Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

三十七回本部幹部会 仏法の″自由の精神″を世界ヘ

1991.1.6 スピーチ(1991.1〜)(池田大作全集第76巻)

前後
1  経済よりも、まず文化を愛する心を
 全国の皆さま、新年おめでとうございます(拍手)。とくに、本日、総会を迎えた「五年会」「中野兄弟会」の皆さま、本当におめでとう。(拍手)
 この一年、全国の同志の皆さまにとって、健康で充実した、楽しい一年でありますよう、私は心からお祈り申し上げている。(拍手)
 さて、「聖教新聞」の元日号を飾った「新春てい談」のゲストは、森繁久爾氏であった。
 大ベテランの俳優であり、演劇界の重鎮でもある森繁氏。私もかつて、戸田先生のご配慮で、芸術座で『暖簾のれん』の舞台を観賞した思い出もある。以来、尊敬もし、親しみを覚えている方である。
 とりわけ、氏が、『屋根の上のヴァイオリン弾き』の主役を九百回も務めたことは有名である。――きょうもあすも、自分自身の″役″を演じぬく。繰り返し、また繰り返し、わが人生の舞台に挑む。偉大な芸術も、人間も、そうした不断の努力のなかで練り上げられていくものであろう。
 また、氏のエッセーは軽妙ななかにも含蓄深いが、「新春てい談」も味わい深い内容であった。氏の風雪の人生の奥行きの深さが、にじみ出ている。光っている。ここでは、そのいくつかをご紹介したい。
2  まず、森繁氏の好きな言葉は「失敗が人間を作る」であるという。また青年に期待を寄せつつ、「成功の半分は忍耐」「結局、失敗を恐れず、忍耐に忍耐を重ね、どん底からはい上がってくるなかで人間は鍛えられる」と。まったく同感である。
 さらに、「厳しい鍛えなくして青年は育ちません」「困難を避けるな」「困難はつねに君のチャンスだ」とも語っておられる。これまた、私どもが日ごろ訴えていることである。
 氏のそばには、たくさんの俳優が集まってくる。その人たちに、いつも語っているのは、「お金なんかに惑わされるな」ということだ、と。
 「人間というのは弱いもので、金に負けたり、名誉に負けたりするんです。役者にはそんなもの何も関係ないと私は断言するんですがね。人間、金で動くようになったらおしまいですよ」
 まったく、そのとおりだと思う。金は人を狂わせる。心をむしばみ、破る魔性をもっている。″金で動く″のも不幸、″金で動いている″人を見抜けないのも愚かである。
 続けて、「私は江戸時代からの由緒ある家に生まれ、お金もいっぱいありました。その私が言うのですから信じてください。人間はお金がたまるほど、いばって傲慢になる。お金がなければないで、自分を卑下して人間を小さくしてしまう。ですから、きょうもあすも『ゼロからの出発!』――これが私の生き方です」と述べておられる。
 一流の″わが道″を歩んでおられる方の言葉には、人生、社会の万般にわたる真理の響きがある。
3  また、森繁氏は、経済にばかり気をとられ、文化に対してあまりに貧弱な日本の現状を強く嘆かれている。
 「ヨーロッパでは、まず、文化を与えることを教えている。日本はもうけることばかり教えている気がします」――文化を愛する心を教えていない。それは人間を愛する心を失っていることではないだろうか。人間として肝心かなめの急所を教えず、金がすべてになってしまっている――。
 このことは、著書の中でも、「よく金持ちに、それで儲かったらどうしますと聞くと、海外に工場を持ち云々という。(中略)一人ぐらい、『この金を一つ貴国の文化のためにおつかい下さい』と、目のひらくような返事が出来ないものか」(『人師は遭い難し』新潮社)等と、しばしば論じておられる。
 繁栄させてくださった人たちに、ご恩返しを。そんな心の豊かさを、なぜ日本人はもてないのか。それこそ、人間らしい生き方ではないのか――。私も同じ気持ちである。ゆえに世界の文化と教育のために、この数十年、微力をささげてきた。
 「ヨーロッパでは、まず、文化を与えることを教えている」と語る森繁氏。てい談では、終戦直後の″満州″(中国東北部)でのエピソードを紹介されている。
 ソ連兵が収奪しているところに出あった時のこと。「彼らがチェロを見つけると『音楽家がいるのか』と聞くんです。そして、全部返すから演奏してくれと。文化の幅広さの違いですね」――。
 豊かな心を育てたい。経済ばかりでは、あまりにも貧しい。文化に心潤う社会を、そして、人間が人間らしく生きる「人間主義」の世紀を――私どもの長年の主張もここにある。
 森繁氏も、てい談の中で、「物の豊かさのなかで、人間の心が枯れている。心、精神の復興こそ、最大の課題」と語られ、私どもの「人間主義」の運動に共鳴してくださっている。
 また氏は、てい談に出席した新進女優の西條晴美さんにも、あたたかい励ましの言葉を贈られている。――文化を愛する人はいばらない。こまやかな心くばりを忘れないものだ。
 「有名になったら、人が変わるのが多いからね。何があっても『いつに変わらぬ西條さん』であってください」。名優の、また人生の達人の言と思う。
 名声や地位、財産を得て、人間が変わってしまう人はあまりに多い。それでは、名声や財産のあやつり人形になったようなものである。そのようなものに左右されず、人間として不変の自分をどう生きていくか。そこに人生の戦いがあり、信仰者としての生き方もある。

1
1