界的によく知られています。
 池田 イギリスのH・G・ウェルズは、“SFの父”として有名ですが、彼はロンドン近郊にあるイギリスSGI(創価学会インタナショナル)のタプロー・コート総合文化センターに滞在したことがあるんです。
 一昨年(一九九一年)、そのタプロー・コートでお会いした天文学者のホイル博士にも、『暗黒星雲』(鈴木敬信訳、法政大学出版局)というSFの名作があります。
 ログノフ その本は有名です。私も聞いたことがあります。
 池田 この小説ではET(地球外知性)との遭遇をあつかっています。あるとき、木星ほどの大きさの「暗黒星雲」が、地球に接近してくる。その星雲が日光を遮り、地球は大混乱におちいる。
 しかも、その星雲には生命体としての“知性”が存在することが判明する。彼らとのさまざまなやりとりを経て、最後は、平和裏に「暗黒星雲」が立ち去っていくというストーリーです。
 ―― 今から三十五年も前になるでしょうか、私も学生時代に夢中になって読んだことがあります。天文学や物理学の裏づけは、現在からみても、見事なものだと思います。
 ログノフ博士、実際の「暗黒星雲」とは、どのようなものですか。
 ログノフ 夜空を眺めたとき、天の川のなかにあまり星の見えないところがありますが、そこには星がないのではなく、ガス雲のため見えなくなっているのです。「暗黒星雲」は、希薄で巨大な分子雲です。
 一光年(約十兆キロメートル)以上もの大きさをもつため、みずからの重力によって、一千万分の一程度にまで縮んでしまいます。そのような高密度の星雲では、新しい星が次々と誕生します。
 ―― ホイル博士との宇宙談義は、いかがでしたか。
 池田 一つには、「地球は宇宙へ開かれた箱である」という理念をめぐって語り合いました。太陽も惑星も、宇宙で起こる出来事の影響の外にはない。ホイル博士の考え方は、“内なる生命”と“外なる生命”の相関を説く、仏法の理念にも通じると、私は感銘を深くしました。
 ホイル博士たちが、SFをとおして呼びかけているものは、はるかなる宇宙との結びつきのなかで、人間と地球を見つめ直していく“開かれた精神”です。
 ログノフ この地球と人間だけが唯一の特別な存在であるとするのは、偏狭な考え方です。“開かれた精神”“開かれた思考”が重要です。
 池田 仏法の法理も、縦には永遠という時間、横には無限の宇宙という広がりのなかで、人間と生命をとらえています。宇宙は科学の探究の世界であるとともに、偉大なる精神性の世界であり、深遠なる哲学性・宗教性の世界ともいえるでしょう。
 ログノフ たしかにそうです。私たち科学者も、たまには実験や観測をはなれて、はるかなる天空を見つめながら、ゆっくりと思索するような時間をもちたいものです。まあ、現実には、なかなかそうもできませんが。(笑い)
2  「宝塔」――荘厳なる生命の輝き
 ―― 最近、アメリカの科学誌「サイエンス」に発表された学説(「朝日新聞」一九九三年四月三日付)によりますと、宇宙空間には無数の“超微小ダイヤモンド”が漂っており、昨年(一九九二年)一年間の観測だけでも、数十トンにのぼる“微小ダイヤ”の存在が確認されたといいます。
 池田 博士はそのことについて、何か聞かれていますか。
 ログノフ いえ、詳しくは聞いておりません。しかし、宇宙空間には、金や銀などの元素も存在することが知られておりますし、十分に考えられることだと思います。
 池田 そうですか。『法華経』には、金や銀などの宝をちりばめた巨大な塔が、空中に出現する儀式があります(「仏前に七宝の塔あり。高さ五百由旬、縦広二百五十由旬なり。地より涌出して、空中に住在す」)。五百由旬といいますから、現代的には、およそ地球の直径の三分の二もの高さになります。それは「金」「銀」「瑠璃」「硨磲」「碼碯」「真珠」「珊瑚」の“七宝”で荘厳された多宝の塔であり、かぐわしい多摩羅跋栴檀の香りを宇宙全体に放ちます。
 ―― この「宝塔」は、巨大UFOであったと言う人もいますが。(笑い)
 池田 『法華経』の会座で、釈尊は「宝塔」を開くにあたって、現在、過去、未来の三世にわたる「十方の諸仏」を集合させます。そして、「宝塔」の中の多宝如来という仏が、大宇宙に轟くような大音声を発し、釈尊の『法華経』の説法が真実であることを証明するのです。
