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日蓮大聖人・池田大作

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自然こそ最良の教師 ルソー『エミール』

「若き日の読書」「続・若き日の読書」(池田大作全集第23巻)

前後
1  世界の子どもたちが愛読する「結んで、ひらいて」のメロディーが、ジヤン=ジヤツク・ルソーの作曲になったことは、あまり知られていない。単調なメロディーだが、童心をとらえて放さぬやさしさ、まじりけのない子どもらしさを一杯に湛えた歌である。
 この童謡は、ルソーの代表的なオペラ『村の占者』のなかの一節である。そのことを私が知ったのは、たしか戦後まもないころ──『社会契約論』や『人間不平等起原論』、それに『エミール』など、ルソーの著作を集中的に読んだときのことであった。
 なかでも『エミール』には感動した。そこには「結んで、ひらいて」の自然な旋律そのままに、巨星の児童教育に傾けた情熱が、深く、静かに迸っているかのようだった。
2  恩師戸田城聖先生に師事してからも、この『エミール』は、先生と私とのあいだで、幾度となく話題になった。教職を経験されたことのある恩師も、ルソーの教育理念には強い関心を抱いていたようである。私の「日記」には、昭和二十五年(一九五〇年)十月二日の項に次のような走り書きがある。
  夕刻、恩師と共に、小岩のK宅を訪う。二人して、電車中にて、種々仕事の話。
  帰り、小岩駅前にて、おすしを、御馳走になる。
  帰りの車中は、エミールの話、文学の話に花が咲く。目黒駅まで、お送りする。
 そのときの会話の一々は覚えていないが、戸田先生の恩師の牧口常三郎先生もまたルソーを愛読されていた話をうかがったことがある。なるほど、牧口先生の畢生の大著『創価教育学体系』にも、しばしばルソーの名が見える。その一部を抜粋すると、たとえば教育の改革案を展開されるなかに、次のような記述が見られる。
3   コメニュース、ルッソー等の教育改革家の覚醒以来の事で、ペスタロッチが敢然旧い伝統に反抗して、開発教授の新旗標を樹てたのは即ちこれである。然る所、因襲の久しき教育と云へば、自ら知識の伝授と心得たのはくにの東西を問はぬ状態で、惟へば希臘ギリシャの昔ソクラテースが知識は伝授することは出来ぬと道破して居るのであるが、今に尚ほ此の謬が改まって居らないのによる。入学試験制度の結果といふ事も出来ややう。
  
 このように、牧口先生が「因襲の久しき」と糾弾された知識偏重の教育──それは、ルソーの『エミール』でも痛撃されている。思うに、この二つの東西の著作は、教育理論の深い次元で合致するものがあるようだ。

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