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日蓮大聖人・池田大作

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5 生命工学の課題  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
1  池田 この対談の最後に、私は、未来のために真剣に考え、慎重に取り組むべき問題として、科学の急速の進歩に関連しておきている諸問題を、取り上げたいと思います。とくに遺伝子組みかえ技術をはじめとして、細胞融合、胚融合、胚移植等の生命操作の技術は、人類の存続にかかわる問題を提起しています。
 生命工学は、医学、生物学、農学、薬学、環境問題、エネルギー問題にまでおよぶ広い領域にわたって、大きな変革をひきおこしつつあります。遺伝子を直接的に操作し、生命を改造し、創造する技術であるという点からすれば、核エネルギーの解放に勝るとも劣らぬ課題を提示したことになります。
 生命工学と、その基盤にある生命科学を人類が誤用し、自己と自然の生命操作を誤り、遺伝子を混乱させれば、人間は人間ではなくなり、自滅する恐れさえあります。今日、この生命科学をコントロールし、人類の存続をはかるために、生命倫理の確立が要請されているのも、とうぜんのことといえましょう。そして、この生命倫理の形成の問題については、科学者や法律学者とともに、宗教家や哲学者も、多大の責任を負うべきでしょう。
2  デルボラフ それは同時に、われわれの考察がどの程度、この「新しい人間像を求めて」という主題にかない、道を切りひらけるのか、という問題を提起するものとなりましょう。この「未来のための現在」という最終章でも、ここまで、この主題にはほとんどふれずにきてしまいました。われわれは歴史的反省能力のおかげで、われわれ以前のどの世代よりも徹底的かつ普遍的に、文化遺産を享受することができます。
 しかし、その今日到達している文化水準も、すでに見てきたように、環境汚染によって、部分的に、直接脅かされていますが、核戦争に突入すれば、全面的に消滅してしまうのです。この現代の技術力は、ここ数十年間、その商業主義化と戦略的利用のゆえに評判がよくないとしても、これまで想像もできなかったような新機軸を開くことによって、われわれに新しい満足感と矜持をもたらしてくれています。
 もし人間が、とくにその歴史意識によって他の動物類から区別されるとすると、本来、そこには、自己の自然史、すなわち進化の過程に対する洞察もふくまれることになります。この進化説は、いちおうダーウィンやその後継者の説にしたがって、人間が生命形態の頂点にのぼったとすることにより、その立場から、ありとあらゆる生物種の進化の歴史を、その生成過程において眺望するものでした。ところがいまや、たんに眺めるだけでなく、作用をくわえ、自分たちの望む方向へと操作する可能性を開いていこうとしているわけです。
 さらに、医療や外科手術上の技術の成果をあわせ考えてみると、一九六二年にロンドンで開催されたシバ・シンポジウム「人とその未来」で、とっくの昔にすたれたはずの、アングロ・サクソン人の社会進化論が、もてはやされたのもうなずけるのです。そこで展開された考えのなかには、ありとあらゆる進歩観が織りこまれていました。
 たとえば、すべての伝染病を克服した“無菌の世界”とか、苦痛がなく、移植で臓器をすべて交換することによる“終わりのない生命”とか、また、たえず遺伝子を改良することによって、優生学的に人類の進化をコントロールし、加速するといった考えが、検討されたのです。
3  池田 一九六二年といえば、まだ大部分の科学者も、ましてや一般大衆も、科学の進歩に盲目的ともいえる信頼を寄せていた時代ですね。そこでは、バラ色の未来像がえがかれていました。

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