 ログノフ 宝に輝く巨大な塔、そしてそこに繰り広げられる荘厳な儀式――いったい、これは何を表しているのでしょうか。
 池田 この「宝塔」について、日蓮大聖人は「宝とは五陰なり塔とは和合なり五陰和合を以て宝塔と云うなり」と示されています。
 「五陰和合」したもの、すなわち私たちの生命そのものが「宝塔」であり、無限の可能性をもつ「小宇宙」である。その意味で、「宝塔」の巨大さと荘厳さは、人間生命の宇宙的な広がりと尊厳性を表象しているといえます。
 さらに、『法華経』の全体が開示する究極の法理に、「一念三千」論があります。
 これは人間の“一念”が、森羅万象の“三千”という次元へと遍満し、また全宇宙を包含しゆくという仏の悟りを示すものです。言い換えれば、「宇宙即我」「大宇宙即小宇宙」という真理を示しています。
 したがって、「宝塔」としての人間の“一念”の中に、仏・菩薩も、あらゆる生命的存在も収まってくる。
 この法理を、日蓮大聖人は、「一心法界の旨とは十界三千の依正色心・非情草木・虚空刹土いづれも除かず・ちりも残らず一念の心に収めて此の一念の心・法界に徧満へんまんするを指して万法とは云うなり」と述べておられます。
 ログノフ 仏法では、宇宙との関連のなかで、ダイナミックに人間という存在をとらえている。その点については、私も大いに共感をおぼえます。
3  未知との遭遇“SETI”
 ―― 宇宙は“生命の謎に満ちた空間です。一九九二年から九四年までが“国際宇宙年(ISY)”ということもあって、最近、世界的にSETI(地球外知性探査計画)への積極的な取り組みがなされています。一九八二年には「国際天文学連合」のなかに正式な分科会ができ、今では「宇宙生物学」の一分野となっています。
 池田 日本ではどうですか。
 ―― 日本でも、その分野の主だった研究者を糾合して、「宇宙生物科学会」が結成され、活発に研究が進められています。
 ログノフ 旧ソ連にも、「地球外知性探査」を計画し、実行する国家委員会がありました。ヨーロッパからシベリアまでユーラシア大陸に配備された電波望遠鏡で、同時に受信されるパルス(脈動する電波信号)の検出を試みました。
 しかし、残念ながら現在のロシアでは、この研究を進めるような状況にはありません。こうした巨大事業には、国家的な規模での取り組みが必要です。
 池田 この大宇宙に存在するであろう、まだ見ぬ隣人を探し求め、地球へのメッセージを読み取ることは、人類の一つの夢ですね。
 科学者にとって、こうした探査はどのような意味をもっていますか。
 ログノフ それぞれ立場は異なりますが、一つはET(地球外知性)が実際にいるのかどうかという知的関心であり、もう一つは、人類の文明の未来を理解する手がかりとしての意味があると思います。
 池田 主な手段としては、「電波」の利用になりますね。
 ログノフ 「地球外文明」との接触があるとすれば、初めはもちろん「電波」によってでしょう。地球から最も近い恒星でも約四光年離れていますから、電波による交信で、すぐに返事が来たとしても、八年はかかる。ましてや、既存のロケットでそこまで行くとしたら、十万年もの膨大な時間がかかってしまいます。
 ―― 現実的には、困難が多いわけですね。
 池田 太陽のような恒星も、アンドロメダ星雲のような天体も、それ自体が「電波」を放っているといいますが。
 ログノフ そのとおりです。星から出ているのは光だけではなく、より多くの情報をもった「電波」も出しています。ですから、「電波望遠鏡」を用いることで、正確な星の観測が可能となります。
 私たちは普通、大気の振動を音として感知しますが、それと同じように、宇宙に遍満する電波を受信すれば、「宇宙の音」を聴くことができます。
 ―― 惑星の運行軌道のデータをコンピュータ-に入力して、それを“翻訳”した「宇宙の音」(山折哲雄『神秘体験』講談社現代新書)というのがあるそうです。それを繰り返し聴いていると、鳥のさえずるような音や、風がそよぐような音、さらに蒸気機関車が走るような音までが、鼓膜に響きだすといいます。
 若干、人工的な気もしますが。(笑い)

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