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日蓮大聖人・池田大作

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第十四章 宇宙時代と宗教  

「宇宙と仏法を語る」(池田大作全集第10巻)

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1  すぐれた哲学、宗教に国境はない
 ―― 長途の北米・南米の旅、たいへんにご苦労さまでした。
 木口 本当にご苦労さまでした。
 池田 どうもどうも。
 ―― 今回は、アメリカのロサンゼルスを皮切りに、ダラス、マイアミ、そしてブラジルのサンパウロ、ブラジリア、ペルーのリマ、またロス、サンディエゴ、ホノルルと、三カ国八都市を歴訪されたわけですね。
 木口 「ペルー太陽大十字勲章」の受章、おめでとうございました。
 池田 いや、どうも。
 私ごとき者がお受けするものではないと固辞したのですが。大統領が、すでに閣議で決定したことなのでどうしても、とおっしゃるものでお受けしました。
 ―― あの勲章は、ペルー国家の最高権威のものですね。外国の元首級に贈られるものです。
 木口 そうですか。ペルー国家が池田先生の平和、文化、教育への貢献を高く評価し、今回の訪問をいかに歓迎したかが、うかがわれますね。
 ―― ブラジルのフィゲイレド大統領との会見のもようは、テレビのニュースでも拝見しました。
 木口 私も見ました。
 池田 通信衛星は早いですね。(笑い)
 ブラジルの出来事が、ほぼ同時刻に地球の反対側の日本でもニュースになっている。
 木口 海を越え、他国の様子が居ながらにして映像でわかるのも、いまではあたりまえのことです。しかし、つい数十年前には想像もできなかったことです。これも、宇宙開発のめざましい成果です。
 ―― 会見では、日系人の活躍ぶりについても話題が及んでおりましたね。
 池田 そうですね。笠戸丸の移民から早くも七十六年。いまでは日系人は約八十万人となった。そして、ブラジル社会のあらゆる分野に進出、貢献しているようです。たいへん、うれしく思います。
 木口 そうですか。いっぺんブラジルに行ってみたいと念願しております。
 池田 フィゲイレド大統領は、その感謝の意もふくめ、五月末から六月初めにかけて来日するようです。なんですか、終わったあと、中国も訪問したいと言っていました。
 ―― ペルーのベラウンデ大統領も、訪日の希望を明らかにしたようですね。
 池田 ええ、明年(一九八五年)の大統領選後には、ぜひ訪日したいと語っていました。
 大統領は著名な建築家で、日本には友人も多い。日本を自分の研究、教育の完成の場としたい、という言葉が強く印象に残りましたね。
 木口 ブラジリア大学、サンマルコス大学訪問をはじめとする幅広い交流といい、また一つ確実なる平和、文化への布石がなされましたね。
 池田 教育は、私の生涯の仕事と思っております。
 両校とも、今後、教授の招聘など創価大学との緊密な学術交流を、さらに図っていくことになっております。ともかく、日本に対する期待は、たいへんに大きいものがある。
 ―― ブラジル、ペルーのテレビや新聞も、連日のように名誉会長の動きを報道しておりましたね。ある国連の関係者も、名誉会長の南米訪問は、日本と南米との新たな交流となったと話しております。
 木口 各国の文化祭が、これまた素晴らしかったようですが。
 ―― ブラジルは四万人。ペルーは一万人。日米青年の合同総会は二万人。それは、たいへんなことです。
 木口 とくに日米青年の総会には、レーガン大統領はじめ百六十通を超える著名人からのメッセージが寄せられておりましたね。
 池田 ブラジルは十八年ぶりです。ペルーは十年ぶりでしたが、メンバーはそれぞれの地域でも、社会でも、見事に活躍、貢献しておりました。私は心から安心しました。
