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日蓮大聖人・池田大作

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第二章 はるかなる「宇宙」と…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
1  スペースシャトルの宇宙実験室
 ―― 前章のお約束でしたので、宇宙の話題からお願いします。
 日本でも、一九九〇年にはロシアの宇宙科学ステーション「ミール」に搭乗して、秋山豊寛さん(TBS宇宙特派員)が宇宙飛行しました。そして九二年に、二人目の宇宙飛行士として、毛利衛さんがスペースシャトル「エンデバー」に乗って、たいへん話題になりました。
 池田 じつは、その「エンデバー」の中で“宇宙遊泳”したニシキゴイの兄弟が、創価大学にいるんです。一緒に生まれ、同じ池で育ったニシキゴイです。
 ログノフ おお、それはすばらしい。ハラショー!
 池田 愛知の金魚漁業協同組合で、丹精こめて養殖された「丹頂紅白」「丹頂三色」「大正三色」などの見事なコイが、大学の“文学の池”で元気に泳いでいます。
 ログノフ そうですか。私も創価大学の一員(名誉博士)としてうれしいですね。
 池田 創価学園の“友情の池”にもおります。
 二十一世紀の主役である生徒たちも宇宙を身近に感じて、コイの宇宙酔いの実験にも関心をもったようです。
 ―― スペースシャトルはさながら宇宙実験室でした。この実験室(スペースラブ)を教壇にして、毛利さんが日本の小学生たちに「宇宙授業」をしましたが、なかなか好評のようでした。
 池田 まさに“宇宙からの贈り物”でしたね。
 今すぐ理論がわからなくとも少年時代のこうした経験は、深く心に刻まれていくでしょう。
 ロシアの「宇宙ロケットの父」ツィオルコフスキーも、若き日にベルヌの科学小説で月旅行の物語を読んだことが、大きなきっかけになったようですね。
 ログノフ そのとおりです。彼は、今から半世紀以上も前に「地球は人類のゆりかごである。しかし人類は永遠にゆりかごに留まってはいないだろう」と予言し、宇宙開発への道を開きました。その功績をたたえて、月の噴火口の一つにも、彼の名前がつけられています。
 池田 こうした先人たちが、この宇宙時代の高まりを見たら、感無量でしょうね。
 ログノフ そう思います。
 池田 ところで子どもたちには、宇宙飛行士が、無重力状態のスペースシャトルの中で、ふわふわ浮いているのがたいへんおもしろかったようです。無重力の宇宙で、上下ということはあるんでしょうか。
 ログノフ ありません。まあ、宇宙船の中には天井と床がありますけれども。地上では当たり前の、上下とか縦横といった概念はありません。
 池田 それから、紙飛行機の実験も興味深い。ゆっくり上昇しながら飛んでいって、左右のバランスの少し重いほうに傾いてクルクル回りだす。
 ログノフ 揚力は働くけれども、重力はほとんどありませんからね。
 ―― じつは、航空工学の専門家も、どういうふうに飛ぶのか、なかなか的確には予測できなかったそうですね。実験をして説明されると、なるほどと思うのですが……。
 池田 そうですね。何でも実験をすれば納得できる。
 初代の牧口常三郎会長は、科学は実験証明である。宗教もまた、生活と社会の中で実験証明されるべきである、と言っていました。
 ログノフ そうですか。その言葉は重みがありますね。
2  ―― それにしても、宇宙飛行士はやることが多くて、ゆっくり宇宙を眺める間もないほど忙しいようです。(笑い)
 ログノフ 宇宙環境を利用した実験のプログラムが、次から次へと組まれているでしょうから……。
 新しい産業とテクノロジーの発展は、きわめて清浄な生産の場を必要としています。宇宙には、生産のための理想的な条件がそろっています。それは、無重力と高真空です。
 すでにNASA(アメリカ航空宇宙局)も、宇宙ステーション「フリーダム」を計画していますし、日本の科学技術庁の予測でも、二〇一三年には「半導体や薬品などの宇宙工場が実現」となっています。
 貴国には、宇宙開発にたいへんな力を入れてきた歴史がありますね。
 ログノフ ええ。ロシアには本格的な宇宙ステーションがあります。また、ロケットの技術は世界最高の水準です。
