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日蓮大聖人・池田大作

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4 文化遺産の保存  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

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1  池田 最初に述べた自然の保護の問題とともに、現代文明が急速に破壊し、この世界から消滅させつつあるものに、文化遺産があります。これは、第二章で語りあった“伝統的生活の近代化”が、生き方や価値観であったのと少し異なり、過去の文化・生活の遺物にかかわる問題です。
 日本では、とくに、こうした文化遺産の消失がはげしいように思われます。なかでも都市においては、古い建物はつぎつぎと壊され、近代的な建築にかえられています。
 その点、私の知るかぎりでは、ヨーロッパの場合、古くからの建物や町並みが、非常に大切にされているように思います。ドイツの中世そのままの町や、パリの裏通りに残っている古い町並みを見ると、歴史と文化への尊敬心をうながされずにはいられません。
 もちろん、日本にも、寺院や城などは古いものが保存されてきていますが、庶民の生活とは、ほとんど関係のないものばかりです。やや庶民にかかわるものといえば、古い農家などがありますが、せいぜい二百年ぐらいのものです。ヨーロッパの場合のような、五、六百年というのとは比較になりません。しかも、そうした古い建物に住んでいる人々は、便利になった近代生活のほうを望んで、どしどし建てかえていきます。
 近年、日本では、原始時代の集落跡が発見されたり、古代の寺院の遺構が発掘されたりして、一種の歴史ブームがおきている感がありますが、しかし、全体的には、都市化、近代化の潮流に洗われて、身近な歴史的文化財は、つぎつぎと姿を消していきつつあります。
 こうした文化財の保護・保存の問題について、教授は、どのようにお考えになりますか。
2  デルボラフ 人類の歴史と伝統への態度については、これまで述べてきた環境破壊の問題にくらべて、喜ばしい展望が開かれていると思います。もし人類の業績が、たんに技術文明だけであるとすれば、歴史というものは存在しないといってよいでしょう。あるいは別の言い方をすると、歴史の問題にかかわることはないでしょう。
 科学技術的思惟というものは、量に還元できる構造や連関だけを問題にし、歴史的次元の問題を棚上げします。つまり、その対象の過去の経過とか、将来どう発展していくかということ、すなわち、その歴史的生成は度外視されるのです。しかし、人間は反省能力のおかげで、自分たち以前におきた事象に眼を向け、過去の遺産に対しては、自然科学的な「目的と手段」のカテゴリー(範疇)を超越した、特別な関係を見いだすことができます。
3  池田 歴史的次元の問題から目を背けさせているのは、科学技術的思惟とともに、経済的思惟ですね。
 経済的効率の悪いものはどんどん切り捨てて、効率のよいものにかえていくやり方です。古びた家よりも、新しいオフィスビルにして貸せば、はるかに高い収入が得られるわけですから。

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