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日蓮大聖人・池田大作

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「軍隊なき国家」の挑戦 フィゲレス コスタリカ共和国大統領

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

前後
1  私はいつも、恩師戸田城聖先生だったらどうされるだろうか、を考えて生きてきた。
 恩師亡きあと、嵐のときも、ただ「戸田先生なら、どう思われるか。何を言われるか。どうされるだろうか」を己心にさぐり、胸中の先生と対話しながら生きてきた。
 「革命には、弾圧も、非難もつきものだ。何があっても恐れるな。命をかければ、何も怖いものはなくなるのだ」
 「二百年たったら、皆、わかるよ」
 それは、生命をふり絞るような先生の声であった。
 「あとは頼むぞ」の一言が、私の人生となった。
2  コスタリカ共和国のフイゲレス大統領は、一九九四年、三十九歳の若さで就任された。
 コスタリカに招聘してくださったとき、私は申し上げた。(九六年六月)
 「若いということは偉大な力です。若さ自体が、何ものにも代えられない宝です。私も三十二歳で恩師の後を継ぎました」
 大統領の父君は、ホセ・フイゲレス元大統領。コスタリカの近代民主主義の父である。ドン・ペペの愛称で親しまれた偉大なヒューマニストであった。
 第二次世界大戦後の混乱の時代に、腐敗政権を倒し、未来を見通して、国の軍隊を廃止した。
 軍事費をなくした分、教育費にあてた。平和・文化・教育という国の根本レールを敷いた。
 五ヵ国語を話す教養をもちながら、「私は百姓だ」と胸を張っていた。
 父君は自分の大統領就任を祝う式典でも、タキシードは着たものの、用意されたエナメルの靴は拒否した。「私は、これでいい」。履いたのは農作業用の長靴だった。
 「偉大な父上でした。父上が見守っておられます。これからさらに年輪を重ねて、国の大樹になってください。
 大統領の若さは、それ自体、大いなる未来です。
 中国の周恩来総理も、ソ連のコスイギン首相も、私が若いから大事にしたいと言われていました。『若いあなたを信頼します』と。トインビー博士も、孫のように私を、かわいがってくれました」
 「池田会長──私の記憶に間違いなければ──私と同じ四十代前半で、トインビー博士と対談されました。今、読んでもすばらしい内容の対談です」
 大統領は、驚くほど謙虚な方である。「学びたい」という気持ちが全身から、にじみ出ている。傲りや気どりなど微塵もない。「一生懸命」を絵に描いたような人柄である。
 私はキューバ訪問のあと、コスタリカの首都サンホセ郊外の空港に着いた。何と、フィゲレス大統領夫妻が、ご母堂とともに、わざわざ空港まで足を運んでくださっていた。私は恐縮した。
 出国のさいも、私と同じ車に乗って、空港まで見送ってくださる。出張先から、そのために帰ってきてくださったのだという。私が車に乗るときは、ドアに手を添えて、私がぶつからないようにと心を配られる。
 私は感動した。ご両親の人間教育の片鱗を見た気がした。
 滞在(六月二十六日~二十九日)の間、胸にはずっと創価大学のバッジをつけておられた。
 人なつっこい笑顔で、「いつも、つけているんです。創価大学の一員(大統領は名誉博士)であることは、私の誇りです」と言われる。
 核の脅威展(「核兵器──現代世界の脅威」展)では、こんなスピーチをされた。
 「私は、たたえます。世界のいずこであれ、人間共和の大河をつくるために長年、貢献してとられた人々を。
 その代表は創価学会の方々です。
 真実と自由を愛するがゆえに、創価学会は、あるときは弾圧され、迫害されてきました。それでもなお、屈することなく戦い続けておられます。
 日本で、そして世界の各地で、『教育』という最善の手段で『平和』を築いておられる。
 『平和』のために新しい『文化』をはぐくんでおられる。そうした困難な仕事に、営々として取り組んでこられたのが創価学会の皆さまです」
 「コスタリカと創価学会は、人間主義の同盟を結びましょう」と言われたこともある。
 平和の先進国からのエール。私は、苦労してきたわが同志に聞かせてあげたいと思った。
3  刑務所を「子ども博物館」に
 ″脅威展″の会場は、コスタリカ科学文化センター。サンホセ市の、なだらかな丘の上にあった。もとは刑務所だったという。それを閉鎖して、「子ども博物館」をはじめとする教育センターに改造した。今も残る黒光りの鉄窓が、往時をしのばせる。
 私はユゴーの言葉を思い出した。「学校の門を開く者は、刑務所の門を閉じる」
 だれが、すき好んで犯罪者になるだろうか。生まれたときは、幼いころは、だれもが天使のごとく、伸びよう、善くなろう、人に喜ばれる自分になろうと、希望にあふれでいたのだ。
 それを、貧しさや、冷たさや、蔑みが、ねじ曲げてしまう。盗みが悪いとわかっていても、盗みをせずには生きていけない子どもたちが世界には数限りなくいる。
 子どもたちに愛の教育を!
 だれ一人、人を恨む必要のないように!
 いじめられたり、「死にたい」などと思う子どものないように!
 それが父君の「ドン・ペペ」の心でもあったろう。

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