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「アロハ」の精神と世界市民 池田大作  

「四季の雁書」井上靖(池田大作全集第17巻)

前後
1  先月末、ハワイヘの短い旅行から帰りましたが、それからのほとんどの日々を、私はまた八王子の創価大学で過ごしております。たしか前回の手紙もここで認めましたが、季節はいつしか残暑の候に移り変わりました。にぎやかな蝉の声にかわって、秋の虫のすだく音が聞かれるのも、もう間近いことのようです。こちらはやはり都心と較べて、ずっと涼しいようで、とくに夜半には心なしか秋の気配さえ感じられます。
 今、大学の近くの寮で、御返事を書こうと思い、改めて御書面を読み返しております。読み返すたびに、御書面に綴られた一つ一つの事どもが、胸に深く、滲み入るような感慨を覚え、何か一種の精神の昂揚した気分を抑えることができません。夜は静かに更けて行きますが、本当に時間の経過さえ忘れてしまうような気が致します。種々の事情があり、身辺がなかなか多忙を極めている状態でしたが、この昂揚とそしてその後に続くにちがいない静穏のひとときは、こよなく貴重なものとして、大切にしたいと思っております。
2  冒頭にお書きになられた″烈日″への想い、そして「夕映え」と「夏」という二つの詩には、事実、烈しく生き続けてこられた井上さんの人生の心象風景が鮮烈に立ち現れてくるような印象を受けました。
 「失意の日も、得意の日も、それから長い歳月が経つと、すっかり消えてしまい、真剣に烈しく生きた時の思いだけが、いかに小さくても、消えないで残っている」と書かれた一節には、一瞬、何か襟を正さざるを得ないような厳粛な響きを感じました。その言葉に含まれた真実が、幾分なりとも実感できる年齢に、漸く私も近づいてきたということかも知れません。私も私なりに、めくるめくような太陽を直視しながら、自分の生涯に、ただ烈しく生きた時を刻みつけていきたいと決意しております。
3  さて、何から御報告申し上げたらよいものでしょうか。順序として、まずハワイ訪問のことをお話し致したいと存じます。井上さんも数年前の夏の二カ月をハワイでお過ごしとのことでしたが、今回、私はアメリカの同信の団体のメンバーがハワイで開催した総会に招かれて出席致しました。
 ハワイに着いた日の夜は、ちょうど満月でした。深々と青く暮れた空に、南国の星座が燦き、冴えた月の光と交響しあっているような趣でした。サンゴ礁を越えて、寄せては返す波の音が、太古から絶えることのない自然の旋律を奏でているような夜でした。
 今回の総会(コンベンンション)は、来年がアメリカ建国の二百年にあたりますので、その前年祭という意義を含めて行われたものです。今、アメリカ各地では建国二百年にちなんだ行事が盛んに行われているとのことですが、私どものコンベンションも、その一環であったわけです。同信の友人たちが、その地域に融合して、元気に溌剌として活動している姿を見るのは、実に嬉しいことでした。
 主舞台として、ワイキキの浜を臨む海上に浮き島のステージが特設されました。海上といっても、七十メートルばかり離れた沖合いですが、そこに人工の島を浮かべ、ステージに仕立てあげたものです。
 ウイットに富み、ジョーク好きのアメリカ人は、ある日突然に、ワイキキの沖に出現したこの浮き島を話題にして、これは未確認浮遊物体(UFO)ではないかとか、幻のアトランテイス大陸の一部が隆起したものではないかとか、さまざまに興じていたようです。
 それはともかく、私はいつもハワイに行って感じることがあります。この広い太平洋に浮かぶ島――それは地球民族の融合の象徴とも思えるのですが――、その島の心を、最もよく表しているものは、あの「アロハ」という言葉ではないか、と思うのです。
 晴れやかな歓迎の時にも、哀歓をこめた別離の時にも、ハワイの人々は「アローハ」と言います。そこには深い好意が示されており、その情感にあふれた言葉の響きのなかに、友愛を重んじる調和の精神がこめられているように感じられます。歴史的にみても、多くの民族が集って形成された、このハワイの地には、こうした「アロハ」の精神は、おそらく必要不可欠のものだったにちがいありません。
 日系人も多くおり、現に、州知事のジョージ・アリヨシ氏は日系二世の方です。氏とは今年の一月、アメリカからの帰途、ハワイに立ち寄った時に初めてお会いしましたが、今回の総会でも幾度か親しく語りあう機会がありました。日系人の州知事は氏が初めてということですが、伺ってみると、氏の御両親がハワイに渡って以来、貧苦のなかで相当苦労されたようです。しかし今、その辛苦を乗り越え、世代から世代へと、その地の土となり、その地のために生きぬき、貢献されている様子は、心強いものがあります。
 日本人はとかく異邦にとけこまず、孤立しがちであるという評もよく聞きますが、こうした人々の努力によって世界市民としての日本人のイメージも確立されていくのではないかと思います。これはハワイに限らず、ロサンゼルスやサンフランシスコなどのアメリカ西部や、ベルー、プラジルを訪れた時にも抱いた感慨の一つですが。

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