Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

2 さまざまな汚染物質  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
1  池田 未来のために、現在の私たちが解決していかなければならない問題として、汚染物質の問題があります。先に提起した“自然の保護”が、生命をささえるものをいかに残すかであるのに対し、ここで申し上げたいのは、生命を害するものをいかに残さないようにするか、ということです。
 この問題は、一九六〇年代から七〇年代前半にかけて、先進諸国の各地で深刻な被害をもたらし、はげしい論議を呼びました。
 とくに日本では、九州の不知火海一帯で工場からタレ流された廃液中の汚染物質が魚介類に蓄積し、それを食べた多数の漁民、沿岸住民たちが有機水銀中毒症をひきおこし、重大な心身の障害におちいりました。また、日本海側の神通川流域では、やはり工場の廃棄物質にふくまれたカドミウムによって飲料水が汚染され、長年使用しつづけた農民が全身を激痛にさいなまれる骨の障害をこうむり、多くの犠牲者を出してしまいました。これらは、それぞれ“水俣病”“イタイイタイ病”と名づけられ、環境汚染の恐ろしさに対する、広範な人々の意識を呼びおこしました。
 そして、被害者に対する補償をめぐって裁判がおこなわれ、工場の廃棄物と心身の障害との因果関係についての調査・研究、そして論議がくりかえされました。いずれも裁判の結果が出るには、長い年月と、多くの人々のたいへんな努力を要しましたが、水俣病に関しては現在も新たに訴訟が提起されております。
 この間に環境汚染に反対する国民的な世論も高まり、政府は法律を改正し、企業も改善に力をそそぐなど、まだまだ不十分とはいえ全体的に解決への取り組みがなされたことは事実です。
 しかしながら、環境汚染の問題は、まだ完全に解決したわけではありません。たとえば、排出される汚染物質の総量規制がなされていないために、日本の国内では解決されたように見えても、実際には、大量の水や大気で有害物質をうすめて拡散しているにすぎない場合が多いのです。たとえば廃液中の問題物質の濃度を定め、企業もそれを守ったとしても、長期的に見れば、環境のなかに排出された有害物質の総量に変わりはないわけです。
2  デルボラフ この関連で興味深いと思えるのは、ヘルベルト・グルールという西ドイツの連邦議会議員が『略奪された地球』(一九七五年刊)という題名の本のなかで、地球を救う唯一の可能性は経済成長を即時停止することである、と主張していることです。この救済策は、ほとんどの政党が強硬に反対したため、連邦議会の賛同を得ることが、まったくできませんでした。
 たしかに、そうした経済成長をさまたげるような対応策は、すでに深刻な問題となっている失業を世界的に増大させることになるでしょうし、今日までのところ、環境浄化よりも経済成長のほうが重要視されてきています。公害のおもな原因についてどう考えようと、先にあげた著者が正しく指摘しているように、現在の環境の汚染・破壊の要因は、疑いもなく経済的領域、つまり、拡大する競合経済とその利潤追求にあります。この商業主義にくらべれば、狩猟熱とかスポーツ熱等も、いちおう、要因としてあげる意味はありますが、その重要性においては問題になりません。
 ここでとくに指摘すべき点は、先に述べた人口膨張が家屋や食糧その他の消費傾向を増大させ、自然環境にますます負担をかけるようになることです。人口が増大すれば、より多くの木材や薪が必要となり、土壌はより徹底して利用され、消費財への需要を高め、世界経済の拡大欲とその悪影響を増長することになります。それと並行して、環境に弊害をもたらす廃棄物やゴミが多くなっていきます。
 ここで深刻な問題となるのが、工場や家庭から排出されるゴミの処理です。比較してみると、つぎのようになります。一九七〇年の西ドイツでは、二億立方㍍以上のゴミや汚水が出ています。それが七二年になると、二億六千万立方㍍になりました。この量は、たとえてみれば、ミュンヘン市全域を一㍍の高さのゴミの山でおおうのに、十分な量です。
 農業には国際的競争をめざす拡大欲と、増加する人口分の食糧を供給しなければならない責任との両面がありますが、現状では、需要をみたすことよりも利潤追求が優先されています。このことは、たとえば欧州共同体内で商業上の理由から農産物の剰余分を廃棄するという、恥ずべきことが何度も実施されていることからもわかります。その廃棄される農産物で、第三世界の国々の飢饉を救うことができるのです。
3  池田 同じ問題は日本でもしばしばおこっています。ある種の作物が換金性が高いということで、多くの農家が作る結果、供給過多となり、値がさがって輸送費が赤字になってしまうため、泣く泣くトラクターでつぶしてしまうということが、往々にしてあります。投資した分が、結局、各農家に負債として残っていくことになります。

1
1