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日蓮大聖人・池田大作

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複雑性か画一性か  

「闇は暁を求めて」ルネ・ユイグ(池田大作全集第5巻)

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1  複雑性か画一性か
 池田 しかし、あなたのお国は、これを本能的に自覚されているようですね。
 フランスの思想は、人間、とくに個としての人間をつねに凝視し、それをいっさいの中心にとらえているところにいちじるしい特色があると私は感じています。一方で、フランスは芸術を尊ぶ国としても、世界的にぬきんでています。これについて私が思うのは、芸術は個人の創造的精神の所産であり、したがって、芸術を尊ぶことと、個人というものをつねに思考の中心にとらえていくことは、一つに結びついているものではないかということです。
 したがって、その逆の現象として、全体主義的な社会にあっては、芸術は抑圧されたり、全体主義的な目的のための手段とされたりして、軽視される傾向にあるように思われるのです。こうした、個人の尊重と芸術の問題について、あなたのお考えをうかがいたいと思います。
2  ユイグ 内面的な生命というものは、反対を乗り越えようとすればするほど、つねに豊かになるものです。弱々しい魂は、対立する要素にぶつかったとき、相反する視点の中でも、自分の心を引きつける一つだけをとって妥協してしまいます。その反対に強い魂は、障害にあったとき(こういう魂だけが進んでいくのですが)、こうした歪みによって、かえって、それを乗り越えていこうとする力を得ます。強い魂は、現実の別々の二つの局面のあいだに一つの調和をつくりだそうとします。そしてこの調和がそれを豊かにするのです。
 たぶん、フランスが西洋世界に貢献したものの特質は、そこにあります。フランスは、地理的にも歴史的にも、有利な位置におかれていました。というのは、ヨーロッパとなるべく定められた空間に注ぎ込んできた矛盾する諸要素が、このフランスで一つに収斂したからです。なによりもまず、フランスは、おおざっぱにいって、ロワール川によって、北と南の二つに分けられ、それぞれが、相反する二つの文明と接しています。
3  南フランスは、地中海世界という、とりわけ農業にすぐれた世界に密着しています。この地中海世界は、とりわけエジプトによって最初の推進力を与えられたことから始まり、つぎにギリシャの発達があり、ローマがそれにつづくことによって形成されてきました。そこに体現されている精神的態度は、その安定性と明晰さと合理的普遍性をめざす、農民世界の心理的傾向が支配しています。
 その反対に、北フランスに住みついたのは、つぎつぎと波のように押し寄せたユーラシアの広大な平原から来た流浪の諸民族です。これらの諸民族は、ゲルマン、スカンジナビア、アングロ・サクソン等といった世界を打ち立てましたが、フランスにまで到達し、そこに定着したのはとりわけケルト人とフランク族でした。これらの人びとは、別の精神を受け継いでおり、感覚的な生命の深い衝動に心を動かされる傾向が強く、抽象的な生命には、あまりなじめません。

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