Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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二 地球外生物は存在するか  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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1  太陽系外の惑星
 池田 天上の星空のほうに話題を移したいと思いますが、無数にきらめく星のなかに、人類と同じような知的生命体がいるのではないかと考えるのは、きわめて自然な発想でしょう。古来、あらゆる民族は、月の中にもウサギを見たり、読書をする女性の顔を見たり、カニの姿を見たり、さまざまに天空をかける心象の翼を広げてきました。
 日本の子供たちになじみ深い星に七夕星があります。中国から伝わった織姫星(織女星)と牽牛星の伝説です。二人は天帝のはからいで結婚したのですが、楽しさのあまり仕事を怠るようになった。そこで引き離され、七夕の夜にだけ天の川に翼を広げるカササギの橋を渡って、会うことが許されるという「愛別離苦」の物語です。織姫星は、こと座のベガ、牽牛星は、わし座のアルタイルをさしております。実際は、この二つの星は十五光年も離れていますから、光速の乗り物で行っても、一年に一度会うことさえ不可能といえますね。(笑い)
 博士 そのとおりです。
 池田 この七夕の織姫星にまつわる話題ですが、一九八三年に打ち上げられた赤外線天文衛星によって、このベガのまわりで新しい小さな星が生まれつつあることが発見され、話題になりました。
 このとき、太陽系以外にも、実際に惑星系をもつ天体が存在すると発表されたので、地球と同じような生命が発生する可能性が、にわかに身近に感じられるようになりました。理論的にも、恒星が惑星をもつ確率はかなり高いそうですが。
 博士 つい最近まで、遠くの恒星をめぐる惑星を発見することは非常に困難なことでした。惑星を探し出す方法はありますが、それが成功するのは、木星のような大惑星が存在する場合に限られます。そうした大惑星が存在する場合は、その惑星の軌道と、親である恒星の軌道の重心が同じです。つまり、空中でワルツを踊っているようなものです。したがって、目に見えるのは恒星だけですが、その恒星を観察して、そのスペクトルの原子数を調べることによって、その恒星のかすかな前後運動を見つけられることがあります。
 一九九五年に、ミシェル・メイヤーとディディア・クエロスは、まさにこの方法によって、ペガサス座の「ペガサス‐51」という恒星をめぐる惑星を発見したのです。
 これは太陽系外の惑星としては、明らかに最初の確実な発見でした。この惑星の体積は、木星の約半分と推定されました。しかし、その恒星からの距離は、わずか〇・〇五天文単位(=太陽と地球の間の平均距離)です。木星の場合は、太陽から約五天文単位も離れています。また「ペガサス-51」の軌道周期はたったの四地球日ですが、木星の場合は十二年です。
 この事実から明かなことは、この太陽系外の惑星第一号は、あまりにも高温であるため、その表面にはいかなる生命体も存続し得なかったということです。
 一九九五年以降、惑星を発見する競争がますます加速してきています。第一号発見後まもなく、ジェフ・マーシーとポール・バトラーが、新惑星を二つ発見したと報告しました。一つは「おとめ座-70」という恒星を、もう一つは「おおぐま座-47」という恒星をめぐる惑星です。
 次に発見されたのは、「かに座ρ(ロー)星」と「うしかい座τ(タウ)星」をめぐる惑星です。続いて発見されたのは、「がか座β(ベータ)星」の塵円盤(dustydisc)の内部にある惑星です。実は、その数年前から、この恒星には惑星があるのではないかと思われていました。
 池田 惑星の存在は、原子のスペクトル線の変化から確認されたとのことですが、直接に惑星の存在が確認されたわけではありません。天文学者は、どのようにして、こうした間接的な発見が正しいものであると確信することができるのでしょうか。
