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日蓮大聖人・池田大作

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八 遺伝子工学の未来  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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1  要請される生命倫理
 池田 一九七〇年代に登場した遺伝子組み替え技術、細胞融合、核移入技術を使う細胞工学、胚を扱う発生工学など、いずれも人工的に遺伝子を操作する科学技術が急速に進歩しています。バイオテクノロジー革命といってもよい状況を呈しています。
 とくに遺伝子工学は、医学、生物学、農業、製造業、環境、エネルギー問題等に及ぶ広範な領域に技術革新を呼び起こしています。
 その人類の未来に対するプラス面は多大の貢献をなすと思われるのですが、一方、マイナス面が与える影響も無視できません。プラス面を生かしつつ、生命の尊厳を損なう危険性を防止するために、生命倫理が要請されています。
 遺伝子工学のプラス面・マイナス面を論じる場合に、生物の遺伝子操作と人間生命の操作に分けて考えることが必要でしょう。生物次元では、有害な微生物の危険性や生態系への悪影響が問題になりますので、安全性が最大の焦点といえます。ところが人間次元になると、安全性は当然のこととして、倫理の問題がでてきます。そのうちで、まず問題になるのが遺伝子診断・治療でしょう。
 将来、遺伝子治療ができるようになれば、ある種の遺伝病の治療が可能になり、また、ガンへの直接的治療の道も開かれると思われます。
 博士 実に遺伝子工学こそは、未来における生命の質的改善への大きな希望をもたらすものです。先生は今、その一連の有益な応用に言及され、ガン治療への適用の可能性を第一に挙げられました。
 池田 人間の遺伝子操作には、医学的操作も含めて、いっさい手をつけるべきではないという人もいますが、それではプラス面の効果も失ってしまいます。そこで、治療と改造との間の一線を守りぬく〈歯止め〉の思想・理念を、私は仏教倫理に期待できるのではないかと考えていますが、博士のご意見はいかがでしょうか。
 博士 おっしゃるとおり、明らかに危険と思われる方向への行きすぎを防止するために、なんらかの倫理的な歯止めが必要です。
 池田 優生学思想による人間改造の危険性は、人間のクローン化やキメラ化の方向でも生じると思われます。すでにクローン・マウス、キメラ・マウス等が誕生しています。さらに技術改良が進めば、少しずつ人間へと近づいていき、あながちSFの領域とばかりはいえなくなることも予想されます。
 また一方では、先ほど取り上げましたように、脳組織の部分移植の成果も報告されるようになってきました。老人性痴呆やパーキンソン病の治療等にこうした研究が光明をもたらすという予測もありますが、ここでも倫理的問題が生じ、優生学思想と結びついた脳改造への危惧も生じてくるでしょう。
 博士 人間のクローン化については、倫理的に問題があると私は言いたいのです。
 さらに危険なことは、私たちが遺伝子操作と選択育種の技術を組み合わせることによって、超人類の創出を望むようになる可能性があるということです。もし、このような野望をいだくものが現れるとすれば、それは恐ろしくなるほど、あのアドルフ・ヒトラーを彷彿させるものとなるでしょう。そのような野望はどんな犠牲を払っても、つぼみのうちに摘み取っておくべきです。
 池田 以上のような倫理的〈歯止め〉をしたうえで、博士は、さまざまな分野における遺伝子工学の将来性について興味をおもちでしょうか。
 博士 遺伝子工学こそまさに未来の研究科目です。遺伝子工学のもつ意味は、この分野を研究している科学者が、ヒトのすべてのゲノムの地図をつくりあげることが可能になるだろうということ、すなわち、私たちのDNAを構成するすべての塩基配列の完全なリストを作成することができるようになることを意味します。幾人かの科学者たちは、その実現が間近いのではないかとみています。
 そういった可能性を考えると、私は大いに胸がおどります。それは、私たち人間の本質的な生物化学的アイデンティティーを完全に知りうることになるからです。このあと探究すべき残された領域は、〈心〉の領域ということになるでしょう。

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