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日蓮大聖人・池田大作

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第四章 「宇宙の法則」が奏で…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  春の到来を告げる「春雷」
 池田 日本では春に鳴る雷を「春雷」といいます。ロシアでも春に雷がありますか。
 ログノフ ええ、あります。ロシアでは、雷は春の到来を告げるもので、寒冷前線が通過するときに、起こりやすくなります。厳しい寒さに耐えてきた人々には、大歓迎なんです。
 池田 ああ、そうでしょうね。日本海沿岸では、冬にシベリアから寒気団がやってくるころにも起こります。これは「雪おこし」と呼ばれています。
 七百年以上も前になりますが、日蓮大聖人は流罪の地佐渡の草庵のたたずまいを「夜は雪雹雷電ひまなし昼は日の光もささせ給はず心細かるべきすまゐ住居なり」と表現されています。
 ログノフ 流罪ですか。
 池田 そうです。極寒の地で大難を耐え忍ばれ、未来永遠のために大法を残された大境界を、私は仰ぎみる思いです。
 ―― 昔から、雷は恐ろしいもの、怖いものというイメージがありますが、どうして起こるのですか。
 ログノフ 温度差の大きい大気中を雲が動いていくと、雲の中の電気がしだいに分離して、上部がプラス、下部がマイナスの電気を帯び、充電された状態になります。
 池田 いわゆる「雷雲」ですね。
 ログノフ ええ。雲と地上の間に百万ボルトもの高い電圧が発生して、十分の一秒ほどの間に、火花を散らしながら十万アンペアくらいの電気が流れる放電現象が雷です。二つの電極に高電圧をかけると放電が起きるのと同じです。
 池田 この大自然の勇壮なエネルギーはどのくらいでしょうか。
 ログノフ 一回の雷の電気エネルギーは、百ワットの電球十万個を一時間つける量に相当するともいわれています。
 池田 上空を流れている大気中から、巨大な電気エネルギーが生まれるわけですね。
 ログノフ そうです。雷は高電圧の「静電気」です。
 池田 ではなぜ、稲妻はジグザグに光るのか。
 ログノフ 稲妻は、いちばん抵抗の少ないルートを通ります。空気中にはかならずどこかに水蒸気があります。水蒸気の多いところは抵抗が少ないので、そこを探して通っていきます。だからジグザグに走るのです。
 池田 雷鳴は、空気が膨張する音ですね。
 ログノフ 空気中を稲妻が通っていくと、電気的な衝撃によって原子から電子が飛び出し、粒子の数が増えるために、空気の圧力が急激に増加します。これが周りの空気をたたいて、音波が発生するのです。
2  邪悪と戦い正義の人を守る
 ―― 雷は、洋の東西を問わず、多くの民族のなかで、崇拝の対象とされてきた歴史があります。
 池田 中国の上帝にしろ、ギリシャのゼウスにしろ、インドのインドラ神にしろ、大自然の雷を自由にあやつることが、ひとつの神聖さの象徴となってきましたね。
 ログノフ 十六世紀のロシアに“雷帝”と呼ばれたイヴァン大帝がいます。しかし、それは彼の恐怖政治を恐れる人々が悪い意味でつけた名前です。
 池田 古代インドの『リグ・ヴェーダ』には、「ヴァジュラ手に持つインドラは、行く者、憩う者、角なきもの、角あるものの王者なり。彼のみ実に王者として諸民を支配す」(『リグ・ヴェーダ讃歌』辻直四郎訳、岩波文庫)とあります。
 インドラは“ヴァジュラ”という武器をふるい、象王アイラーヴァタに乗り、暴風雨神マルトを従えて、悪と戦う勇猛果敢な英雄の姿をとっている。しかし、この神は一面、反倫理的な性格をもっていたようです。
 ところが、これが仏法に取り入れられると、「帝釈天」という、正法を行ずる人々を守る働きをあらわすようになりました。
 『法華経』序品には、「爾の時に釈提桓因、其の眷属二万の天子と倶なり」と、説法の座に連なったことが記されています。ここにある「釈提桓因」が帝釈天です。また「眷属」とは一族や家来ともいえます。
 ログノフ なるほど。
 池田 「帝釈天」は、当時の人たちがヒマラヤをイメージしたと思われる「須弥山」の頂上に住むとされました。そして、邪悪な勢力と戦う偉大な力をもっている。たとえば、傲った「阿修羅」の生命と戦って、人々を守ります。
 仏典にも、「修羅しゅらのおごり帝釈たいしゃくめられて無熱池の蓮の中に小身と成て隠れしが如し」(修羅はみずからの力におごっていたが、帝釈に責められて無熱池の蓮の中に小さくなって隠れたようなものである)と述べられています。ですから、「帝釈天」とは、邪悪を粉砕し、正義の人を守る大指導者の姿として顕れることもある。
 ログノフ なるほど、そういうことですか。
 池田 さらに仏法では、「元品の法性は梵天・帝釈等と顕われ」と、この帝釈天の壮大な働きがわれわれの生命に本来あることを説いています。また、「人の悦び多多なれば天に吉瑞をあらはし地に帝釈の動あり」と、社会・国土が栄えていく根本の方軌を教えています。
 ログノフ そうですか。たしかに、人間はあらゆる環境を変えていけるはずです。そして、平和でより良い社会を築くためには、まず「善の団結」が必要です。
 トルストイは、「心の触れ合わない、腹黒い人々が、ある集団を作り行動して、民衆に悪をもたらしているとしたら、世界平和と善意を望む人が、団結し、力を合わせて悪に対抗すればよい。何と簡単で真実なことか」と言っています。
 池田 そのとおりです。雷ではないけれども、民衆の声は天の声です。その「善の連帯」の声に勝るものはない。
3  ―― ところで、地球上では年間約千六百万回の雷雲が発生し、毎秒約百回の雷が生じているともいわれています。この雷の電気を有効利用できないでしょうか。
 ログノフ それは無理でしょう。というのは、雷はどこで起きるかまったく予想がつきませんから、それを使うというのはあまり現実的でないと思います。
 それから、まだ説明はついていないのですが、“球体の雷”があるという報告もあります。
 池田 球体ですか。日本では聞きませんが。
 ログノフ それは普通の雷より少しゆっくり動くようです。たとえば家の窓から入ってきたとか、煙突から入ってきたという人もいます。
 多くの学者が研究していますが、今のところ、どうして形成されるのかわかっていません。
 池田 落雷を防ぐ避雷針を最初に考えたのは、十八世紀のアメリカの政治家で、科学者でもあったフランクリンです。
 彼は凧を揚げて、雷が電気であることを証明する実験も行いました。雷はなぜ高いところに落ちやすいのでしょうか。
 ログノフ それは、雷がなるべく抵抗を小さくしようとする性質をもつからです。つまり、高ければ高いほど、雲に近ければ近いほど、抵抗が小さく、放電しやすくなります。
 ですから、避雷針もできるだけ建物の上のほうに立てます。
 ―― フランクリンのあとにも、同じような実験をした人がいますが、何人かは落雷にあって死亡しています。
 ログノフ フランクリンが、“避雷針”にならなかったのは、幸運という以外ありません。今から考えると、彼の実験はあまりにも危険だったといえます。
 ロシアでもロモノーソフが雷を研究していますが、無事だったのは、やはり運がよかったのです。彼と一緒に研究していたリフマンという人は、雷にあって亡くなっています。
 池田 科学の先人たちの勇気と功績は、永遠に輝いていくことでしょう。

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