 博士 スペクトル線の変位は、たしかに他の原因でも起こります。実際、これまでに惑星の存在の証拠であるといわれているスペクトル線の変位が恒星の膨張・収縮などの振動によって自然に説明できるという報告もあります。また〇・〇五天文単位という恒星のすぐ近くの温度の高い所に、なぜ巨大な惑星が存在するのかという惑星形成論の難問題もあります。太陽系の場合、一番太陽に近い水星で、〇・三九天文単位の距離にあるのです。このようなあらゆる問題点を一つ一つ検討しつくすことによって、一番自然な説明が最終的に確定されます。
 現在はっきり分かっていることは、惑星が生成される仕組みは、きわめてありふれたものであり、規則正しく行われているに違いないということです。
 ですから、太陽と同じような恒星が惑星系をもつ確率はかなり高いと思います。
 興味深いのは、最近、ハッブル宇宙望遠鏡の部品が新しいものと交換され、惑星の発見が非常に容易になったことです。今後、そうした発見が続々となされると予想されます。惑星の生成の仕組みは別に珍しいものでも特殊なものでもありません。惑星が誕生する可能性は実際にはかなり高いと思います。
 池田 そうしますと、その惑星上で地球のように生命が発生する可能性も十分に考えられるわけですね。
2  地球外生物の証拠
 博士 私の見方によれば、地球外生命が存在することは、たんに考えられるというだけではなく絶対に確実です。この地球上に生命が存在しているのと同じくらい確かなことです。この問題を研究する出発点として、私たちはまず地球上の生命それ自体を調べなければなりません。
 地球上の生命は、その中に含まれている情報という面で本質的に複雑な形をしています。このことから推論して、生命を構成する要素は、ウイルスかバクテリアという微細な形で発生したのですが、それは地球上ではなくて宇宙の中であったといえます。
 地球上の生命は、そのように宇宙で発生した微片が寄り集まってできあがったのです。どのような場所であっても、条件さえ整えば生命が根づき、進化するのです。
 今や天文学者たちは、惑星や彗星ができたのは恒星が形成された当然の結果にちがいないと考えています。したがって、銀河系だけをとってみても、その中には太陽系のような惑星系が何十億とあるにちがいありません。ですから、地球上の生命にいくぶん似かよった生命体が、そうした惑星系の中のかなり多くの惑星に誕生しているにちがいありません。
 池田 現在、星間物質のスペクトル研究が進んでいますが、その中に、原子だけでなく水酸基、アンモニア、水分子をはじめ、ホルムアルデヒドなどさまざまな星間分子が発見されています。生命を形成するアミノ酸こそまだ見つかっていませんが、その素材が星間物質に含まれていることが明らかになっております。
 哲学者カントは、三十一歳のときに『天界の一般自然史と理論』を発表しておりますが、現在の太陽系生成論も、太陽系星雲の生成発展理論として、この著作の精神を引き継いでおります。この中でカントは、火星や木星など他の惑星に住む生命体についても考察しています。現在では、この説はカントのたんなる空想にすぎないと片づける人もいますが、私は、「私の上なる星をちりばめた空と私のうちなる道徳的法則」(『実践理性批判』波多野精一、宮本和吉、篠田英雄共訳、岩波文庫)を思索していたカントにとっては、必然的な帰結であったのではないかと思うのです。
 博士 生命の形成に必要な化学物質が銀河系内に広範囲にわたって存在している、と言われましたが、まさにおっしゃるとおりであり、そのことは十分に認められております。
 また、それほどは認められていませんが、同じくらい十分な根拠があり立証もされているのが、私とフレッド・ホイル博士の主張、つまりウイルスやバクテリアの微片と見分けのつかないような粒子が銀河系内に広範囲にわたって存在するという説です。この推論は、詳細に調べたバクテリア組織のスペクトルにもとづいています。そのスペクトルが、宇宙空間や彗星の塵のスペクトルとぴったり符合しているのです。ただ教育上の偏見がじゃまをして、そうした主張の正当性を認めたがらないだけなのです。
