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日蓮大聖人・池田大作

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第七章 アインシュタインを超…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  ゴルバチョフ氏との再会
 ―― 先日、ゴルバチョフ元ソ連大統領が創価大学を訪問し、「人類の未来と新思考の哲学」と題して講演されましたね。(一九九三年四月二十四日)
 池田 たいへんに多忙なスケジュールのなか、三年前の約束を果たしてくださいました。創価大学の大きな歴史をつくっていただき、感謝しております。
 ログノフ 創価大学と兄弟の関係にある、わがモスクワ大学にとっても、うれしいニュースでした。
 ―― ゴルバチョフ氏は講演で、ペレストロイカは冷戦における敗北宣言ではなく、民衆の“精神的・道徳的勝利”である、と強調していましたが。
 池田 氏は「ペレストロイカはロシアにおける“精神のルネサンス”を標榜したものでした」、また「私は希望を捨てていません。(人類が進むべき)道は必ず見つかると信じています」と強く語っておられました。
 ログノフ 一九八五年、ゴルバチョフ氏によって始められたペレストロイカの運動は、多くの困難に直面し、ロシア国内において、必ずしも肯定的に評価されているとはいえません。
 しかし、米ソを機軸とする冷戦構造を終結させた歴史的役割は、後世の人々から称賛されるであろうことを、私は疑っておりません。
 池田 同感です。すべては二百年後の人類が証明します。まずは三十年先に焦点を当てて、壮大な歴史の実験を見ていくべきであると、語り合いました。
 ログノフ ゴルバチョフ氏にとって、なによりの励ましだと思います。一九九〇年七月、池田先生とゴルバチョフ大統領が、モスクワのクレムリンで初めて会われたときの光景は、今もって忘れられません。偉大な人格の出会いでした。崇高な一時でした。
 池田 懐かしいです。あのときもたいへんにお世話になりました。すべてログノフ先生、また多くの友人の方々のおかげです。今回再会したライサ夫人もお元気そうで、安心しました。
 ログノフ そうですか。それはよかった。
 池田 ともかく、博士たちが寄せてくださった友情、ご厚情を、私は生涯忘れません。
 ログノフ 私のほうこそ感謝の気持ちでいっぱいです。
 ―― それにしても、約二十年前、池田先生が初めて訪ソしたとき、宗教者が共産主義の国に何をしに行くのかという無認識な陰口がありましたが、先生は「私は人間に会いに行くのです」と、毅然と行動された――。
 池田 時代は大きく動いています。固定観念にとらわれていては、個人も団体も国家も、時代から取り残されていかざるをえない。これは歴史の必然です。
 ―― ロシアでも、これほど価値観が変化するとは、だれも予想しませんでしたね。
 池田 思想や哲学が違っても、そこにいるのは平和と幸福を願う同じ人間です。まず、心を開いて話し合うことです。そして理解し合うことです。
 ログノフ そのとおりだと思います。
 池田 ゴルバチョフ氏も「世界宗教の存在抜きに新しい時代は開けない」と明快に言われていた。深く人類の未来を洞察するならば、科学と人間、そして科学と宗教の対話は、歴史的、文明論的にも必然的な課題といえるのではないでしょうか。
2  「相対論」とポアンカレの業績
 ―― この章のテーマは「宇宙論」ですが、博士の新しい「重力理論」は、アインシュタインの「相対性理論」をさらに発展させているということでした。きょうは、そのへんを語っていただければと思います。また仏法の宇宙観にもふれていただきたいと思います。
 池田 日本の読者も興味があると思います。きょうはログノフ博士の宇宙論を、まず、じっくりうかがいたい。
 ログノフ わかりました。現代の宇宙論を語るうえで、「相対性理論」はきわめて重要です。それは物理学や科学のみならず、哲学にとっても画期的なものであり、二十世紀という時代に多くの進歩をもたらしました。
 ―― 一九二二年(大正十一年)、アインシュタインが来日したとき、日本各地で講演しています。ちょうど日本へ向かう船の上で、ノーベル賞受賞の知らせを受けていますが、当時すでに博士の名声は世界中に鳴り渡り、日本各地でも大歓迎だったようです。
 池田 私の恩師である戸田城聖先生も、その講演を聴きに行き、そのときの鮮烈な印象を青年によく語ってくれました。
 恩師は「将来のために、一流の人物を知っておきなさい」と言われていました。
 ログノフ 池田先生は、すばらしい恩師をもたれて本当に幸福ですね。そのときの講演の内容は残っていますか。
 池田 ええ、本(石原純『アインシュタイン講演録』東京図書)になっています。「一般相対性理論」は、いつ、どこで生まれたのか。博士が勤務先(ベルン特許局)で椅子に座っていたとき、自由落下している人、たとえば落下するエレベーターの中にいる人は、自分の重さを感じないにちがいないとの、突然のひらめきから生まれたというエピソードも紹介されていました。
 ログノフ 動いている列車を立ち止まっている人が見た場合と、自転車で追いかける人が見た場合とでは、見える列車の速度は違ってきます。同様に、光を追って進む人には、光の速度は遅く見えるのか。また、光と同じ速度で追いかけたとしたら、光は止まって見えるのか――アインシュタインの“問い”は、まさしく核心をつくもので、そこから画期的な理論が導き出されたのです。
 池田 アインシュタインが“問い”の天才と呼ばれる所以です。的確な“問い”のなかには、すでに解答の本質的な部分が含まれているといってよい。仏法でも、“問い”を発して仏の説法を請う人のことを「発起衆」といい、重要視しています。日常的な次元でも、的を射た“問い”は、実り多い対話をもたらします。
