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日蓮大聖人・池田大作

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第一章 二十一世紀の「科学」…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  再会の喜び
 池田 今回で博士とお会いするのは、十回目になりますね。
 また、このようにゆっくりと、さまざまなことについて意見を交換できるのは、真の友人として黄金の一時です。
 ログノフ 私にとっても、先生との一回一回の出会いが大切な思い出なのです。私の精神のなかに、大きな歴史を刻んでいただいていることを実感します。
 池田 真の友情の語らいは、それ自体が文化であり、平和であり、世界で最も強靭なつながりです。
 トインビー博士は、対談の最後に「いちばん大事なのは対話です。あなたは一生涯、全世界に対話を広げてください」と言っておられた。これが私への遺言でした。ですから私は行動をつづけております。
 ログノフ すばらしい言葉です。また行動です。池田先生の言動は後になればなるほど、その深い意味がわかってきます。私はそのことを自分の体験から痛感しています。
 池田 恐縮です……。ログノフ先生、またトローピン先生(前副総長)をはじめモスクワ大学の友人のことを、私は生涯忘れることはできません。長い長いお付き合いです。創価大学で初めてお会いしてから、もう十二年になりますか。あのとき、記念に植樹した博士の桜も、立派な大樹と育ちました。
 先日、新総長のサドーヴニチィ先生にもお会いしました。
 ログノフ うれしいです。国際情勢がどんなにたいへんなときでも、先生はいつでも変わらず励ましてくれました。わが国のために池田先生がしてくださったことは、われわれ以上です。
 池田 亡くなられたホフロフ元総長のことも忘れられません。年齢も同じくらいでした。
 ログノフ そうですね。私と同じ歳でしたから、先生より二歳ほど年長だったと思います。いい方でした。私はその後を継ぎました。山が好きで、山に登ったときに事故で亡くなられたのです。
 池田 そうですね。私もお墓参りをしました(一九八一年第三次訪ソの折)。ご家族のこともよく知っております。夫人も喜んでくださいました。ご子息は二人とも立派な科学者に成長されましたね。
 ログノフ ええ……。先生がモスクワに来られるときは、時間が少なくて困ります(笑い)。今度はゆっくりと時間をとって、ぜひ、私たちの研究所へも来ていただけませんか。
 池田 喜んで行きます。研究所はどういうところにあるのですか。美しい赤松の自然林に囲まれているとうかがいましたが。
 ログノフ 研究所は風光明媚なモスクワ郊外の都市プロトヴィノにあります。近くを美しいオカ川が流れており、ロシア古典派の画家が好んで描いた場所です。少し先には、トルストイの領地だったヤースナヤ・ポリャーナがあります。池田先生の好きなトルストイとも縁があるんです。
 池田 そうですか。それはうれしいです。行きたいですね。創価大学の講堂には、トルストイ像が世界の大文豪の象徴として、立派に飾ってあります。
 ログノフ 私も拝見しました。台座に刻まれたトルストイの言葉は池田先生の思想と一致しますね。
 池田 いや、あの言葉は貴国のヤゴジン先生(当時・ソ連国家国民教育委員会議長)が選んでくださったものなんです。
 私も、博士の専門中の専門の研究の城で、友情の歴史を残したいと思っております。
 ログノフ 来ていただければ、最高の幸福です。ここは、ずっと前から私たちの研究の根拠地でした。一九六三年から、私がセンターの代表を務めてきたところです。就任当時、私はまだ三十七歳の若さでした。
 池田 よくわかっております。研究所の周辺は、博士への敬愛を込めて「ログノフ町」とも呼ばれているとうかがっています。博士が、各地から優秀な研究者、技術者を集めて、育成されてきたことは、尊い歴史です。
 ログノフ ありがとうございます。研究所にはかつては世界最大で、現在でも三番目の規模の「高エネルギー加速器」があります。現在、新たに円周二十一キロという強力な加速器(UNK)を地下に建設中です。
