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日蓮大聖人・池田大作

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4 家族制度の崩壊  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
1  池田 現代文明がもたらした新しい事態のなかで、人間形成という問題に対してもっとも切実な影響力をもっているのが、私は、家庭の崩壊ということであろうと考えています。もちろん「家庭の崩壊」といっても、家庭そのものが姿を消したわけではありませんし、これからもなくなりはしないでしょう。
 しかし、かつては老人たちが息子夫婦の家に同居し、孫たちの面倒を見たりするのがつねでした。あるいは、別居していても比較的近くにいて、つねに交流がありました。そうした世代間の密接なつながりが、いまは――とくに先進諸国では――なくなっています。老人の生活をささえているのは国家や公共機関による年金であり、極端な場合は、老人ホームが隔離された世界になってしまってさえいます。老人ホームに入っていない場合でも、息子夫婦や孫たちとの交流は、きわめて稀薄になっています。
 そのため、働きざかりの息子たちは、老いた人々を大切にしようという心を失い、孫たちも、老人があたえてくれる人生の知恵や、人生に対する思索の成果を受け継ぐことができなくなっています。
 人生でもっとも大事な人格形成の段階にある孫たちにとって、人生の終幕に近づきつつある老人たちの存在やその言動は、いかに学識や技能を身につけるかという次元よりもっと深いところにある、人間いかにあるべきか、人生とは何なのかを理解するうえで、かけがえのない素材を提供してくれるものです。幼いうちは、もちろんそうしたことを思考も理解もできないでしょうが、人生を生きていくなかで、この幼時に人格の基底に堆積されたものは、確固たる安定性と豊かな栄養をもたらしてくれるものです。
2  デルボラフ 家族構成の変化は、社会の近代化という過程のなかで出てきた、もっとも重大な結果の一つです。つまり、都市化による影響が、非常に大きな要因となっていると思います。
 前工業期のドイツでは、栽培されていた農作物と農業技術の相違を別にすれば、農村の形態や都市生活のあり方は、日本と大差ありませんでした。いなかの家庭では大家族と奉公人が、ともに整然と生活していました。都市の職人たちの家庭も同様な様式をとっており、階下が作業場で、上の階には夫妻と祖父母が、そして徒弟たちが一緒に住んでいました。
 ここで重要なことは、子どもたちも、こうした義務と課題の仕組みのなかで位置づけられ、彼ら独自の役割を担っていたということです。子どもたちは、農村においては自然なかたちで農作業を手伝いながら育ち、都会では、父親たちが職場で働く姿を見ながら育ち、それをとおして、少なくとも彼らの一人は、父親の職業のあとを継いでいきました。
3  池田 ドイツのそうした事情にあっては、少年たちにとって家庭生活が一面では職業訓練の場ともなり、さらにいえば一家の経済の一端を担わされてもいたわけですね。この点は日本も同様で、私自身も少年時代、海苔製造の家業の手伝いをしなければなりませんでした。

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