 科学者たちは、巨額の研究費を使って地球外生命を探し求めてきました。ところが、地球外生命の存在を示す証拠が現れるたびに、彼らはそうした証拠を避けて後ずさりし、何かと理由をつけてはそのデータを実際よりも低く値踏みしたり、あるいはまったく無視したりするのです。
 『宇宙旅行者――生命をもたらしたもの』というホイル博士と私の共著になる本では、太陽系内の彗星や地球以外の惑星に微生物の存在する天文学上の証拠があることを指摘しています。また金星の大気や火星・木星・土星から得られたデータも、すべて微生物の存在を示しています。
 池田 アポロ-11号で月面に人間が初めて第一歩をしるしたのが、一九六九年七月のことでした。宇宙飛行士がもち帰った月の石も惑星起源の貴重な資料になりました。実は一九八四年、アメリカのスカイラブの船長だったジェラルド・P・カー博士をとおして〈月の石〉を六種類、特別に貸与していただき、青少年のために「宇宙展」を開催し、関心を呼びました。
 博士 月ではどのような生命体も発見されておりません。これは予想どおりのことです。月には大気がありませんので、たとえ粒子状の生命体や有機体の分子が到来したとしても、それは高速で月面に衝突し、死滅してしまうからです。
 池田 その後、アメリカでは火星探査計画が進められていますね。
3  期待される火星探査
 博士 火星探査機バイキングが一九七六年にもたらした情報は、微生物が火星の表面に近いところで活動していると推測すれば、まさにそれとぴったり一致すると現在では考えられています。
 二つの実験がバイキングによって行われましたが、たがいに相いれない結果を示すものだと当時は考えられました。一つの実験では、バクテリアの成長に適した滋養物が火星の土壌の上に注がれました。すると土壌が泡を吹き、盛んに炭酸ガスを放出しました。つまり、バクテリアがいる場合とまったく同じだったのです。もう一つの実験は有機体の分子を探索するためのものでしたが、何も発見されませんでした。
 このふたとおりの結果を総合して、これは火星に生物がいるという説と合致しないと考えられました。もし生物が活動していれば有機体の分子が存在するはずであるのに、それが発見されなかったから、というのがその理由でした。
 しかし現在では話が違ってきています。バイキングの実験と同じことがその後、地球の南極の氷が干上がってしまった峡谷(そこでは生物の存在が確認されています)で行われ、火星のときと同様の結果がでました。
 南極は生物にとってきわめて不利な環境ですから、生命体内の物質代謝は非常にゆっくりとしたペースで進行します。したがって生じる有機物があまりに微量なため、その実験では検出できなかったのです。火星における状況もこれときわめて似かよっていると考えられます。
 さらに注目すべきことは、バイキングが火星で行なった実験の結果について、生命存在説以外の見解による説明がいまだにできないでいるということです。
 一九九六年になって、この(=火星にバクテリアがいるという)事実はNASAによって、ようやく認められるようになりました。十年後に予定されている火星探査のために、今さまざまな計画が立案中ですが、それはなんと火星から微生物が、それももしかしたら人間の生命に有害な病原性の微生物が地球に持ち込まれるかもしれないので、不測の自体に備えての計画なのです。
 池田 一九九六年八月六日、デーヴィッド・S・マッケイ博士をリーダーとする米航空宇宙局(NASA)の科学者のチームが、注目すべき発表を行いました。その内容は、火星から地球にやってきた岩石のなかに化石化した微生物の存在を示す証拠がある、というものです。これは最近の研究のなかでも、最重要の発見の一つであると思いますが、博士はどのように考えられていますか。
 博士 私もまったくその通りだと思います。ゆくゆくは、十六世紀のコペルニクス、ガリレオ、ニュートンによる発見や、十九世紀のダーウィンによる発見にも匹敵する重要な転機であったということが分かるでしょう。しかし、この報告にはまだ明確にしなければならない側面が数多く残っています。NASAは昨年この発表を行ったことで、従来の地球中心の生命観を変える、重要なパラダイムの転換をしていることを暗にほのめかしています。
