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日蓮大聖人・池田大作

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5 ドイツ人と仏教研究  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
1  池田 近代ヨーロッパにおけるキリスト教と仏教との出あいは、さまざまな興味深い問題を提供しております。
 仏教発祥の地であるインド亜大陸は、十九世紀初頭以来、ヨーロッパにとってはまず植民地として注目されました。イギリスをはじめヨーロッパ列強国は、その侵略政策の一環としてインド文化の研究を援助・促進したわけですが、その研究に従事した学者たちは、侵略政策と直接関係なく、純粋な学問的研究に情熱を燃やしたようです。
 その結果、十九世紀末ごろになると、インド学は学界の花形となり、英才が集うようになったのでしょう。このような気流のなかで、ベルリン大学がインド学・仏教学の中心の一つとして、世界的に有名になった時期もありました。
 こうした純粋の学術研究とは別に、宗教界においても、仏教はヨーロッパで注目されていったようです。その背景として、従来のキリスト教にあきたりない人々が、東方の諸宗教のなかにより優れたものを見いだそうとして関心を寄せ、とくに仏教のなかに、彼らが求めるものを発見したことがあげられるでしょう。
2  デルボラフ 人はさまざまな理由から仏教に近づくことができます。
 イギリス人はインドを植民地化した関係から仏教を知りましたが、ドイツ人の場合には、いろいろな理由が混在しています。独自の観念論的思惟傾向にもとづくインド的・仏教的哲学への傾倒、古代仏教の伝統の解明とともに開かれた文化・言語学的研究への関心、そして最後に――あなたが正しく指摘しておられるように――キリスト教にすべての点で失望して、仏教により多くの満足を期待した宗教的欲求などがあげられます。
3  池田 ヨーロッパにおける精神生活は、中世以来、長らくキリスト教によって統一されてきました。近世に入ると、カトリック教会に満足できなくなったことから宗教改革がおこり、プロテスタンティズムが生まれました。しかし、このプロテスタンティズムも教会として固定化すると、さらに、新しい理想を求める動きがでてきました。
 それらの動きのなかで、十九世紀初頭のロマン主義の運動は大きな潮流を形成しました。とくにドイツでは、哲学者や文学者のあいだで、早くから東方の宗教に興味をいだく人が多かったことは注目すべき現象です。
 ゲーテ、ヘーゲル、ショーペンハウエルなど、十九世紀初頭から前半期にかけての時期にもインドについては少しは知られていましたが、十九世紀後半のニーチェのころになると、インド諸宗教の文献が数多く紹介され、かなりくわしく知られるようになってきました。それゆえに、ニーチェは、キリスト教を批判するさいに、たびたび、バラモン教や仏教に言及することができたのでしょう。
 二十世紀はじめには、ヤスパースが仏教に深い関心をもち、彼の龍樹についての研究は、大きい影響をあたえました。また、文学者では、ヘルマン・ヘッセがゴータマ・シッダルタを主題にした作品『シッダルタ』(一九二二年刊)を書いています。
 こうした歴史的経過を見るとき、東方の宗教、なかんずく仏教に対するドイツ人の憧憬と傾斜には、他のヨーロッパ諸国にくらべて、とくにいちじるしいものを感ずるのです。

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