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後記 「池田大作全集」刊行委員会

提言・講演・論文 (池田大作全集第150巻)

前後
1  本巻は、『池田大作全集』の悼尾を飾る、第150巻「論文編」である。
 創価学会創立六十周年記念事業として、一九八八年五月三日に「第一巻」が発刊されてより二十七年。
 『池田大作全集』全150巻は、ついに、堂々と完成した。
 かつて、識者は語った。
 「池田SGI会長は、時代の精神を表現し、また創造されながら、ど自身のご活動を通して、人間の価値と自由という高き理想へと、たゆみなく歩む道を示してこられました。
 未来永劫に足跡を残し、次世代の模範となるということは、プーキキンが言い残したように、”偉大なる人間精神の不朽の記念碑を打ち立てる”ことであります」(ロシア芸術家同盟バレンチン・シードロフ総裁)
 まさしく、『池田大作全集』全150巻は、池田名誉会長の、人間と社会を深く洞察する「英知」と、恒久平和実現への燃え上がる「情熱」と、この地球上から悲惨の二字をなくさんとの「誓願」が結晶した、「偉大なる人間精神の不朽の記念碑」といえよう。
 第150巻「論文編」には、2003年から2007年の間に発表された「『SGIの日』記念提言」等の平和提言や海外での講演、論文のほか、一九六八年に発表された「日中国交正常化提言」が収められている。
 人類は二十世紀、二度にわたる悲惨な世界大戦を経験した。「戦争の世紀」から「平和の世紀」へ――人々は未来への希望と期待をもって二十一世紀を迎えた。しかし、各地で内戦や紛争、テロなどの「憎悪と暴力の連鎖」の新たな広がりが、そしてまた、異なる民族や宗教に対する偏見の高まりが、国際社会の行く末に暗雲をもたらしている。分断と対立の一方で、この時期、世界はインターネットに代表される情報通信技術の劇的な進化、交通手段の発展などによって、物理的な距離の障壁が大幅に軽減されるようになった。
 さらに、経済分野での相互依存が強まる中で、「グローバル化」における拝金主義的な風潮の増大や、クローン技術や遺伝子操作など生命倫理に関わる科学技術の進歩等、人間の在り方そのものが問われる課題も、いっそうあらわになってきた。こうした社会状況の中で、池田名誉会長は仏法の視座を根底にして、社会の諸現象の本質を鋭く考察するとともに、それを打開するための提言を発表し続けているのである。
 著者の提言の特長は、仏教の深遠な哲理に根差しながらも、そこから汲み上げた英知を、誰もが理解できる「普遍的な言葉」で語りかけていることにある。日蓮大聖人の御書や法華経に脈打つ人間主義のエッセンスを、「現代の生きた言葉」として展開する。さらに、仏法だけでなく、古今東西の先哲の洞察を紹介し、光を当て、新たな価値を見いだして、時代変革のメッセージを紡ぎ出しているのである。
 ともすると我々は、紛争や対立、さまざまな事件などの、変転してやまない社会現象の表層に目を奪われがちである。しかし、著者が見つめているのは、そうした現象をもたらす人間の営みの底流にあるものである。生命の次元といってもよい。巧みなる医師のごとく、著者は、諸現象の根にある”病巣”を的確に捉え、現実の社会で苦しんでいる人々の目線に立って、その苦しみを取り除くための処方箋を指し示していく。だからこそ、名誉会長の提言には、単なる時代分析や政策の提示にとどまらない深みがあるし、人々に未来への希望を示し、挑戦への勇気を生み出させる力強さがある。何より、世界の識者との対話を通じて育まれた思いが提言の随所に織り込まれており、この「対話」と「提言」の絶えざる往還を通じて、人類の未来を開く道筋が照らし出されているところに、真骨頂があるといえよう。
 「提言を読む人々が、仏教の信仰や、仏教的な文化背景を持たなくとも、池田SGI会長の平和問題に対する創造的かつ解決重視のアプローチは、全ての読者を鼓舞するものです」(ノルウェー平和協会アレクサンダー・ハラン事務局長)、「提言は人間の精神を見つめる仏法の価値観が基盤となっており、池田会長の対話への情熱と、難問を前にしてもひるまない勇気の信念が反映している」(シドニー大学スチュアート・リース名誉教授)等、一連の提言に対する国内外の識者からの高い評価は、こうした理由によるものであろう。
