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日蓮大聖人・池田大作

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海外出版の尽力に感謝 「創価」の人間主義を世界へ未来へ

2001.11.7 随筆 新・人間革命4 (池田大作全集第132巻)

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1  「創価学会は、すでに世界的出来事である」
 これは、今から約三十年前の一九七二年に、二十世紀最大の歴史家トインビー博士が、ある書籍の「序」に寄せられた言葉である。
 その書籍とは、私の著作の外国語出版「第一号」となった、英語版の小説『人間革命』第一巻であった。
 さらに、博士は、「(日蓮大聖人は)自分の思い描く仏教は、すべての場所の人間仲間を救済する手段であると考えた」と、日蓮仏法の世界性を高く宣揚されながら、こう指摘しておられた。
 「創価学会は、人間革命の活動を通し、その日蓮の遺命を実行している」と。
 偉大な博士が洞察された、創価学会の「世界宗教」としての輝きは今、大光となって地球を包み始めている。
 そして、この秋、世界広宣流布”第二章”の開幕を荘厳するかのように、私の著作の外国語出版が「三百点」を超えたのである。
 三百点目は、ドイツ語版の『青春対話』(表題『未来に生きる──青年の問いへの仏教の答え』)。百点目の出版が一九九〇年であったから、十一年で三倍に飛躍を遂げたことになる。
 文豪ユゴーは叫んだ。
 「話す、書く、印刷する、出版する」「そこにこそ、人間の主体性があるのです。行動する知性の、絶えず広がる活動の輪があるのです。思想の響きわたる波動があるのです」(『言行録』稲垣直樹訳『ヴィクトル・ユゴー文学館』9所収、潮出版社)
 まさに、この外国語出版の勢いこそ、仏法のヒューマニズムの、世界中に「響きわたる波動」であると、私は強く感じてならない。
 これまで、外国語で出版された私の書籍は、小説『人間革命』『新・人間革命』をはじめ、対談集、詩集、エッセー集、大学講演集、童話など多岐の分野にわたる。また、翻訳された外国語も、欧米、ロシア、アジア、アフリカを網羅した「二十九の言語」に上っている。
 翻訳・出版にご尽力いただいた関係者の方々に、感謝の思いでいっぱいである。
 ことに、学会本部・国際室の国際出版部や書籍翻訳部の皆様、そして、「聖教新聞」等に発表された私の文章を、迅速に翻訳して世界に発信してくださる国際通信部の皆様に、重ねて御礼申し上げたい。
 現在、トインビー博士との対談集『二十一世紀への対話』も、日本語を含め二十四の言語で出版されている。
 この対談集の英語版『生への選択』の版元である、イギリスのオックスフォード大学出版局は、五百年の伝統と歴史をもつ。
 「トインビー博士との対談集を読んで、ぜひお会いしたいと思っていました」
 私が会談した国家の指導者や識者のなかには、とんな温かい言葉をかけてくださった方々もおられる。
 対談集の出版は成功しない──出版界では、しばしば、こう言われてきたそうだ。
 しかし、その常識を破った一書こそ、トインビー対談」だったのである。トインビー博士も、さぞ喜んでくださるにちがいない。
 以来、ローマ・クラブの創設者。ベツチェイ博士、現代化学の父ポーリング博士、ゴルバチョフ元ソ連大統領らとの数多くの対談集が、外国語で刊行されてきた。
 先日は、キューバの使徒マルティの生涯と思想を、同国のビティエール博士と語り合った対談集のスペイン語版が発刊。さらに、このほど、カナダ・モントリオール大学のシマー前学長、ブルジヨ教授との対談集『健康と人生』のフランス語版も出版されたばかりである。
 ともあれ、「対話」の価値を高め、世界に宣揚できたことが、私は嬉しい。対話こそ心と心を通わせ、人間と人間を結び、やがて文明と文明を結ぶ、平和の大道だと信じているからである。
2  海外出版の大躍進の陰で、忘れられないのが、翻訳者のご尽力である。
 小説『人間革命』や、トインビー博士をはじめ、多くの識者との対談集は、著名な翻訳家のリチャード・ゲージ氏が、長年にわたり英訳の労をとってくださった。
 また、中国の古典『史記』を初めて英訳されたバートン・ワトソン博士にも、大変にお世話になった。これまで、詩集『わが心の詩』や『私の釈尊観』なども翻訳していただいている。
 一九七三年の師走、博士に初めてお会いした折、私は、こう申し上げた。
 「いつの日か、鳩摩羅什訳の『法華経』の英訳を、お願いしたいのですが」
 法華経は、幾世紀もの間、東アジアで最も民衆に愛されてきた経典である。それは、日蓮大聖人が”羅什三蔵ただ一人、誤りなし”と賞讃された通り、鳩摩羅什の名訳によるところが大きい。
 翻訳が、どれほど大事か。
 初対面であったが、私は「この方なら」と心に期し、博士に要請したのである。
 幸い、博士は快諾してくださり、以来、孜々として訳業に取り組まれた。そして二十年後一九九三年の春、遂に『英訳・法華経』が発刊されたのである。
 それは、古典的な英語ではなく、あえて生きた”現代英語”に翻訳されていた。
 博士は、笑みを浮かべて、こう述懐しておられた。
 「今一番、人びとが求めているものを言葉で表現することが大事です。そのために、わかりやすい現代の言葉を、私は使うのです」
 嬉しいことに、「生命の世紀」の開幕にあたり、日蓮仏法の真髄である「御義口伝」の英語版も、博士の全身全霊のご尽力によって、間もなく完成の運びとなっている。
3  ワトソン博士が英訳された私のエッセー集『ガラスの子供たち』(日本語の『私はこう思う』等から編集)は、アパルトへイト(人種隔離政策)下の南アフリカで、解放運動に挺身する人にも読まれた。
 その南アの解放詩人ムチャーリ氏が、私の本に深く共感され、十数年前、ある雑誌に書いた自身のエッセーにも、私の一文を引いて、紹介してくださったのである。
 さらに、このエッセーを、獄中のネルソン・マンデラ氏(南ア前大統領)が読まれ、私の言葉に目をとめておられたという。
 また、英訳された『私の仏教観』や『私の釈尊観』等は、アメリカのアイダホ大学や、ハーバード大学等でも、教材として学ばれていると伺った。
 本は、友をつくり、未知の同志をつくる。
 活字の力は、まことに大きい。
 魂の共感の響きは、国境を超え、民族や主義主張の違いの壁も超える。いな、文明間の断絶や、時代の流転さえ、飛び越えるのだ。
 「人の精神を開発する出版物は友情を創始する」(『追放』神津道一訳、『ユーゴー全集』9所収、ユーゴー全集刊行会)とはユゴーの確信であった。
 一冊の本を通して、「創価」の人間主義の希望が、いよいよ広く、深く、世界の人びとの心へ、未来の青年たちの心へ届いてほしい。
 それが、平和の世紀を開く確かな種子となることを願い、私たちは今日も書き、明日も語る。

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