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歴史を変えた病 人類の歴史は病気との闘争

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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1  池田 鳥インフルエンザが国内で問題になっていますね。
 森田 はい。最初に山口県で検出されましたが、その後、各地でも、検出されています。これらの鳥インフルエンザは、きわめて似たウイルスによることが、わかっています。感染力が強く、いずれも鶏の大量死が見られます。
 池田 感染症は怖いですね。
 三十一年前になりますが、世界的な微生物学者であり、ピュリツァー賞にも輝いた、アメリカのルネ・デュボス博士とお会いしたことがあります。(一九七三年十一月)
 その年の春、私は、二年越しのトインビー博士との対談を終えました。その最後の日に、トインビー博士は、ご自身の友人を私に紹介してくださった。その中の一人がデュボス博士だったのです。
 デュボス博士はつづっています。
 「政治史の方向が決定されるのは、政治家や軍人の力というより、伝染病の影響によることがむしろ多かった。病気はまた、文明の風潮にも影響を及ぼす」(ルネ・デュボス、ジーン・デュボス『白い疫病』北錬平訳、結核予防会)
 たしかに疫病は人類の歴史に大きな影響をあたえてきた。人類の歴史は、ある意味で、そうした病気との闘いの連続であったとも言えるかもしれない。
 浅川 新しい感染症も生まれています。今後も必ず現れると思います。
 池田 今回は、いつもと雰囲気を変えて、こうした病気との闘いの歴史について考えてみてはどうでしょう。
 森田・豊福・浅川 よろしく・お願いします
2  鶏肉・卵は七五度に加熱して調理を
 池田 話はもどりますが、鳥インフルエンザは、人にも感染することがありますか。
 豊福 国内では、そうした報告はまだありませんが、海外では人への感染が確認されています。幸い、人から人へ感染が広がらなかったため、大流行にはいたっていません。(=二〇〇八年四月現在、一部の国できわめて限定的で非持続的だが、人から人へ感染した可能性の残る事例が報告されている)
 森田 今いちばん心配されているのは、そのことです。鳥から人への感染が繰り返されることで、このインフルエンザウイルスが、人から人へ感染する能力を持つようになるのが怖い。ですから、早期に発見し、人に感染する能力を持つ前に根絶しようとしているのです。
 池田 鶏肉や鶏卵は食べても安全なのですね。
 豊福 ええ。今までは、鶏肉や鶏卵から感染したケースはありません。これまで人に感染したのは、感染した鳥と近距離で接触した場合、または鳥の内臓や排泄物に接触した場合がほとんどです。
 森田 感染した鶏やその卵が市場に出回るということも、現在はないと思います。
 それでも心配な方は、食品の中心温度がセ氏七五度以上に達するよう加熱してから使ってください。そうすればウイルスは死滅します。
 浅川 鳥インフルエンザは海外でも発生していますが、そうした国への旅行は大丈夫ですか。
 森田 鳥インフルエンザが発生・流行した地域などを訪れ、不用意に生きた鳥などの施設や病気の鳥、死んだ鳥へ近づくことは、やめてほしいですね。
 池田 小鳥などをぺットとして飼う人も多い。家で飼っているぺットへの感染は心配ないですか。
 豊福 鳥インフルエンザが鶏やアヒルなどに感染することは知られていますが、ぺットの小鳥がすぐさま感染の危険にさらされることはありません。
 浅川 ただ鳥や動物は、人への感染の有無は別として、鳥インフルエンザにかぎらず、さまざまなウイルスを保有していることがあります。ですから、動物にふれた手は洗うこと、排泄物は速やかに処理し、清潔にすることを心がけてほしいと思います。健康を維持するためには、まず感染源を体に寄せつけないことです。
 池田 よくわかりました。身近なことが大切ですね。たとえば風邪などを防ぐためにも、日常的に手洗いやうがいが大切なのに、意外とやっていないものです。
 ふだんの心がけを大事にするのが、健康の智慧です。
3  未知の恐怖から悲劇が――憎悪のデマが迫害を生んだ
 池田 動物から感染して、人類に、大きな被害をあたえた病気には、ペストがありますね。
 浅川 はい。十四世紀に大流行し、ヨーロッパを席巻しました。
 森田 ペストは「黒死病」と呼ばれ、畏れられていました。全身が黒ずむところから、そう呼ばれたようです。しかし、それがペスト菌によるものだとはわかっていませんでした。
 池田 どれくらいの被害が出たのですか。
 豊福 死者はヨーロッパだけでも、二千五百万から三千五百万人におよんだのではないかと推定されています。第二次世界大戦での(連合国と枢軸国の)戦死者数三千八百万人にはおよばないまでも、当時の人口を考えると、その死亡者は、どんな戦争も比較になりません。
 森田 人口が密集する都市では、死亡者の数は人口の半分を超えていたのではないかとも言われています。
 池田 二人のうち、どちらかが死ぬ――そうした不安が当時の社会を覆った。原因もわからない――言い知れぬ恐怖が、さらなる悲劇を生んでいきましたね。
 豊福 はい。ユダヤ人への迫害です。黒死病の流行は「ユダヤ人が井戸に毒を投げこんだからだ」との根拠のないうわさが広まり、虐殺が繰り広げられました。
 池田 ペストの歴史を語るうえで見すごすことのできない史実です。
 このうわさは恣意的に、捏造された″デモ″であったともされている。
 豊福 ユダヤ人に対する、日ごろからの、言われなき反感・憎悪が火を噴いたと言われています。
 森田 多くのユダヤ人が、焼き殺され、死体は樽につめられ、川に沈められたと言います。また居住区が焼かれ、財産を没収された人もいた。犠牲者には、ユダヤ人だけでなく、当時のハンセン病患者もいました。
 池田 根も葉もないうわさが″既定の事実″として流布され、ときに多くの人々を狂気の行動へとかりたて、ほんろうしていく。そうした恐ろしさを人間社会は持っている。とくに災害や疫病のような社会不安のときには、それが強まる傾向があります。
 浅川 関東大震災のさいの朝鮮人虐殺もそうですね。
 池田 断じて忘れてはならない、また繰り返してはならない悲劇です。世の中、いったい何が「真実」で、なのか――。事象の奥にある本質をとらえる「眼」を持たねばならない。そして、虚偽や悪と戦う「賢さ」と「強さ」を持たなければ、正義を守りぬくことはできない。邪悪がまかり通る社会になってしまう。
 浅川 健康を守るためにも、そうした賢さや強さをもって、正しい知識を得ていくことが大切だと思います。ペストは当時、病原体も感染経路もわかっていなかったため、防ぎようがありませんでした。
 もしわかっていたら、そうした悲劇も最小限にとどめることができたのではないかと思います。
 池田 そうですね。何でも正しい知識がないと損をする。だまされてしまう。まして病気は生死にかかわってくる重大問題です。
 森田 ぺストは今日、大流行する危険性はほとんどなくなりました。その原因には、ペスト菌を持つノミがとりついたネズミの駆逐など、さまざまな説があげられていますが、やはり大きいのは、人類が都市の公衆衛生に取り組んだことだと思います。

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