 今後、宇宙工場が導入される場合は、なによりもまずエレクトロニクスの関連になるでしょう。
 きわめて純粋な材料、所定の特性をもつ材料の開発、複雑な分子化合物を、文字どおり一つずつ原子から組み立てること、こうしたプロセスは地上の条件では、きわめて困難だからです。
 ―― 「エンデバー」の「ふわっと―――’92」実験項目を、ちょっとピックアップしてみますと、「新超伝導合金の溶製」、また、サルの腎臓の細胞を培養して、重力と細胞構造との関係を調べたり、ニワトリの受精卵を使って、骨と軟骨の発生と成長におよぼす無重力の影響を調べる実験など、三十四種類もの実験が行われています。(毛利衛『宇宙実験レポートfromU.S.A.』講談社を参照)
 池田 すでに経過報告が出たものもありますね。宇宙を飛んだショウジョウバエの子孫には“流産”が多かったようです。
 ログノフ ショウジョウバエの寿命はわずか十日で、世代間にわたる実験には適していますね。
 池田 生命が母なる地球の絶妙な環境の中で、いかに守り育まれているかを、あらためて感じます。
 ログノフ 宇宙線と無重力が生体に大きな影響をおよぼすのです。
3  無重力空間に浮かんだリンゴ
 池田 さて、宇宙授業では、無重力状態の説明に、毛利さんの郷里である北海道の余市町のリンゴが一役かっていました。リンゴといえば、ニュートンが発見した「万有引力の法則」のシンボルのようなものですが、今回は、無重力状態のシンボルになりました。(笑い)
 ―― リンゴは落ちるのに、月はなぜ地球に落ちてこないのかというのが、ニュートンの着想でしたが。
 ログノフ ええ。糸につないだ球体を振り回すと、糸は張りつめたまま、たるみません。なぜなら、球体は動いているからです。
 動いているかぎり、回転の中心からできるだけ遠くに離れようとする遠心力が働きます。
 ―― 毛利さんもリンゴをヒモにつないで、クルクル回して見せてくれました。
 ログノフ 月もつねに一定の速度で地球の周りを回っており、ちょうどその遠心力と重力とのバランスがとれて、落ちないようになっています。
 池田 人工衛星も原理は同じですね。
 ログノフ そうです。スペースシャトルの場合、地上からの飛行高度は約三百キロ。そこでも地上の約百分の九十一の重力が働いていますから、何もしなければ地上に落ちてきます。ですから、重力と遠心力がちょうど同じになるように打ち上げます。おおよその計算では、秒速七・七二キロの速度で、一日に地球を十六周します。
 ―― 速度はジェット旅客機の三十倍くらいだそうですが、揺れることはありませんか。(笑い)
 ログノフ いえ、たいへんに安定しています(笑い)。無重力状態というのも、ニュートンが発見した「万有引力の法則」に立脚していると言いますが、これは実際には「重力の法則」なのです。
 ニュートンは巨人です。彼の力学の公式によって重力を計算していけば、すべての惑星の運動を明らかにすることができます。
 池田 一六八七年に刊行された『プリンキピア』(「自然哲学の数学的原理」)は、彼の研究を集大成した画期的な書物として有名です。
 「重力が現実に存在し、わたくしたちの前に開かれたその法則に従って作用し、天体とわたくしたちの海に起こるあらゆる運動を与えるならば、それで十分なのです」(「自然哲学の数学的諸原理」河辺六男訳、『世界の名著ニュートン』所収、中央公論社)という彼の言葉に、宇宙の厳たる法則を発見した自負と確信が感じ取れます。しかし、このニュートンの力学でも、自然現象をすべて説明できるわけではない。
 ログノフ 残念ながら、一〇〇パーセントは説明できません。スピードの問題があります。光の速度より、はるかに遅い場合であれば、ニュートンの法則ですべて説明できますが……。
 それから、ミクロ的なもの、つまり原子の規模の大きさの世界にも、ニュートンの法則は適用できません。
 池田 そこで現代物理学の二大支柱である「相対性理論」と「量子論」が登場してくるわけですね。
 ログノフ そうです。きわめて大きな速度で動いているミクロのものといえば、たとえば電子です。
 ですから、私たちの研究所の「高エネルギー加速器」で起こる現象は、ニュートンの力学では説明できません。それは、相対性理論や、量子論の公式を使わないと解けません。

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