Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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六 時間・空間の四次元だけで宇宙は理解…  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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1  求められる包括的理論
 池田 先ほど博士の話にありましたが、アインシュタインが提案した相対性理論にもとづく四次元の〈時空連続体〉という考え方は、極大の宇宙は当然のこととして、極微の素粒子の世界をも説明できる法則であるとされています。博士は、天文学だけでなく数学の権威でもあります。相対性理論の四次元を超える五次元・六次元といった多次元の世界は考えられますか。
 博士 論理的な可能性としては、宇宙に五次元があることは否定できません。いま最も重要な問題は、五次元とはいったいなんだろうかということです。
 二次元の、つまり平らな生物(たとえば平面的なアリ)が平坦な表面で生活していて、この表面の二次元だけを歩いたり見たりしていると想像してみてください。このアリに長さと幅と高さのある建物が存在することを納得させるのは、たしかに困難でしょう。まして、エッフェル塔やエンパイア・ステート・ビルディングがあることなどは論外です。アリは、自分が住んでいる二次元の世界に対して直角に存在する次元を、直接的・物理的に知覚することはできないでしょう。
 同じように私たち人間も、現実に体験できる三次元・四次元に対して直角になる次元の世界を容易に認識することはできないでしょう。
 数学の分野では四次元や五次元、あるいはそれ以上の次元をもつ空間の論理上の構造が十分に認識されたのはかなり前のことです。そのような幾何学は、ニコライ・ロバチェフスキー、ボーヤイ・ヤーノシュ、ゲオルク・リーマンらの数学者によって、アインシュタインが相対性理論や四次元の時空連続体に関する概念を考えだす数十年も前に、できあがっていたのです。
 池田 そのような数学の論理上の次元と、現実世界との結びつきはどうなのでしょうか。
 博士 多次元の〈世界〉は純粋数学者によって組み立てられるのですが、これらの世界が現実の〈物理的世界〉とどう結びつくかは別問題です。私たちがみな学校で学ぶユークリッド幾何学は、空間の一点を表示するのに三つの数(つまり座標成分)が必要であることを前提にしています。言い換えれば、メートル尺で三回測るだけで、ユークリッド空間におけるある一点を完全に定めることができるのです。
 ユークリッド幾何学における空間の論理上の構造からは、私たちが学校で習うさまざまの簡明な定理、たとえば合同三角形や平行線などに関する定理が生まれています。私たちが日常的に経験する物理的世界は、この幾何学によりほぼ完全に説明されますが、まだ完璧ではありません。
 ユークリッド幾何学は、素粒子の世界を説明する段になると、時間と位置が関係のない別個の変数として扱われるので、実験と矛盾する点が現れてきました。それでアインシュタインが、四次元の時空連続体の概念を含む特殊相対性理論を確立するに至ったのです。その後、彼は一般相対性理論を立て、その中で重力は時間・空間の幾何学と結びついていると主張しました。この見方によれば、重力は時空連続体が平坦でないところではどこにでも存在するわけです。
 特殊相対性理論は、素粒子の物理学を説明するうえで大成功を収めてきました。また一般相対性理論は、もっと限られた範囲ではありますが、ある種の天文学的現象――たとえば、水星の公転楕円軌道の近日点移動など――を説明するのに成功しました。
 しかし、もし今後発見される他の現象も含めれば、通常の高さ・長さ・幅・時間という次元に対して直角をなす他の次元が存在する可能性をも含めて、それらの現象を説明できるもっと包括的な理論がやがて必要になるでしょう。
2  量子論と「平行宇宙」
 池田 異次元の世界ということでは、アメリカの物理学者ヒュー・エヴェレットの「平行宇宙」という考え方を聞いたことがあります。この考え方は、ミクロの世界での「不確定性」と関連して発想された宇宙論のようですが、私たちの宇宙とほんのわずかの違いしかない、無数の別の宇宙が平行して存在するというもののようです。
 さらに私たちの宇宙は、「超宇宙」にある無数個の宇宙の中の一つにすぎない。超宇宙には無限の次元が存在し、終わりもなければ始まりもない。それは、無数の舞台をもつ大劇場のようなもので、私たちの宇宙のドラマはその舞台の一つで上演されている劇にすぎない、という学者もいます。
 博士 ええ、そうした考え方が今検討されております。現在の宇宙論の考察で興味深い分野は、私たちが感覚器官を使った測定で認識している宇宙と、私たちの感覚ではとらえられないほかの宇宙との関係を追究することです。この点に関するヒュー・エヴェレットとB・デ・ウィットの思想は――本質的にはエルヴィン・シュレーディンガーが以前に発表した思想の復活ですが――論議を呼び、争点にもなっていますが、それもまことに興味深いものです。
 かれらの「平行宇宙」理論は、これまで計算上の手続きを説明するだけで終わっていた量子力学のさまざまな概念を実体化することから始まります。ニールス・ボーアやルイ・ド・ブロイによれば、物質波それ自体は実体化されるべきものではなく、量子系の実態についての計算を成り立たせる概念にすぎません。
 エヴェレットが物質波に実体を与えるとき、彼は「超空間」に多数の平行宇宙をつくるために、量子状態の重ねあわせ原理を使っています。重ねあわせ原理というのは、波が重なり干渉するという事実の基本にある原理です。工学的にも、たとえば、わずかな帯域の電波に多くの電話信号を載せることなどで日常的に使われているものです。
 池田 ほんのわずかしか違わない多くの宇宙が、私たちの宇宙と平行して存在するとすれば、私たちとほんのわずかしか違わない人たちが、その宇宙にいることになります。まるで、SFの世界だという人もいますが。(笑い)
 博士 エヴェレットやデ・ウィットの理論は論理的には一貫性がありますが、ほとんど信じられないものであり、奇妙な点がたくさんあるように思われます。デ・ウィットはこのように書いています。「量子の遷移はどの恒星でも、どの銀河でも、宇宙のどのような果てでも起きており、その一つひとつがすべて、われわれ自身の世界をその無数のコピーに分裂させているのである」(B.S.DeWitt,”Quantum*Mechanics*and*Reality”*in*Physics*Today,*Sept.*1970-30-35.)
 この文章を文字どおりに受け止めれば、私たち一人ひとりが肉体を、また心や意識を――もし数量化できるとすればですが――絶えず複製し、そのコピーはほかの世界にも住んでいると解釈できるのです。これは、平行宇宙に住んでいる私たちのコピーはどうなっているのか、私たちは自分のコピーと交信できるのかなど、次々と面白い疑問を生じさせるシナリオです。
 これらの思想の提唱者たちは、個々の宇宙間の交信は不可能であると主張しています。しかし、彼らの主張がみなあいまいであることを考えれば、こうした条件を思うがままに変えられる余地があるのです。
 池田 量子論は、現在トランジスターなどの技術の基盤にもなっている、確立された理論です。しかし、その量子論の考え方を宇宙全体に拡張すると、不思議な宇宙の姿が浮かび上がってきます。科学的に極小と極大を貫く法則を追究していく余地はまだまだ広大であるといえるでしょう。これからどう展開されていくか、興味は尽きません。

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