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日蓮大聖人・池田大作

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五 エイズ流行の現状と課題  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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1  池田 エイズは世界的に大流行の徴候を見せています。その流行は、中世の暗黒時代を象徴するペストにたとえられるほどです。まさに現代の文明病という様相を呈しています。
 WHO(世界保健機関)の報告では、一九九二年四月現在、エイズの患者数は約四十八万四千人、感染者数は一千万人を超えると推定されます。エイズはウイルスの感染によって流行していきます。報告によると、人口十万人当たりの発生数はアメリカが最多ですが、サハラ以南のアフリカの実数はそれを上まわるといわれています。
 アジアは今のところ、アメリカやアフリカに比べて少ないようですが、感染者は南アジアを中心に急増し、日本でも徐々に増加してきております。そして今後さらに、エイズ感染の流行は世界的に増大すると予想されています。エイズはガン以上に人類を脅かす疾患といえるでしょう。
 博士 アフリカ大陸では、サハラ以南のいくつかの国々の経済が、エイズのために重大な損害を受け始めています。最近のある国際会議では、アフリカの一部では現在、十人に一人はエイズウイルスの感染者であると発表されました。これは驚くべき統計です。これが事実であるならば、アフリカ大陸のいくつかの地域では、ほんの短期間に人口が大幅に減少することでしょう。
 世界の他の地域においてもエイズ患者は増える一方で、重大な問題となっています。一九九二年四月一日のWHOの報告では、人口十万人当たりの患者数は、アメリカが八十四・七人、イギリスが九・六人、日本が〇・四人、スリランカが〇・一人となっています。世界の多くの国々では、エイズ患者の爆発的な増加により、医療面でも社会奉仕の面でもこれ以上は無理だというところまで、精いっぱいの努力をしています。
 池田 エイズ流行が世界的に問題になったのは、一九八一年の半ば、アメリカのロサンゼルスとニューヨークで患者が発見されたことに始まります。そのとき患者がすべて男性同性愛者だったことから、当初は「ゲイ関連免疫不全症」と名づけられました。
 その後、原因不明の免疫不全におちいることがわかり、八二年九月になって、エイズ(後天性免疫不全症候群)と呼ばれるようになりました。後にエイズウイルスが発見されたことによって、エイズが人から人へと感染し発病する病気であることが明らかになり、世界に大きなショックを与えました。
 感染から発病までの期間は現在のところ、患者によって異なりますが五年から十年とされ、また発病から死に至る割合は、五年で九〇パーセントという高率になっています。
 博士 医学の歴史を過去一千年以上にわたって調べてみますと、流行病はときどきまったく突発的に発生し、そして同じくらい突然、消滅することがわかります。私たちは、そうした流行病の原因が微生物、つまりバクテリアかウイルスであることを知っています。
 最も致死率の高い流行病、たとえば痘瘡などは、人から人へと伝染して急速に蔓延するウイルスによって起こることがわかっています。しかし、こうしたウイルスがもともとどこからやって来たのかという問題はいまだになぞです。とくに痘瘡の場合は、これまで約六百年の周期で発生・消滅を繰り返しているという不思議さです。
 では痘瘡の発生しない数世紀の間、そのウイルスは一体どこにとどまっているのでしょうか。これはたいへんな難問です。しかし私は、そのウイルスが彗星という地球の大気圏外の貯蔵庫の中に急速冷凍の状態で収まっている、と提言したいのです。このような見解を最近、フレッド・ホイル博士と私が述べました。むろん、これは今のところ少数意見であり、論議を呼ぶだろうと考えられます。
 池田 一般に、エイズの流行様式は、世界的にみて大きく二つのタイプに分けることができます。第一のタイプは、先進国アメリカに見られるものです。この国のエイズウイルスは、おそらく一九七〇年代後半に急速に広がったと思われます。当時は患者の大部分は男性同性愛者でしたが、一九八〇年代には静脈注射を使う麻薬常習者の間にも広く見られるようになりました。
 もう一つのタイプは、アフリカにおける流行に見られます。アフリカでは一九七〇年代後半から、アジアでも一九八〇年代後半からウイルスが広まり始めたと推定され、感染は異性間の性行為によって起こっています。そして、このようなエイズウイルスの発生は、アフリカ起源説が最有力視されています。
 博士 エイズウイルスの起源については多少なぞが残っています。通説では、アフリカに生息するミドリザルのある集団に寄生していたエイズ型ウイルスが、突然変異によってその構造を変え、サルとヒトという異種間の障壁を越えて人間に感染したとされています。
 この説について私は、いくつかの点で不満をいだいています。それで私としては、次に挙げる二つの起源のほうが可能性が大きいと思います。(一)彗星からやって来た、(二)人工的に合成され、その後なんらかの原因により実験室から逃げだした。ウイルスの起源を論じるのは興味深いことですが、エイズが引き起こすきわめて困難な諸問題の解決には役立ちません。
 池田 そのとおりですね。エイズの治療法も、予防ワクチンや抗ウイルス剤、それから免疫療法等の種々の角度から挑戦されているようですが、今のところ効果的な治療手段は確立されていないようです。
 博士 現在、世界中の研究所がワクチンや治療法の発見に一生懸命取り組んでいますが、現在のところ、これといった突破口はみつかりそうにありません。
 エイズ撲滅に取り組むことは困難な仕事です。その理由は、エイズウイルスにはその特徴である二つの特殊な側面があるからです。一つは、これが主に性行為によって伝染するウイルスだということです。つまり人間の生殖のためのメカニズムそのものが、人口全体を増加させるのではなく、逆に人口を減少させるという危険を内蔵しているわけです。
 エイズのもう一つの恐ろしい側面は、あらゆる種類の病原菌と戦ううえで欠くことのできない人間の免疫系の急所を攻撃するということです。
 池田 私がいま心配しているのは、エイズが母親から胎児へと急速に感染、拡大していることです。母親から子供への垂直感染は、現在の世代のみならず、生まれてくる子供たちまで犠牲にするという点で、きわめて重大な問題を含んでいます。
 博士が先ほど言われましたように、アメリカでも、エイズの流行防止対策は多くの予算をかけて実行されています。発病予防、治療法の研究のみならず、患者の受け入れ態勢、エイズの教育研修、情報提供がなされています。世界各国の政府も、感染防止の正しい知識の普及から、エイズ感染者への偏見・差別の防止等に真剣に取り組んでいます。日本では、最初は血友病患者が主体でしたが、このごろは同性間や異性間の性行為による感染が増えてきており、エイズへの国民の意識も一段と高まってきました。
 博士 私たちとしては、この流行病の進行を食い止めるためにあらゆる合理的な方策がとられること、そして、なんらかの形の予防ワクチンか治療法がいつかは発見されることを期待したいと思います。

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