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日蓮大聖人・池田大作

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6 「ストレス」への対処  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
1  池田 現代の日本社会では、人口の都市集中と農村の過疎化、管理社会体制下の高度経済成長と急激な技術革新が、人々にストレスをひきおこし、それが心身両面に症状となってあらわれています。
 身体的側面では、成人病や慢性の消化器疾患がふえ、心の領域では、神経症や精神障害が増加してきています。さらに両者が密接に関連した、心身症と診断される障害も多いようです。
 こうしたノイローゼやうつ病、そして心身症などの発症に対して、身体的・心理的なストレスの充満する現代社会の様相が深くかかわっていることは、ほとんどの学者が一致して指摘しているところです。
2  デルボラフ たしかに近代化のマイナス面として、市民の健康におよぼす悪影響が見られます。ある国民を年齢構成別に見た場合、そこには三つから四つの世代が存在しており、その比率はとうぜん、同じではありません。世代差というのは、おのおのの経験や体験の広さの差にほかなりません。
 ドイツの場合ですと、戦前世代はもう少数の老人グループでしかなく、戦争体験者や戦後の経済復興の担い手となった世代は、年金を受ける年齢に近づいています。終戦直前に徴兵された若者も、いまでは五十代なかばになっています。今日ではすでに、戦争や戦後の復興のことを伝え聞いているだけの世代が、働きざかりの年齢に達しており、たとえばドイツ連邦共和国の首相であるコール氏のように、最高に責任ある政治的職務についています。
 ここにあげた世代は皆、全力を傾注しておのおのに課せられた任務を遂行してきましたし、あなたが「ストレス」と呼ばれた現象も十分、体験してきているはずです。彼らは、まず経済復興の時期、それにつづく高度経済成長の時代、そして最後に、はじめての経済危機やそれに刺激された力ある近隣諸国が、経済的競争を挑んできた時代を生きてきました。
 今日ではすでに第五世代コンピューターが出現するほどまでに技術革新がすすみ、競争に勝つための努力は、全勤労者がともに担っていかねばならなくなっており、とうぜんのことながら、そこではいちじるしく神経をすり減らします。
3  池田 日本で、とくに最近、重大な社会的関心を呼んでいるのは、中年期の人々のノイローゼとうつ病、ならびに自殺の増加です。こうした中年期の人々の、心身の異常現象をひきおこす要因として、第一に職場、第二に家庭、第三に世代的特徴があげられます。
 第一の職場については、従来、日本の企業では、終身雇用制、年功序列制が基本とされてきました。また、家族主義的な人間関係が、人々の仕事への意欲をささえてきました。
 ところが、最近では、これらがすべて崩れていこうとしています。職場では、しだいに実力主義が重んじられ、若者と年配者との世代の断絶と対立が目立ちはじめています。中間管理職の中年の人々が、両者のあいだに立って葛藤のしわ寄せを受けているのです。
 第二に、現代の日本の家庭は、憩いの場ではなくなろうとしています。とくに中年層の離婚率が上昇し、親子関係も種々の問題をはらみ、家庭内での暴力事件や殺人まで頻発するようになりました。家庭までもストレスの充満するところとなってきているのです。
 第三の世代的な特徴ですが、現在の中年層は、日本のもっともきびしい激動の時代を生きてきた人々で、少年期には軍国主義と戦争の悲惨さを味わい、青年期に入るころに戦争直後の飢餓にさらされました。それ以後、高度経済成長の担い手となり、日本の復興をささえてきたのですが、いま、急激な技術革新のために、見捨てられる危機感にさらされています。
 また、それぞれの段階で、古い価値観と新しい価値観との対立に直面し、葛藤をくりかえしてきた体験をもっており、このような体験が、心身症や成人病への抵抗力を弱めている、と医師や心理学者は主張しています。

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