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第十章 環太平洋時代への展望――日本と…  

「太平洋の旭日」パトリシオ・エイルウィン(池田大作全集第108巻)

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1  池田 さて、歴史を概観すると、文明の中心はエーゲ海から地中海、そして大西洋へと移動し、今、太平洋へ移りつつあります。私たちの対談も来るべき環太平洋時代をふまえ、「太平洋の旭日」ということで一致しております。そこでこの章では、その洋々たる未来を展望しあいたいと思います。
 エイルウィン 賛成です。“環太平洋時代”が始まりつつある――という点について、私も、あなたと意見を同じくしております。この地域のあらゆる国々が、歴史的必然のごとく担わざるをえない大きな役割が、それを象徴しています。
 環太平洋は、広さ、人口、多様性、可能性においてたいへん重要です。私たちが推進しつつある力強い経済展開は、環太平洋という範囲を超えて注目をあびております。
 現在の環太平洋沿岸諸国の発展や統合の過程は、コロンブスのアメリカ大陸到達に由来する社会経済の展開と、十五世紀以降の多様な天然資源を有するアメリカ経済の統合、あるいは十九世紀の産業革命に匹敵するものと思われます。
 池田 歴史家のアーノルド・トインビー博士も、未来の文明の中心は太平洋へと移動する、と洞察しておりました。現在、太平洋を取り囲む地域には、地球上の人口の六〇パーセントが集中し、経済的にも全世界の生産の約七〇パーセントを担いうる巨大な市場となりつつあります。国境や民族を超えた地球的な共生をめざすうえで、環太平洋諸国の活発な往来と協力は、どの地域にもまして大きな影響力をもっております。
 このことは、私がお会いしたEC(欧州共同体)構想の生みの親クーデンホーフ=カレルギー伯、フランスの行動的知識人アンドレ・マルロー氏、アメリカの二十世紀における外交政策を彩ったヘンリー・キッシンジャー博士等、多くの識者が一様に認め、主張していたことでもあります。
 エイルウィン 多様な国々の存在は、経済面で補完しあう相互依存体制を作りだします。相互依存体制は、より強固な絆や団結力を築きあげつつ、強力な経済相互作用を誘発します。社会・文化的交流は、とりわけ重要です。おのおのの文化に関してより多くの知識を得て、理解を深めることにより各国民は各文化を尊重するようになり、より良い友好関係が結ばれることとなるでしょう。
 社会・文化的側面での理解を欠いた関係は、不完全なものです。交流の制限や疑念の原因となり、必要不可欠である協調関係が築きあげられなくなります。未来の太平洋共同体においては、さまざまな文化の個性あふれる貢献を高く評価することが大切なのです。この共同体を形式的なもの、あるいは閉鎖的なものと受けとめるべきではありません。太平洋地域で友好関係を築こうとして始められた努力の結果として、自然発生的に生まれたものと理解してほしいのです。
 池田 おのおのの文化への理解を深めることにより、各国民は各文化を尊重するようになり、より良い友好関係が結ばれるという主張に、全面的に同意します。
 環太平洋における交流が、現状では政治・経済の協力に力点が置かれているのは、やむをえないことかもしれません。しかし、より本源的な友好交流を願うのであれば、文化・教育の交流が底流に必要です。軍事や経済を表にした交流では、真の相互理解、相互信頼が生まれないからです。
2  親近感を大切に育てる「民音」の文化交流
 エイルウィン 文化・教育の交流および協力を重視されているあなたの心づかいを、私も共有したく思います。太平洋のこちら岸とあちら岸に分けているほどに大きい、あるいはそれ以上の隔たりは、相互の無知であり不案内に由来しているのです。
 ラテンアメリカの人々は、アジアに関して、ほんの少ししか知識はありません。アジアの人々が、ラテンアメリカ諸国に関して多くの知識があるとも思われません。隣人同士として住む私たちの存在が、真の連合国家共同体となるためには、さらにより良く知りあうことが不可欠です。交易や経済協力は必要です。しかしそれだけでは、おっしゃるとおり十分ではありません。
 池田 私は貴国を実際にお訪ねし、多くの方々とふれあい、チリが大好きな日本人の一人になりました(笑い)。私はこの感情が大切だと思うのです。なぜなら近しい人がいる国に銃を向けないというのは、素朴な庶民感情です。そうした親近感を大切に育てていくことが重要です。為政者はいたずらに反目や対立、分断の感情をあおることはさけるべきです。
 エイルウィン 私も、同じ思いです。ちょっとしたことですが、けれどもとても明快な実例をお話ししましょう。
 それはチリの大統領としては初めてのアジア訪問だったのですが、一九九二年十一月、私は日本を公式訪問いたしました。東京滞在中、ぎっしり詰まった日程の合間をぬって、民音(民主音楽協会)が企画したコンサートに行きました。