 名誉会長の提言を貫くものは何か。それは第一に「人間自身を変革するところから、全ての変革は始まる」との信念である。2003年の提言の結論部分で、名誉会長は、人類の歴史において時代変革の波を起こしてきたのは、不屈の信念と勇気と情熱を燃やした人々の存在であったと述べつつ、次のように論じている。
 「しかし現代の社会では、『自分一人がどうしたところで・:・』といったぬぐいがたい無力感や、『何をやっても状況は変わりはしない』といったあきらめが、人々の心を大きく蝕みつつあります。
 そうした状況の中で、心ある人でさえも現実を前に希望を失い、自分の世界に小さく閉じともってしまう――私は、ここに現代の”一凶”がある気がしてなりません」(本巻48㌻)
 核兵器の廃絶や地球レベルでの環境破壊への対策など、あまりに巨大な問題の壁を前にし、多くの人は呆然と立ちすくんでしまう。しかし、名誉会長はこうした「あきらめ」を打ち破っていくことこそが、時代を変革していくための急所であると訴える。重要なのは、人間自身の変革すなわち「人間革命」である。人間の善性を薫発し、英知を結集し、希望の連帯を広げていくことが肝要――との信念は一貫して、提言の中核を流れている。
 もう一つは「対話こそが、真の平和を実現するための力」との信念である。2005年の提言で、続発するテロや武力衝突の現状に触れながら、いたずらに悲観論に陥ってはならないとして、こう訴えている。
 「人間が引き起こした問題である以上、人間の手で解決できないものはなく、どんなに時間がかかろうとも、もつれた紐を解くための努力を投げ出さない限り、打開の道は必ず見えてくるはずだからです。
 その最大のカギとなるのが、言い古されているようで、なお未解決の難題であり続けている『対話』の二字であります。『対話こそ平和の王道』とは、人類史がその歩みを止めようとするのでない限り永遠に背負い続けていかねばならない宿題ではないでしょうか」(本巻98㌻)
 その言葉の通り、著者は暴力の連鎖が続く国際状況の中にあって、精力的に各界の識者との対話を続けてきた。その中には、インドネシアのアブドゥルラフマン・ワヒド元大統領などイスラム圏の指導者や、儒教研究の第一人者である中国出身のドゥ・ウェイミン博士、キリスト教神学者のハービー・コックス博士など、異なった文化的・宗教的背景を持つ識者が名を連ねている。
 「平和提言」の中には、2006年に発表された「世界が期待する国連たれ」も収められている。これは第61回国連総会を前に、「人類の議会」である国連の使命を論じ期待を寄せたものである。折から、名誉会長に対しては、国連関係者より国連への招請並びに講演の要請がされていた。この”国連提言”は、こうした要請に応えて発表されたものであり、同年八月に東京を訪れたアンワルル・チョウドリ国連事務次長(当時)に、名誉会長から直接、手渡された。
 また、「講演」として、2003年のパリ国際会議「寛容の教育」でのスピーチ(代読)、2007年のイタリア・パレルモ大学での記念講演(同)、さらに「論文しとして、2004年8月、モスクワでの第三十七回国際アジア・北アフリカ研究会議(ICANAS)で発表された、「平和の世紀と法華経」を収録している。
 「日中国交正常化提言」は一九六八年九月、第十一回学生部総会の席上で発表されたものである。
 当時、日本政府は台湾との問で国交を結び、共産主義陣営にある中国に対しては敵視政策を取っていた。こうした中で中国との友好を唱えることは、身の危険さえ招きかねない勇気を要する行動であった。
 提言で名誉会長は、「中国政府の存在を正式に認めるとと」「中国の国連加盟を承認すること」「中国との間で広く経済・文化交流を推進すること」などを主張した。この内容は中国でも即座に報道され、周思来総理をはじめ中国首脳にも、大きな驚きと喜びをもって受けとめられたのである。
