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日蓮大聖人・池田大作

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社会に開かれた大学へ  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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1  池田 それに関連することですが、日本でも趨勢は肩書偏重の学歴社会から実質主義の学習社会への流れをたどりつつあります。これは生涯教育の動向からもいえることですが、これからの大学の課題として、社会に開かれた大学であることが望ましいといえるでしょう。この点に関しては、どのようにお考えになりますか。
 ログノフ これはなかなか興味あることです。大学の課題についてですが、大学は中等学校の教授法を改善する面でも影響力を発揮しなければなりませんし、また一般大衆の間に科学知識を積極的に普及するうえでも影響力を発揮しなければなりません。この大学の影響力というものは、今日的な問題について教授や教員が積極的、系統的に公開討論に参加すること、ラジオ、テレビに出演し、政治、社会、経済の諸問題の研究に参加することによっても決まるのではないでしょうか。
 これからの大学は、教育プロセスを改善する面だけでなく、ご指摘のように、大学を開かれた教育施設、自学自習、自己完成の場にするためにも、人間主義的な機能を広げ、かつ深めていかねばなりません。
2  池田 社会に開かれた大学であるとともに、国境の枠を超えて世界に開かれた大学であることがとくに要請されますね。大学こそ国家主義やイデオロギーの枠を超えた普遍的な真理探究の場であり、普遍的な国際人、世界人を輩出する揺籃でなければなりません。イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学、フランスのパリ大学、またドイツ、イタリアの各大学とも、中世以来、あらゆる国々から学生が集まってきて学ぶインタナショナルな学問・思想の場でした。その伝統は、これから、ますます重要性を強めていくと私は考えます。
 ログノフ 大学が諸国民の相互理解と信頼を深めるための各国間の接触を発展させる面で果たすべき役割についてのご意見に同調します。そうした役割の一つとして、すべての国の中堅幹部を養成する仕事がありますが、大学としてはこの問題を成功裏に解決しなければならないでしょう。相互理解を深める手だてとしてさまざまな国民の文化遺産を大学で研究し、外国語や各国民の歴史的な精神財を学ぶことは大きな意味をもっています。それは各国民の相互接近を助け、個々の国民の文化財を人類全体の財産にするため、真に正しい方途だと思います。
 大学はつねに人間主義的伝統の担い手であり、人類の歴史に蓄えられた一切の精神財、物質財の守り手であらねばなりません。大学の活動は社会の発展、あらゆる種類の人間差別の根絶をめざしたものでなければなりません。
3  池田 一方、科学がますます急速の進歩を遂げ、技術が大型化していく趨勢のなかにあって、最先端の研究や技術開発の舞台は巨大企業の研究部門や専門の研究所に移りつつあり、大学の存在意義がうすれてきているという現象も見受けられます。しかし、私はたんに知識の開拓や技術開発だけに終始するのが大学ではない。それらも大事ではあるが、人間の文化を担い、リードする人間の育成にこそ大学の比類のない使命があると考えます。その観点から大学の今後改善されるべき点はどのようなことが考えられるでしょうか。
 ログノフ 大学の今後改善されるべき点で今いちばん重要なことは何かといえば、まず第一に教育課程の改善です。おそらく大学に課せられる責任は、基礎的教育を保障することでしょう。そのためには大学は諸分野の高資格の専門家をも含めて、高度の教育専門家をさまざまな教育課程に参加させることが重要です。各種の学問分野、なかんずく、それらの接合点での科学的成果に立脚した教育を保障することも差し迫った課題といえましょう。大学では学生の一人一人がすべての学科の基礎原理をマスターし、自然科学、社会学、人文科学、技術とあらゆる領域の基礎知識を応用できるような専門家を養成すべきであると考えます。それは現代社会の課題でもあります。
 科学情報が増大の一途をたどる現状にあっては、科学知識を正しく、自由に駆使する能力を育てることが大事です。モスクワ大学はすでにこの方面で大きな活動を行っており、それを科学の発展方向に関する各学部のゼミナールの枠内で進めています。
 大学の教育計画は、各学生が大学の実験・研究室やその他の研究施設での研究作業に参加する可能性を保障するものでなければなりません。また、学習の過程では各種の技術手段、とくに、教育の性格にラジカルな影響をおよぼすコンピューターの利用を大幅に増やすべきでしょう。必要な情報をいち早く入手し、学習課題を解決することを通じて学生は自主的に知識を身につけ技術を会得できるようになるのです。
 現在、わが国では大学教育制度改善の問題にきわめて大きな注意が払われており、この制度を抜本的に再編する考えでおります。解決すべき問題は多岐にわたっていますので、それについて詳しくお話しするのはとても無理ですが、その基本的な方向について簡単に述べておきたいと思います。
 現在つくられている教育カリキュラムによりますと、講義の全体的時間の縮小、学生の自主的研究時間の増加、実習の強化がその骨子となっています。この制度によりますと、研究には大学側から教授が、企業側からは専門家が参加するようになるほか、学生に対する講義や実習課題にも産業界でとくに経験の深い有能な人たちが参加するようになります。実生活というものは教育制度改善のプロセスに常時なにかと新しいものをもちこんできますが、それは至極当然のことであると申せましょう。

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