 木口 新聞で拝見すると、日系の人も、白人も、黒人も、インディオも肩と肩を組み、全身に歓びをあらわしてましたね。
 素晴らしい光景と思います。
 ―― ペルーでは、ある警察関係のトップクラスの人が、立派に成長している青少年の姿に「池田先生の指導が、ペルーの青年を、ここまで育ててくださったことに心から感謝したい」と言っていたそうですが。
 木口 どこの国でも、警察の関係者は青少年の非行化に頭を痛めています。ことさら切実なんでしょう。
 ―― ブラジリア大学の総長も、名誉会長のことを「魂を失った人々は、素晴らしき教育者、そして偉大なる指導者の指導をうけるべきである」と語っておりましたね。私は感銘しました。
 木口 それにしても、仏法は国境を超え、民族を超え、世界のありとあらゆる人々に、見事なる蘇生と幸福への活力を与えておりますね。
 ―― まったく同感です。政治次元でもない、経済次元でもない、こうした深き人間次元の運動は、いわゆる国家という観念や、イデオロギーの相違に固執していては、もはや理解できないと思いますね。
 池田 科学に国境はない。学問にも国境はない。文化にも国境はない。と同じように、人々に心からの納得と、幸福と満足とを与えうる哲学、宗教にもまた国境はない、と私はみております。
 木口 なるほど。アインシュタインやバートランド・ラッセルなど、偉大なる真理を発見した多くの科学者も、いきつくところ、全人類的な普遍的価値へと光をあてております。
 池田 ともあれ、世界にはさまざまな国があり、さまざまな人種、民族がいる。
 そのまったく異なった文化、生活習慣の青年たちが、同じく世界の平和を叫び、その国の発展のために行動している。
 この確かなる、事実の流れを大切にしていきたいと思います。
 木口 ところで、ペルーには宇宙人と関係があるのではないかともいわれる「地上絵」という、まことに不思議なものがあります。
 池田 そうですね。今回は忙しくて行けませんでしたが、首都・リマから飛行機で一時間ほど行くと、ナスカというところがあります。ほとんど雨が降らないところで、その乾ききった平原に、巨大絵が描かれているそうです。
 木口 パン・アメリカ・ロードという道路をはさみ、コンドルの飛ぶ姿や、サル、クジラ、宇宙人といわれるものなどがあるようですね。
 池田 それがあまりに大きいので、地上で見たのでは、なんの絵だかまったくわからない。
 飛行機で上空から見て、初めてその姿が確認できるというものですね。
 ―― そうですか。
 いったい、なんのために描いたのですかね。
 木口 それがナゾなんです。だから、宇宙人が登場してくる。(笑い)
 池田 いまから四十五年ほど前に、アメリカの文化史研究家が発表したものですが、紀元前三百年から九百年ごろのものらしいですね。熱気球があったのではないかとか、諸説があるようですが、まあ、天文図であろうという説が有力のようです。
 ―― 話は変わりますが、アメリカに、創価大学の分校ができるそうですね。
 池田 ええ、フランスに語学研修センターが、来年オープンしますので、海外で二番目の教育施設になります。
 ―― 将来は医学部、理工学部、海洋学部の設置が予定されているようですね。
 木口 遠大な展望です。日本で、そうした高度な次元の発想をする指導者を、私は知りません。それにしても学生の時代から、他国との交流ができることはうらやましいことですね。
 池田 私は、平和問題の解決の一つの糸口は、世界の大学の交流にあると思っております。
 ―― 鋭い指摘です。名誉会長は、ハワイ大学も訪問されましたね。
 池田 大学は本来、その国の知性であり、その理論的支柱をなしゆくものである。また、学理は世界共通の普遍的真理探究の道である。ゆえに教育は平和、文化の基本です。
 木口 そのとおりです。
 池田 その意味において、民間レベルの交流の一つの軸となりうるのが、各国の大学交流ではないでしょうか。