 一九七二年に日中の国交が正常化。七四年五月には名誉会長が中国を初訪問し、同年十二月の第二次訪中では、周総理との会見が実現した。病の体を押して名誉会長との会談に臨んだ周総理は、「池田会長とは、どうしても会いたいと思っていました」「池田会長は中日両国人民の友好関係の発展は、どんなことをしても必要であるということを何度も提唱されている。そのことが私には、とてもうれしい」と語り、未来にわたる両国友好の実現を名誉会長に託したのである。
 以来、四十年以上の長きにわたり、名誉会長は、教育・文化など、さまざまな分野で、日本と中国の交流を推進してきた。また、この提言に触発された両国の青年の中から、官民を問わず、友好交流事業を担い立つ人材が育っている。「日中国交正常化提言」は、こうした日中友好の歴史を開いた「原点」ともいうべき重要な提言であり、発表から四十六年たった今、その価値はいよいよ輝きを増している。こうした重要性に鑑み、今回、論文編の最終巻である本巻に、要旨を収録した。
2  二十七年前、第一回配本となった第一巻は「論文編」であった。そして、完結となる第150回配本の本巻も「論文編」である。いずれの巻にも「平和提言」等が収められているが、そこには、ただ自己の安穏のみを願うのではなく、人類の幸福と平和を願い、そのためには迫害も恐れないという、「立正安国」への勇敢な精神が脈々と流れている。日蓮仏法は「『立正安国論』に始まり、『立正安国論』に終わる」と言われるが、本全集は、その真髄の哲理に則り、変革の行動を促している。
 当初、『池田大作全集』は全75巻の予定で発刊が進められていた。しかし、名誉会長の執筆活動が多岐にわたり、その膨大な著作は予定の分量では収まらなくなったため、全150巻へと拡充することとなった。その分野は論文編、対談編、随筆編、講義編、日記編、詩歌・贈言編、小説編、挨拶編、教育指針編、対話編、メッセージ編、スピーチ編となり、全集の巻数として、143巻のゲーテ全集(ワイマlル版)など古今東西の全集と比較して、世界最大級の個人全集となった。
 名誉会長は、書斎にこもって執筆を旨とする、いわゆる文筆家ではない。その著作活動や数々のスピーチ、講演などは、平和・文化・教育という多次元で展開される広宣流布運動の指導者として、各地を東奔西走する日々の活動の中で、あるいはその間隙を縫ってなされたものである。その言々句々は、人類の未来を展望した啓発に満ちたものであるとともに、目の前の一人を励まし、断じて蘇生させるのだとの気迫と深き確信にあふれでいる。だからこそ、多くの人々の胸を打たずにはおかないのである。
 大河の奔流のごとき、これらの言論を貫いているもの――それは軍国主義に抗して殉教した先師牧口初代会長と、戦後の焼け野原に一人立ち、広宣流布と世界平和への道を開いた思師戸田第二代会長の理念と構想を断じて実現せんとの、名誉会長の弟子としての師弟不二の誓願であり、不惜身命の魂である。
 本全集はまた、自らが第二次世界大戦の惨禍を体験した一人として、悲惨な戦争を二度と繰り返してはならないとの深い決意に立ち、各国の指導者や識者と対話・交流を重ね、国家や民族の差異を超えて世界に友好の道を開いた、二十世紀、二十一世紀の偉大な指導者の闘争の足跡である。そしてさらに、生命尊厳の仏法の哲理を基盤として、「自他ともの幸福」の実現を目指すとともに、良き市民として社会の繁栄、世界の平和に貢献するという最高の「人の振る舞い」を示した、実践の哲学の集大成でもある。
 名誉会長の「死闘」といってもよい間断なき行動により、今やSGIは百九十二カ国・地域に広がった。日蓮大聖人の仏法は「世界宗教」へと飛翔する時を迎えている。
 「根ふかければ枝しげし源遠ければ流ながし」。この『池田大作全集』が、百年先、二百年先の読者にとっても、人生の苦悩を開き、時代の闇を照らし、平和実現への偉大な智慧を授ける不滅の拠り所となることを確信してやまない。
 終わりに、長期にわたる発刊を温かく見守り、全集を愛読いただいた読者の皆様に、最大の御礼を申し上げるものである。なお、本巻の巻末に、読者の便宜をはかり、「全150巻 収録一覧」「全150巻 目次総索引」を収録した。
  2015年5月3日

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