 池田 想像しただけで、英知を結集した巨大な装置であることがわかります。ぜひ勉強のために拝見したいと思います。
 ログノフ 大歓迎です。心からお待ちしています。
2  新しき人類のテーマ「科学と宗教」
 ―― (司会)ログノフ博士と池田名誉会長の対談集『第三の虹の橋』は各方面からたいへん高く評価されましたが、時間のたつのは早いもので、発刊からすでに六年になります。
 ログノフ わが国でも、高い評価を得ています。ゴルバチョフ元大統領も全部読んだと言っておりました。
 ―― この対談集は多くの注目を集め、中国でも翻訳、出版されました。旧ソ連科学アカデミー副総裁でもあったログノフ博士と、日本の仏法の指導者である池田名誉会長との対談は、たいへんにユニークかつ画期的なものでした。
 今回は、さらに進めて、お二人のそれぞれの専門分野である「科学」と「宗教」の対談をぜひお願いしたいと思っております。
 池田 多くの人たちが深遠な物理学などを難解なものと思っておりますが、しかし、現代社会にあって、物理学そして科学というものを、もっとわかりたい、知りたいという願望を皆もっています。その意味で、世界的な物理学の権威であるログノフ博士に、私はアリが巨象にぶつかるような気持ちで(笑い)、うかがっていきたい。
 ログノフ 光栄です。ご期待に応えられるように、できるだけわかりやすくなるよう努力します。
 池田先生は私につねに遠大なテーマを投げかけてくれます。先生は答えをわかっておられるにもかかわらず聞いてくださるので、私に証明をしなさい、と言われているようなものです(笑い)。ただ私は科学のことは専門ですけれども、宗教のことはまったく素人です。
 池田 私はその反対に宗教のことは専門家ですが、科学、とくに物理は素人です。
 また貴国の歴史からみて、当然、唯物史観のうえから、宗教が否定的にとらえられてきた時代のことは知悉しております。
 ログノフ それはそれとして、私はご存じのように、党と国家の中枢におりました。
 しかし、じつは娘がある宗教を信仰していたんです。それで幹部である友人たちから、「なんとかしろよ。著名な唯物論の指導者の一家の娘が信仰してるなんて、まずいじゃないか」とずいぶん言われて、いやな思いをしました。
 池田 お嬢さんのことは、私もお会いしてよく存じております。
 ログノフ そのころから、なぜ、かわいい娘が宗教を求めたか。共産国家がエベレスト山のように崩れないと思われた時代から、なぜ信仰していたのかということも、今になって、なるほどと理解できます。
 生命という不可思議な心の次元の世界は、唯物主義、科学万能主義でははかりしれない。微妙な、もっと別の観点から見なければわからないものであると思っております。
 池田 科学者のなかでも、仏像とか具象化した神とかでなく、大宇宙の神秘の法則、人為によらない「調和の力」などの次元から、宗教をとらえ信仰したいという動きが見受けられますね。
 どんなに時代が変わり、科学が進歩しても、古代から宗教が生き残ってきた。個々には生成消滅を繰り返しながらも、宗教そのものは生きつづけてきた。そこに現実があります。
 ログノフ その意味において、私も勉強したいと思いますので、ぜひやりましょう。
 池田 「科学と宗教」は、これからの世界の課題です。今までは「戦争」と「平和」、「政治」と「経済」であった。それが今度は「人間」と「文化」、「科学」と「宗教」――こういうテーマが一つの人類の流れではないでしょうか。
 ログノフ 池田先生はいつも時代を先取りされます。先生とお会いするたびに、私は新しい世界が開ける思いです。今おっしゃったことは、わが国でも、また世界においても、二十一世紀の重大な課題になると思います。
3  ―― 現在、「科学」における倫理の問題が、さまざまな局面でクローズアップされております。一方、国際政治の舞台では「宗教」による紛争が依然として存在します。そうした意味からも、「科学」と「宗教」を“人間のため”という視点から見つめ直すお二人の対談は、まことにタイムリーだと思います。

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