 ログノフ ただし、アインシュタインの「相対性理論」のなかには、まさかと思うような間違いがあります。
 ―― それが博士たちの研究の、一つのテーマになっているわけですね。
 ログノフ どんな人間でも間違えることはあります。誤りの部分を訂正し、さらに発展させていくところに、学問の進歩もあるのです。盲目的に、ドグマティック(教条的)に信じることは危険です。権威に惑わされないことが大切です。
 私たちはこの十数年間、「一般相対性理論」と自然の基本法則である「エネルギー保存の法則」の関係を綿密に調べ、どこがおかしいのかを、明らかにしようとしてきました。私の考えでは、「一般相対性理論」は「エネルギー保存の法則」が欠けている点で不十分なのです。
 ―― 衝撃的なお話です。
 ログノフ そして「相対性理論」について論ずるとき、アインシュタインと同様に、フランスのアンリ・ポアンカレの存在を見逃すことはできません。
 私は『アンリ・ポアンカレの業績に寄せて』という本を書いています。これはポアンカレの論文に私が注釈を加えたものですが、その中で私は、彼こそが「相対性理論」を独自に打ち立てた人物であることを証明したのです。
 池田 ポアンカレは「最後の万能学者」とも呼ばれていますが、博士はいつごろ着目されたのですか。
 ログノフ 本格的に取り組んだのは、五十歳を過ぎてからです。休暇中にプロトヴィノで彼の本を読み、その考えの深さに驚きました。
 学生のころは、ただ置いてあるだけで、読んでいませんでしたが。
 ―― ポアンカレが、有名な『科学と仮説』を出版したのは一九〇二年です。日本では一九三七年に翻訳出版されています。
 四半世紀あとに誕生したアインシュタインは、ポアンカレに啓発されていたのでしょうか。
 ログノフ 少なからず影響を受けたと思います。ポアンカレは、高速のもとでの「力学の法則」、すなわち「相対論的力学」も書いています。その力学に従って、私どもの高エネルギー加速器も研究されているのです。
 池田 博士の出された本の反響はいかがでしたか。
 ログノフ 最初は非常に厳しかったですね。「相対性理論」はアインシュタインが発見したものなのに、どうして異説を唱えるのかというわけです。しかし、徐々にではありますが、人々の理解を得られるようになりました。アメリカの物理学者リチャード・ファインマンなども、同じような意見をもっていました。
 ノーベル物理学賞を受けたヤン博士にもこのことを話しましたが、たいへん驚いていました。彼との約束で、この本を英語で出版することになり、今、私どものところで翻訳しています。
 池田 尊いことです。私たちの知らないところで、正当に評価されないまま、歴史に埋もれている先人の偉大な業績が、まだまだあるのではないでしょうか。
3  大きな重力は「空間」を曲げる
 ログノフ ポアンカレが、おもしろい“思考実験”をとりあげています。
 ある人が一晩眠っている間に、宇宙のすべてのものが一千倍大きくなったとします。本人はもちろんのこと、ベッドやテーブルも、まわりの建物も、そして地球や太陽、星など、あらゆるものが同じように大きくなったとする。
 ―― “科学版・ガリバーの冒険”といったところですね。
 ログノフ その人が目覚めたときに、何か変化があったとわかるか。本人自身が大きくなったことを証明することができるか――。ポアンカレの答えは「ノー」でした。
 池田 大きさとか長さというのは、何かと何かを比較して、初めて意味をもつものだということですね。この世界と関係のない、絶対的な“物差し”など存在しない……。
 ログノフ そうです。絶対的な“物差し”がないならば、どうすればこの宇宙の大きさを測ることができるのか――このことを真剣に考えたのが、ポアンカレたち二十世紀初めの数学者です。この世界を測る“物差し”はどこにあるか、それはどうすれば作ることができるかを考えぬいたのです。“物差し”のことを“ゲージ”と言いますが、アインシュタインの「相対性理論」は、この「ゲージ理論」の典型です。
 ―― なるほど。
 ログノフ 宇宙を超越的なただ一つの“物差し”で測っても何の意味もないが、二つの“物差し”のあいだの歪みは現実に意味をもち、測ることができます。その理解のうえにアインシュタインは、“物差し”のあいだの歪みが、物質やエネルギーの有り様から、逆に決まることを見つけたわけです。この“物差し”のあいだの歪みは、たとえば、光線の曲がりとして観測できます。光は巨大な重力場の中で曲がるのです。
 池田 太陽の周囲でも、光は曲がりますね。
 ログノフ 太陽の表面ですと、地球の約二十七倍もの重力がありますので、光の曲がりを観測することができます。角度でいいますと、わずか一度から二度のことですが……。
 池田 第一次大戦の直後(一九一九年)、イギリスの天文学者エディントンらが、皆既日食のさいに観測したのは有名です。
 ログノフ どのように行ったのかというと、皆既日食で太陽が月に隠れたときに、その後方にある星の位置を測定するのです。すると、実際にその星があるはずの位置よりも角度でいうと、一・六二秒(一秒=三六〇〇分の一度)から一・九五秒ほどずれて見える。それによって、その星の光が太陽の側を通過するとき、太陽の重力で曲げられているということが証明されたのです。アインシュタインは一・七秒と予言していました。
 池田 なぜ重力によって、光が曲がるのでしょうか。
 ログノフ 「一般相対性理論」によると、重力というのは個々の物体に働く「力」ではありません。つまり、引っ張っているわけではないんです。重力が“空間それ自体”を変化させてしまうのです。
 池田 空間が曲がっているため、光が曲がる――そう理解してよろしいのですね。
 ログノフ そうです。四次元の時空から見れば、光は最短距離をとっているにすぎません。それが歪んだ三次元空間においては、光の曲がりとして観測できるのです。

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