 私はかねてより、立法・司法・行政の三権分立とともに、教育権を加えた四権分立主義です。
 そうでないと、学問の府が政治や経済などの次元で左右されることになってしまう。それは、まことに悲しむべきことです。
 木口 まったく同感です。
 池田 ユネスコ憲章にも、「政治的および経済的取り組みのみでは、永続性のある平和は築けない。全人類の知的、精神的連帯のうえにこそ、平和は築かれる」という趣旨がうたわれております。
 ―― なるほど。
 池田 ですから、民衆の平和への連帯とともに、世界の真理を追究する学者が一堂に会して、横暴な権力の魔性に侵されない、強い連帯を結んでいくことも、世界平和への近道だと思っております。
 ―― なるほど。新しい時代の大学のもつ重大な意義だと思いますね。
 木口 池田先生が、創価大学創立のモットーのなかに「人類の平和を守るフォートレスたれ」と言われた、深い意味をかいまみる思いです。
2  宇宙に新たなるフロンティアを開拓
 ―― ところで木口さん、日本でも、アメリカのスペースシャトルなみの打ち上げ能力をもつ、大型ロケットの開発が、本決まりになりましたね。
 木口 ええ、七年後の一九九一年をメドに計画を始めたようです。
 池田 これが実現すれば、日本も「宇宙大国」の仲間入りということになるわけですか。
 木口 そう思います。この他にも、今後十五年間で約五十個の実用衛星を打ち上げる予定のようです。また、アメリカの宇宙基地計画にも、積極的に参加するということです。
 ―― なんですか、この対談が始まって、本当に宇宙が身近になった気がします(笑い)。ただ、予算はたいへんなのでしょうね。(笑い)
 木口 そうです。たとえば、スペースシャトルに、日本人の科学者が乗る場合、シャトルの三分の一を借りきって、宇宙空間でのさまざまな実験を試みます。
 しかし、これにかかる費用だけでも、なんと約八十五億円になります。
 池田 たいへんな経済負担となる。
 この地球には、いまだ貧困と病気に悩む人が何億といる。また文盲も、まだまだ多い。この地球上の不幸を無視した宇宙開発では、絶対にあってはならないと思いますが。
 ―― 十数年前、名誉会長が宇宙開発は「共同開発」が望ましい、という話をされたことがありますが、経済的負担という点からも、平和利用という観点からも大事なポイントと思いますね。
 木口 宇宙開発は、通信、放送、気象、金属さらには医薬品まで、地上ではできなかった研究が可能となります。
 池田 どんなものができるのですか。
 木口 宇宙空間では重力がないため、特殊技術で純粋な物質が抽出できるので、高価な糖尿病の薬や膵臓病の特効薬などがたくさん作れます。
 ―― いいですね。(笑い)
 木口 また新しい合金やアモルファス(非結晶金属)なども開発されるといわれています。
 宇宙は、素晴らしい機能をもった、工場みたいなものです。
 ―― 宇宙開発は、これからの科学の花形のようですね。
 レーガン大統領も、今年の年頭教書で、かの大航海時代になぞらえ、宇宙に次のフロンティアを開拓しよう、と呼びかけておりましたね。
3  大なる世界と小なる世界の不可分の関係
 池田 マゼランが世界周航したのは、もう四百六十年ぐらい前になりますか……。
 コロンブスやバスコ・ダ・ガマの冒険も、当時の人々の生活に変化をもたらしていった。
 ―― そのとおりですね。「地球が円い」ということも、事実のうえで認識されていきました。
 木口 あの中世暗黒の時代から、ようやく解放されつつあった人々は、未知への探究心を空へ、海へと向けていったことは想像にかたくありませんね。
 池田 あの海の果てに、いったい何があるのか、という人間のあくなき好奇心は、次々と新天地を発見していった。
 いつの時代にあっても、人々は未知の世界に対しては、限りなきあこがれをいだき、それを知りたいと思うものだ。
 ―― 現代もまた、宇宙時代の開幕といわれるゆえんですね。
 木口 遠洋航海を可能にしたものは、なんといっても望遠鏡、地図、コンパスの進歩がモノをいったようですね。
