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日蓮大聖人・池田大作

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ローマ-クラブ創始者 ぺッチェイ氏  

「私の人物観」(池田大作全集第21巻)

前後
1  ローマ・クラブを主宰するアウレリオ・ペッチェイ氏と、お会いしたのは、一九七五年五月、パリでのことであった。
2  芝生の庭にパラソルを立て、ソファを持ち出して、にわか造りのサロンとした。
 パリ陽春の空は抜けるように青く、日は燦として降り注ぎ、芝草の葉裏にひそんでいた朝方の露もとうに消えていた。庭は幾種類かの樹木にふちどられ、リンゴの花が葉隠れに可憐な白を点じている。
 ペッチェイ氏は、日に映える芝生の緑を身に浴び、ソファに深々とくつろいでおられる。
 ローマ・クラブの啓蒙活動は、衝撃的なリポート「成長の限界」などで、世界的に視聴を集めている。その舵取り役のペッチェイ氏が、腕だけの理論家とは違った、むしろ捨て身なまでの実践家であろうと容易に想像できるところである。
 そんな氏の行動性の内面にくぐり入ってみようと、かねて聞きおよんでいた獄中体験をお聞きしてみた。私は、恩師の獄中体験を、私自身も短時日ながら追体験したことによって、大義のための獄であれば、それが生涯の発条になりうると考えている。
 抗ファシズムの地下運動に加わっていた氏は、捕らえられて一年近く投獄されている。政治犯ゆえに拷問にもあったが屈しなかった。虐待され、ひどい目にあった。死をも幾度か覚悟したが、保証人となって弁護してくれた友人も、拷問に耐えてくれた、おかげで、ついに自由の身となったという。
3  他に身のおきどころのない獄中は、人間を自分自身に突き戻す。心の回路を果てもなくたどり、深い深い内省のいきつくところは、自己の立脚地の揺るぎない定立であろう。
 「暗い牢の中で、初めて自分という存在を知りました。絶えまない不安に襲われながら、私は、将来のことを考え抜いた。未来再び、こんなことを起こしてはならない、それだけを考えました」
 自余の人に二度と戦争の残虐があってはならぬ、そのために世間をよく知り、尽力しよう、と強く心を固めたという。「だから、逆説的にはファシストからも教えられたというわけなのです」と、氏は肩をすぼめて、そういう意味なら、今では彼らを許す気持ちになっている、とも語った。痛手を受けたぶんだけ強く鍛えられ、人間的にも向上することを得たのである。
 獄中の友情と、敵からも学んだという氏の宏量な心境には、私も強く打たれた。それから私たちは、ひとしきり権力の魔性の問題について語り合った。

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