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日蓮大聖人・池田大作

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戦争と平和――あとがきに代えて  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
1  池田 人類に未来があるかどうか――この問題には、今日、多くの要因が絡み合っていますが、なかでも戦争と平和の問題は、その最も大きい要因であるといえましょう。現在、世界にある核兵器の数は六万発以上にのぼり、この量は広島に投下された原爆に換算して約百三十万発分に相当します。これはその破壊エネルギーの面に限っていっても、世界中の老人から赤ん坊まで、すべての人間に割りふると、一人当たりTNT火薬、約四トンという計算になるといわれています。
 さらに放射能汚染による脅威を考慮に入れれば、その貯蔵の状態、配備においてもきわめて大きな危険であることは言をまちません。したがって、核兵器をいかにして絶滅するかは、人類が生き延びるための緊急の課題になっています。
 いうまでもなく日本人の核兵器反対の決意は、広島・長崎によっていく十万の同胞の命が奪われ、今なお多くの人々が原爆症に悩まされているという事実に立脚したものであり、それは唯一の被爆国民としての原点から発した、いわば血の叫びともいえるものです。
 現代の人類の誤りの第一は、核兵器と共存することが可能であると考えることにあります。今なによりも必要なことは、核兵器は絶対悪であるとの思想の確立です。
 私の恩師である戸田城聖・創価学会第二代会長は、亡くなる少し前の一九五七年九月、「原水爆禁止に関する宣言」を発表し、その実現を青年に託しました。その趣旨は「いかなる大義名分、威信のためにも核兵器を使用してはならない。核兵器に価値を見いだす考え方自体が誤りである。核兵器は悪魔の産物であり絶対悪である」というものです。
 絶対平和を基調とする仏法を根本に、平和・文化を推進する創価学会が、悪魔の産物・核兵器の廃絶を要求していくのは当然です。私もまたこの思想を力のかぎり叫びつづけていく決意であり、またこれまでも、この精神にのっとって、私の考えを明らかにしてまいりました。
 私は、ソビエトの人々も戦争に対して深い憎しみをいだいていることを、ソ連訪問のたびごとに感じました。モスクワでもレニングラードでも、その他の都市でも今なお戦争というものが人々の記憶からぬぐいさることのできない深い傷跡を残していることを感じます。程度の差はあれ、アメリカ人も、フランス人も、中国人も、インド人も同じです。私はこうした世界の民衆の、戦争への憎悪、平和への熱願を結集すれば、恒久平和への道を築くことは決して不可能ではないと考えますし、また、これはなんとしても実現されなければならないと考えています。
2  ログノフ 戦争は犯罪であり、すべての人々の悲しみです。ところで、現代において、戦争とは壊滅であり、全人類に対する死の宣告であることを理解しない人は、狂人か、きわめて浅薄な頭脳の持ち主といわざるを得ません。
 というのも、森羅万象、生きとし生けるもののすべてが、醜怪な核の雲の中で消え失せてしまうのですから。
 核兵器は恐るべき兵器です。この地上に、核兵器の“居場所”はあり得ません。ソビエト政府は再三それについて声明を出しました。
 この政府声明をお聞きにならなかった方々に、私はそれを繰り返しておきたいと思います。
 一九八六年一月十五日、ゴルバチョフ党書記長は声明を出し、そのなかで、今世紀末までに核のない世界を構築するプログラムについて説明しました。現実的な内容をもったこのプログラムは、今世紀末、すなわち二十一世紀の初めまでに、一切の種類の大量殺戮兵器の廃絶を訴えています。しかも、現に兵器庫に貯蔵されている核兵器はいうにおよばず、今のところみんなの注意を引かずにいるが、いちだんと大きな破壊力と手段をもったもので、ある国民の他の国民に対する優位を立証しようとあせる政治家の強欲を満たすために利用されうるかもしれない恐るべき兵器をもその対象にしているのです。
 一切の大量殺戮兵器の完全廃絶こそソ連外交の基本路線であり、その構想が第二十七回ソ連共産党大会(一九八六年二月二十五日~三月六日)の決定を基礎づけたのでした。最高レベルでのソ連共産党員のこの会議において、世界の、そしてその現在と将来に対する党の戦略が提起されました。国際安全をめざした全包括的システムに関する私たちの政綱は、あらゆる種類の大量殺戮兵器の全廃を筆頭にあげています。
 ゴルバチョフ書記長は、この建設的な政綱を重ねて世界に説明しています。ウラジオストクでも、レイキャビクでもそうでした。そしてそのつど取り上げた問題は、どの国、どの国民も明日への揺るぎない確信をもって安心して生きていけるような全面的安全保障システムをつくろうということでした。
 今年の二月十六日、モスクワで開かれた「核のない世界と人類生存のためのフォーラム」でゴルバチョフ書記長は、この問題についてのわが国の政策の本質を再確認し、ソ連の国際安全保障プログラムの主なる原則は、「他国民の安全を踏み台にして自国の安全を保障することはできない」という点にあることを強調しました。
3  この今日の核心的問題、全人類が憂慮している主要な問題の解決にブレーキをかけている勢力があることは残念なことです。しかし、私たちは一切の大量殺戮兵器をこの地上からなくして、世界中の人々が私たちの地球の明日に対して安心して暮らせるようにする決意とオプティミズム(楽観主義)にあふれています。そして、その言葉に対して全責任を負うつもりです。
 ご存じのようにソ連邦は、平和へのアピールだけに終始しているのではありません。具体的行動でそれを立証しています。それは、第一段階として軍拡競争の政策に終止符を打たせ、それを踏まえて地球上にはあるべきでない兵器を廃絶して人類の安全を図るプログラムの実行に一刻も早く着手するよう具体的に訴えているのです。あの非道な原爆投下から四十周年にあたって一切の核実験(核爆発)をソ連が凍結(モラトリアム)したのもそのためですし、「レイキャビク封書」(レイキャビクでのソ米頂上会談のさいソ連側の出した一括核軍縮提案)を開封して、そのなかから中距離ミサイルに関するソ連側提案を取り出して、その交渉に入るよう申し入れたのもその一つです。もし、ソ連のこの提案がしかるべき態度で検討された暁には、遅くとも三~四カ月後には、この種の攻撃用大量殺戮兵器の廃絶に取りかかることができるのです……。ソ連は今その回答を待っているところです。

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