 ―― それと医学も進歩してきた。
 池田 なにかの本で読みましたが、バスコ・ダ・ガマがインド洋を発見し、ポルトガルのリスボン港に帰り着いたとき、船員の数は、わずか三分の一になっていた。また、長い航海のため生き残った船員も、みな栄養失調であったようです。
 木口 ビタミンCの不足で、壊血病で死んだ人もいましたね。
 池田 また、当時ヨーロッパにはなかった病気も持ち帰ってきた。そのため、医学の進歩が要請されたといわれますね。
 ―― そういえば、月からアポロ宇宙船が帰ってきたとき、飛行士は何日間も隔離されました。
 木口 ええ、セーガン博士たちが、そうすることを提案しました。
 池田 私も、セーガン博士に、なぜそうした措置をとったのか聞きました。
 「宇宙の新しい菌か、なにかを持ってくる可能性があるかもしれないからだ」というようなことを言っておりましたね。
 ―― やはり、用心にこしたことはないというわけですか。(笑い)
 池田 ところで、この大航海時代においては、とくにオランダで、さまざまな科学の発達があったようですが。
 木口 そうですね。じつは望遠鏡も、オランダで発明されています。また顕微鏡も、それ以前にオランダで発明されています。
 ―― 「さまよえるオランダ人」どころではなかった。(笑い)
 そういえば、このまえ、六世紀の初め、朝鮮半島の新羅で「火珠」つまり、レンズを作ったという記録が『朝鮮科学技術史』という本に出ていました。
 木口 そうですか。日本では聖徳太子の時代より、百年ほど前になりますかね。
 ―― 「烏水晶」というものであった、と記録にあります。
 池田 なるほど。日蓮大聖人の御書のなかにも「水精の玉の日輪に向えば火を取り月輪に向えば水を取る」という御文があります。
 当時、すでに「水晶」というものが、いろいろな役割を果たしていたのでしょうね。
 ―― そうだったんでしょう。
 顕微鏡はオランダのメガネ屋さんが、虫メガネを組み合わせているうちに、発明したといわれていますが。
 木口 ええ。それから数十年して、同じオランダのメガネ屋さんが、老眼と近眼のメガネを重ねているうちに、偶然、望遠鏡を発明するヒントをみつけています。
 ―― 現在のような顕微鏡の原理を考案したのは、天文学者のケプラーです。
 また、彼は有名なケプラー式望遠鏡も作り、ガリレオのものより、さらに本格的なものにしていますね。
 池田 なるほど。
 人間の一心が大空へと広がると同時に、地上のより小さな世界にも向かっていったわけですか。
 木口 まったく、そのとおりです。しかも、現代科学では、この宇宙の大なる世界が、原子や素粒子という小なる世界と不可分の関係にあることがわかってきたわけです。
 これも驚くべき事実です。
 ―― ギリシャ時代のアリストテレスも、大きな宇宙の法則を考えれば考えるほど、小さな宇宙としての人間のことがはっきりしてくる、という哲学観をもっていたようですね。
 池田 そういえば、大きいという意味の「マクロ」、小さいという意味の「ミクロ」という言葉は、もともとは、ギリシャ語に語源があると聞いたことがありますが。
 木口 ええ、アリストテレスの『自然学』という著書に出てきます。
 ―― マイクロホンやマイクロフィルムなどの「マイクロ」という言葉も、小さいという意味の「ミクロ」からきているそうですね。
 木口 最近では、光ファイバーということが注目されています。
 髪の毛ほどの細さのガラス線に、五千七百六十もの電話回線がおさまる技術が実用化されていますね。
 池田 このように、大きなものが小さなものに収められる。また小さなものが、大きなものへと広げられていく。
 こうした事実からも「法界の全体は一念に具し一念の全体は法界に遍し」(「三重秘伝抄」)ということもわかるような気がする。

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