 八月六日の報告は、火星からやってきたと思われる一・九キロの隕石(ALH84001)の調査結果をまとめたものです。ALH84001は、一九八四年に南極大陸のアラン丘陵で発見された一群の隕石の一つです。約一五〇〇万年前に、小惑星か彗星の衝突によって、火星の表面から弾き飛ばされたものと考えられます。その放出物は、その後、太陽の周囲を回っていましたが、一万三〇〇〇年前に南極圏に落下し、発見されるまで、氷に埋もれたままになっていたのです。これらの隕石(別名SNC隕石)が火星から来たものらしいということは、いくつかの別個の基準によって確認されたようです。
 そのなかで最も説得力があるものの一つは、隕石の固体部分の内部に閉じこめられていた数種類の気体が抽出されたことです。これらの気体は、比較的多量に存在していたので、火星の大気中で発見された気体に類似していることが分かったのです。
 また、鉱物部分内部の酸素同位元素一七〇対一八〇の比率は火星で判明した比率に近いものであり、隕石が火星から来たことを疑う理由はまったくないそうです。
 池田 隕石は火星から来たものと考えていいようです。なぜそのようなことが確信をもっていえるのか、専門外の者には不思議な気がしますが、二十世紀における原子核の知識の発達によって、このようなことまで分かるようになったのだと思えば、驚異の念を禁じ得ません。このような知識の重要な基礎を築いたホイル博士やファウラー博士の業績には感服いたします。
 それに対して、隕石中に生命の痕跡が存在するという点については、どうでしょうか。NASAから発表された走査型電子顕微鏡によって撮影された写真には、まさにバクテリアのようなものが写っており、専門外の者が見れば、すぐにもこれはバクテリアだと思ってしまいそうです。
 しかし、それは地球のバクテリアの一〇〇分の一の大きさしかなく、今後予定されている伝送型電子顕微鏡TEMによる分析でも、生命の直接的な証拠を得るのは難しいと予想されています。実際、火星の隕石を分析したような精密な実験装置で地球の石をこれほど詳しく分析した経験がないので、地球の石の中のバクテリア化石に関する基本的な知識が不足しているともいわれています。
 博士 NASAの科学者達の調査によれば、隕石ALH84001の内部には、大きさが一ミクロン未満の炭酸塩の球体がいくつかあり、そのまわりに複雑な有機分子が沈積しています。これらの分子は、重合芳香族炭化水素を含んでいますが、これはバクテリアが分解する時に生じる、特徴的な生成物です。
 さらに科学者達は、数珠つなぎに連なった微小のバクテリアに構造や形状が似ているものを実際に発見しました。それらのなかには、磁鉄鉱――つまり、磁気を帯びた酸化鉄――と呼ばれる物質の結晶も含まれていました。
 周知のように、地球上には鉄を酸化させて、磁鉄鉱の結晶とまったく同型のものをつくる一群のバクテリアがあります。したがって、ALH84001の内部で発見された磁鉄鉱がバクテリアの活動によって形成されたことは十分考えられます。
 さらに生命の痕跡を示すと見られる徴候がもう一つあります。それは有機物質内で発見された炭素同位元素C―12とC―13の比率が通常よりも高いということです。この現象は、地球上では、生物の営みが行われている時には必ず起きるものです。生物は、炭素同位元素のうち、軽い方を吸収する傾向が、わずかながら強いからです。
 マッケイ博士等は、彼らの提示した判定がさまざまな要因を検討・評価した結果であることを認めています。博士等の見解では、今回得られた証拠を一つ一つ別個に見ると、たしかに控えめの解釈しかできないかもしれないが、それらを一括して検討すると、その全体像は微生物の痕跡を示しているというのです。
 当然のことながら、この火星生物存在説に対して多くの批判がなされていますし、いくつかの問題は解答が見つかっていません。今のところ、解決からはほど遠い状況であり、ここ数年間は、そうした状態が続くかもしれません。おそらく次回の火星探査によって、微生物の化石とか、もしかしたら生きる力を備えた微生物といった、もっと決定的なサンプルが地球に持ち帰られるまで待たなければならないでしょう。

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