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日蓮大聖人・池田大作

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第十三章 核廃絶と平和への道――ラテン…  

「太平洋の旭日」パトリシオ・エイルウィン(池田大作全集第108巻)

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1  池田 一九五七年(昭和三十二年)九月八日、戸田第二代会長は「原水爆禁止宣言」で、世界の民衆の「生存の権利」を脅かす原水爆は魔ものであり、サタンであり、怪物であると明確に位置づけしました。核使用が「絶対悪」であることを訴え、反核の運動を若き世代に託しました。以来、核兵器をこの地上から廃絶することは、私どもの絶対の目標となりました。
 かつてのような米国とソ連が核軍拡競争にしのぎを削り、核戦争の恐れさえ憂慮される冷戦時代から見れば、核兵器をめぐる現状は、ましかもしれません。しかし、核廃絶は、まだまだ遠い道のりであり、核兵器が、通常兵器の延長線上で考えてはならない、人類にとっていわば「運命的兵器」「黙示録的兵器」である以上、私たちは決して安閑としているわけにはいきません。
 エイルウィン そのとおりです。九二年一月三十一日、国連安全保障理事会は国家首脳レベルの会議を行って、全会一致で核兵器の拡散は平和および国際安全保障に対する脅威である、と表明しました。その数カ月後の九二年六月、アメリカ合衆国とロシアの大統領が核兵器の思いきった削減を行うことに合意をみました。これらは、核兵器開発および生産をコントロールしていこうとする人類の努力のうえで意義あるステップでありました。その努力はすでに、一九四五年の最初の核兵器爆発以前に知識人や政府要人によって始められていたものでした。
 冷戦の終結は一見、核兵器廃絶の好機のように見えるでしょう。もし核兵器による人類破壊の脅威が冷戦とあいまって増大してきたものであるならば、冷戦がなくなったあとも核兵器の脅威は依然として存続しうるものなのでしょうか。
 この問いに答えるのは、たしかにむずかしいことでしょう。しかし、ここ近年に生じた出来事からは、あまり楽観できない答えにかたむいてしまいそうです。北朝鮮、イスラエル、イラン、インド、パキスタンは核拡散防止条約の諸規則に対する軽視の例といえるでしょう。
 池田 それだけに民衆レベルから核兵器の廃絶を核保有国に要求していく姿勢は、もち続けねばなりません。これ以上、核保有国がふえるのは、なんとしてもストップさせねばなりません。
 エイルウィン たしかに核兵器拡散の防止、そして最終的には核廃絶を達成するために、なんらかの影響力を行使できる人々や諸国民の努力は、たゆまず続けられるべきです。
 池田 そうした点からすれば、私は中南米非核地帯条約を世界に先駆けて成立させたことは、まことに賢明であったと高く評価しております。非核地帯をラテンアメリカのみならず、世界の各地域に広げていくことが、現実にこの地上から核兵器をなくすことにつながるはずです。私は、この非核地帯化ということが、もっと世界で重視されるべきだと考えております。
 ラテンアメリカに位置する国にあって、あなたは核問題の現状と、核兵器をなくすための手立てをどのようにお考えですか。
2  ラテンアメリカでの核兵器の追放
 エイルウィン ラテンアメリカはこの意味で、世界中でもっとも進んでいる地域と言えましょう。あらゆる核兵器の追放は、この圏内において一つの現実となっています。
 この現実は、核兵器の使用が絶対悪であるとの認識からのみ生まれたのではなくて、むしろラテンアメリカで人々の心に深く根を下ろしている感情、つまり共同の運命を担う国民であるということ、そしておのおのの国の連帯のみが進歩への道を保証するものであるとの確信によるものなのです。ラテンアメリカの非核化はいかなる国も、この地域内の他国によって主権が侵される恐れがないと感じていることの帰結です。
 私の考えでは、平和と安全は国民が連帯感をいだき始めたときに到達できるものであり、それはまた共同の未来を有しているとの認識にもとづいているものでもあります。核兵器の廃棄というものは、諸国民の間に漂っている不安や恐れが消滅したとき、つまり、政府間における不安や恐れが消滅したときに始まるのです。
 池田 おっしゃるとおり、ラテンアメリカは、あらゆる核兵器の追放では、もっとも進んでいる地域です。またコスタリカのように軍備を廃止した国さえあることは、「戦争のない世界」という今後の国際社会の方向性を考えるうえで、きわめて示唆に満ちたものがあると言えましょう。
 エイルウィン 私は、あなたの平和に対する戦いに共感しますし、また敬意をいだいております。平和の推進はあなたの最大の関心であり、ご心労の一つであり、青年が新しい秩序の糧になりうるという期待をいだいておられます。
 それは、あなたの言葉、“私どもの組織は、戦争のない世界を構築し、同時に、世界の有能な青年に新しい秩序の創造をゆだねるために、戦い続けていくのである。
 この時にあたり、私どもは、世界の民が長い間、憧憬してきた目的をもって、恒久平和に向かって勇気ある第一歩を踏みだすべきであります”と雄弁に述べておられますね。
 貴国日本は、米国、旧ソ連、欧州と同様に、近年の世界大戦に関して、いまだに鮮明な思い出をもっておられます。ラテンアメリカは、これらの紛争に積極的にはかかわってきておりません。私どもの紛争も焦点をあてられはしましたが、短期間でした。チリは、近隣諸国と百年以上も平和な状態をたもっております。
3  平和創造への二つのポイント
 池田 ラテンアメリカ諸国は、二十世紀に行われた二度の世界大戦について、他の地域でみられるほどの深い関与はしませんでした。それだけではなく、貴国のように長く周囲と平和な状態をたもっている国々が存在することは、特筆すべきことです。
 そこで、今日の世界において「平和」の問題を論ずるにあたって、ふまえておくべき二つのポイントを述べさせていただきたいと思います。
 一つは、「平和」といっても、たんに国家間の戦争に限定されるものではなく、環境破壊や貧困、人権侵害や難民といった、より広義の意味で考えていくべきであるということです。いうなれば、「ヒューマン・セキュリティー(人間の安全保障)」という観点から、平和創造の途を模索すべき時代に入ってきているという点です。
 もう一点は、その平和創造に取り組むにあたって、従来のように国家が第一義的な役割を果たすだけですむ段階は終わったと思います。NGO(非政府組織)をはじめとする市民がより積極的な役割を担う段階へ、つまり、民衆が時代変革の主導権をもつべきとの意識が世界的に高まりをみせているということです。
 エイルウィン そうですね。一方で、わが国のもっとも痛ましい紛争は、同一祖国の同胞の間で紛争が起こり、共同体として、共通の視野を喪失し、力が支配する武力体制に屈従してしまったことです。私どもの反発は国家支配に対抗するものであり、人権が侵害された近年の過去を明確に意識しております。
 大規模な戦争経験のないラテンアメリカの青年に対して、あなたはどのようなメッセージを贈られますでしょうか。

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