 そのコンサートは、バロッコ・アンディーノというチリの室内管弦楽団の公演で、アルマジロの甲羅を共鳴胴にした五複弦の弦楽器であるチャランゴ、パンの連管笛のサンポーニャ、大太鼓などその他のアンデス地方の楽器で、ラテンアメリカの民族音楽やヨーロッパのルネサンス様式の古典音楽を演奏しました。
 コンサート会場は満席で、全聴衆は、大半が日本人でしたが、演奏を楽しんでいました。文化が国境を越えることができる、そしてまた人々を一つにすることができる。このことを目のあたりにすることは、なんという喜びでしょう。
 池田 私も、その模様はうかがっています。民音の創立者として、このようなすばらしい交流の機会をつくっていただき、深く感謝しております。百万言を要するよりも実効があるのが文化交流です。これまで民音が世界各地のアーチストたちを招き、芸術・文化の交流を積み重ねてきた経験からもはっきりいえます。
 エイルウィン すばらしいことですね。チリと日本両国民の間で、おたがいに関する知識を普及していく努力を精いっぱい重ねることが大切だと思います。
 相互訪問、とくに学生たちの往来、大学生のための奨学金プログラム、芸術分野やスポーツ分野における交流などが、優先的に推進されるべきです。
3  太平洋文明は未来世代が開く
 池田 二十一世紀を担うのは、青少年たちです。彼らがおたがいを理解しあえば、未来は明るい。青少年の往来と友好の舞台を開くことが、私たちの世代の大きな責務です。
 私はこれまで、「世界青少年交流センター」とも呼ぶべき機関を設置する構想をあたためてきました。私が創立した大学、学園でも、各国の教育機関と交流を進めてきました。またSGI(創価学会インタナショナル)は、毎年、世界青年平和文化祭を開催するなど、若人の国際交流を積極的に推進してきました。まず、たがいを知りあうことが、なによりも優先されるからです。
 エイルウィン 環太平洋のあらゆる国々の関係を緊密化しようという壮大な作業は、環太平洋を構成しかつ繁栄させているさまざまなアイデンティティー(主体性、個性)を尊重し、容認するとの発想で展開されなければなりません。そうすれば、環太平洋地域で新たに結ばれる関係が、いずれの文化の延長線上にあるのでもなく、参加する諸国の真の平等を礎とした関係が構築されていくことでしょう。
 池田 まったく同感です。私は、一九八七年の「SGIの日」の記念提言(第12回、「『民衆の世紀』へ平和の光彩」。本全集第1巻収録)で、カリフォルニアは太平洋のイメージと密接に結びつくとして、作家メルヴィルの『白鯨』の次の一節を引用しました。
 「放浪と瞑想とを愛する神秘家ならば、ひとたびこの静穏の太平洋を眺めたとすれば、終生これを彼の心の海とするであろう。それは世界の水域の真只中にうねり、インド洋と大西洋とはその両腕にすぎない」「かくして、神秘で神聖な太平洋は、世界の全胴体を帯のように巻き、あらゆる岸辺をおのれの一つの湾とし、その潮鳴りは地球の心臓のひびきを思わせる」(阿部知二訳、岩波文庫)――。
 そして、記念提言では「太平洋文明というものに明確な輪郭を与える労作業は、おそらく、何世代にもわたって未来世代の手に委ねなければならない」と、息の長い取り組みの必要性を論じました。経済の交流をとってみても、あなたが今おっしゃったように、さまざまなアイデンティティーを尊重し、容認していくことが基本となると思うからです。
 エイルウィン よく理解できます。現状から統合の過程を見ていきますと、自然な形での太平洋共同体を形成し、実現していくためには、経済構成の歴史と状況をふまえなければなりません。そのうえで、市場の潜在力、進歩した技術などを活用する努力が必要であることがわかります。APEC(アジア太平洋経済協力会議)に加入している諸国のなかで重要な位置を占めているグループが、そのための新しい国際秩序に関する原則を明確化し、発展をうながそうと試みております。とともに互恵関係を促進していこうとしています。
 このすばらしい発議にチリが参加することは、私の政権の大きな目標の一つでした。前にも述べましたように、一九九三年末、シアトルで開催されたAPECの第五回高級事務レベル会議の席上、私どもの参加も認められました。APECは、基本的には経済ビジョンから発生したものです。
 しかし、その成功によって経済協力は発展し、最終的にはそれにともなう利害関係が重要視されて、実際には政治戦略的なものとなるでしょう。この大きな挑戦に取り組むことを可能とするためには、全体計画の着想にあたって、文化・社会面における多様さ、発展段階の差異など、この地域の大きな多様性を基本的原則としてとらえていかなければなりません。その多様性が複雑なところですが、これを乗り越えた、とくに文化的広がりがより豊かなものとなり驚異的な結果が得られることでしょう。

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