Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

海外、国際部代表研修 「人間尊重」が仏法の精神

1991.1.18 スピーチ(1991.1〜)(池田大作全集第76巻)

前後
1  批判と改革の声封じた宗教裁判
 「知は力」である。ゆえにきょうも少々、語っておきたい。
 仏のことを「覚者」という。「目覚めたる人」という意味である。ここに象徴されるように、仏教は人間を賢明にし、知恵者とすることをめざしている。世界には、人間を盲目にし、無知にとどめ、権威の奴隷にしようとする宗教もある。しかし、仏教は根本的に異なっている。なかでも日蓮大聖人の仏法は、一切の民衆に成仏、すなわち「目覚めたる人」となる方途を教えられた大法である。
 私どもは、こうした仏教本来の精神を実践し、世界に示していかねばならない。
 大聖人の仏法を根本に、歴史をはじめ、さまざまなことを学びつつ、「世界広宣流布」への間違いない軌道をたしかにつくっていく必要がある。私が今、渾身のスピーチを続けている重要な理由もそこにある。
2  さて先日、「魔女狩り」について、お話しした(=一月十六日、海外派瑾退メンバー研修会)。その内容を聞かれたアメリカのある新聞記者から、リポートが寄せられた。また、多くの方からも、もつと話を聞きたいという要望があった。そこでそのリポートもまじえつつ、「魔女狩り」の歴史的背景などについて、重ねて語っておきたい。
 「魔女狩り」は、いわゆる「異端裁判」が発展し、庶民の上にまで拡大されたものである。カトリック教会の権力が繁栄の頂点を迎えた中世末期。それは、聖職者たちが堕落のどん底に落ちた時代でもあつた。
 免罪符(これを得れば″罪″は許されると説いた)を買うよう宣伝しては、儲けた。つまり、救済も、金銭で取引されるようになつた。また聖職者の地位も売買された。経済力が教会内の高位を約束した。ますます金が必要になってきた。悪循環である。
 聖職者たちの生活も乱脈を極めた。結婚が許されていないのは表向きのことで、子どもがいたり、愛人を何人も持っていたり、買春的行為も常識になっていた。
 そうした教会の堕落ぶりに、批判と改革の動きが起きたのも当然であろう。たとえば十二世紀初め、当時、文化がもっとも進んだ地域の一つであった南フランスから、教会への批判と、信仰のあるべき姿を求める声があがる。真のキリスト教は「教会」にはなく、信徒の心のなか、交わりのなかにある、と。
 この叫びは、現在、十六世紀の「宗教改革」に先駆けた民衆運動とも評価されている。
 しかし、当時の教会は「異端」と決めつけた。自分たちの特権と安楽を揺るがすからである。教会はつねづね言っていた。民衆が″聖なる″教会や聖職者を批判することは許されない、と。
 「王侯の権力は教会に由来する。ゆえに、王侯は聖職者の下僕である」「最下位の聖職者といえども王にまさる。諸侯とその人民は、聖職者の臣下である」、堕落を指摘されても、「それがどうしたというのだ。堕落しても聖職者は聖職者だ」と開きなおった。(森島恒雄『魔女狩り』岩波新書)
 やがて教会は、世俗の権力を動かし、この十二世紀の″異端″を弾圧する「十字軍」を派遣。二十年にわたって殺戮をほしいままにする。「異端者」は全滅した。同時に、南フランスに栄えた文化もまた滅びた。
3  このときの民衆の大抗議運動は、教会に大きな衝撃を与えた。これを放置していたら、われらの地位と生活はどうなるのか――。
 それ以前にも、″聖書に矛盾する教会の教義・指導″を批判する者を「異端」として取り締まってはいた。ただ、それらは比較的ゆるやかなものであった。
 しかし、この事件をきっかけに、教会の「異端」に対する姿勢は一変し、徹底的な撲滅をめざしはじめた。こうして「宗教裁判」が生まれたのである。
 やがて十四世紀に入り、「魔女狩り」と結びつくことによって、「宗教裁判」はその最盛期を迎える。数十万とも、数百万ともいわれる犠牲者を生んだ「魔女狩り」。かつてない狂気の嵐が吹き荒れた。
 ――教会権力による弾圧は、どんどん増幅され、エスカレートしていった。″芽″は未然につみ取っておくべきであった。早いうちにその横暴を糾し、軌道を修正しておくべきであった。しかし、ブレーキをかける者はいなかった。いたとしても皆、追放された。
 民衆のなかにも「ありがたい司祭さまのいわれることに間違いはないよ。さからうなんて罰当たりな!」と、かえって「作られた異端」に一緒になって石を投げる者が多かった。自分たちを助けるために戦っている人々に対して――。
 その報いは、あまりにも残酷な結果(魔女狩り)となって、民衆自身に返ってきた。いったん、魔女狩りの体制が認められ、軌道に乗ってからでは手遅れだったのである。あとは、ひたすらエカレートしていった。

1
1