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日蓮大聖人・池田大作

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5 生命世界の調和  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
1  池田 生物がその生命を維持していく過程は、水や空気などの環境的物質を自己の体内に摂りいれるとともに、ちょうど肉食獣が草食獣あるいは自分より弱い肉食獣を餌食にするように、他の生物を犠牲にすることによって維持されます。こうした、環境的物質や他の生物に対するこの生命体の関係は、征服者であるとともに、恩恵の受益者でもあるということです。
 ヒューマニズムとは、人間が人間存在を心身両面の立場から、もっとも尊ぶべき目的であるとする考え方であるともいえましょう。その場合、その目的である自己を、周囲の環境や他の生物に対して、どのような関係にあるととらえるかで、ヒューマニズムのもつ特質はまったく異なってくるわけです。
 すなわち、周囲の環境的物質や他の生物に対する、征服者であるという関係でとらえれば、このヒューマニズムは、独善的で攻撃的・暴力的にさえなります。言いかえると、尊厳なのは自己のみであって、他はすべて自己を維持・発展させるための手段であり、犠牲となるべきものとしてしまうのです。
 その反対に、周囲の物質や他の生物は、われわれの尊厳性を助けてくれている恩恵者であるととらえれば、周囲の物質世界や他の生物に対して、感謝し慈しんでいこうという姿勢になるはずです。このヒューマニズムは、協調的・平和的で、開放的となるでしょう。
 生命が、こうした両様のニュアンスをもった、周囲との関係によって維持されていることは、人間ならだれしも気づくことですから、ヒューマニズムにおいても、東洋のそれと西洋のそれとまったく異なるというものではないでしょう。しかし、それにもかかわらず、全般的な色彩、強調点のちがいは認められるように思えます。
 ヨーロッパ人の精神的伝統、また現実の人生の生き方のうえから、こうした見方に対し、教授はどのように評価されますか。
2  デルボラフ これまで述べてきたヒューマニズム思想のすべてに共通する特質として、人間を、そのあまりに強烈な自己志向のゆえに、人間性以前の本性に対するどんな興味もすべて失ってしまった存在、と定義する傾向が見られます。ヒューマニズムのこうした人間中心的傾向は、それが本来、距離をたもっているユダヤ・キリスト教とも、あらゆる形態において共通しています。ユダヤ・キリスト教でも、人間はまさに「創造の栄冠」なのです。
 たしかに、この二つの思潮に共通する自己志向性には人間以外の生命に対する思い上がりがあり、これはだれ人も容認しないものです。
3  池田 いまさら取り上げるまでもないところですが、こうした考え方の原点になっている言葉として『旧約聖書』の創世記の、つぎの一節があります。
 「そこで神は言われた、『われわれは人をわれわれの像の通り、われわれに似るように造ろう。彼らに海の魚と、天の鳥と、家畜と、すべての地の獣と、すべての地の上に這うものとを支配させよう』と。そこで神は人を御自分の像の通りに創造された」(『旧約聖書―創世記』関根正雄訳、岩波文庫)。
 これは、人間こそ、この地上のあらゆる生物を意のままに支配する権限を全能の神からあたえられている、とするユダヤ・キリスト教の教えを示しています。

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