Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

汚染  

「闇は暁を求めて」ルネ・ユイグ(池田大作全集第5巻)

前後
1  汚染
 ユイグ これを一つ一つ調べてみましょう。生きている細胞はその出現とともに、二重の機能によってその存在を維持します。一つは自らを養うために外から取り入れる機能であり、もう一つは同化できないか、または危険な異物を除去するために廃棄することです。この二重性は最も発達した組織体においても、基本的なものとして残っています。この二重の機能なくしては、生命は存続しえないでしょう。そしてこれは人間社会についても真実であるわけです。
 成長するために、人間社会は自らの吸収能力――すなわち別言すれば消費を増大します。このことは、つぎに、老廃物を取り除くことが必要になるということになります。老廃物は吸収が増えるのと同じ比率で増大するのです。この排泄は、私たちの生命体が身を養っている環境の中でしか行われません。私たちがまさしく身体の中に入れる物に、排泄されるものを混ぜ合わせる循環が、厄介な混交を生ずるのです。
 しかしながら、これまでは人間は、自然の中で十分散らばって生活してきましたので、危険はまださしせまったものではありませんでした。人口の増大と巨大化した都市への集中、そしてとくに機械に頼ってますます大量のエネルギー資源を消費するようになり、世界の産業の成長が軒並み年七パーセントを示すにいたって、状況は危機的なものとなりました。
2  何千年にわたって、人間の力と動物の力、ついで水と風の力で十分であったのが、しだいに、物質の変質によって得られるエネルギーに取って代わられるようになりました。まず火が利用され、そして蒸気がつくられました。この時から、巨大工業が可能となったのです。しかし、燃焼の結果生じたカスが大気中や水の中に吐き出され、さらに科学の進歩につれて、化学反応で生じたカスは、恐るべき拡散を示したのです。
 現在では、エネルギー消費量は、もしそうでなければ経済を阻害するため、国民総生産の四パーセントに達せざるをえなくなっています。しかし、その結果は、なんと惨憺たるものでしょう!大気は亜硫酸ガス、一酸化炭素、不燃性の炭化水素で汚されています。また大気汚染物質であるアトラセン、ピレン、ベンツピレン等は、ハツカネズミを使って実験したところ、発癌性を示しています。工場は、あまりにもしばしば、水をも汚染しています。その水は化学物質の残滓を運び、拡散させます。また、ますます広く利用される洗剤も、水によって運ばれ拡散しています。魚が姿を消したことは、この破壊的な力を物語ってあまりあります。
3  一トンの石炭が燃やされると、大気中に約二十キロの無水亜硫酸を放出します。フランスの空には、年々、無水亜硫酸が三百五十万トン以上も吐き出されています。そして、これが大気中に浮遊している水に触れると、変化して硫酸になります。サン・ドニとブローニュの工場群だけで、その吐き出す量は三万トンにもなるのです。しかも、そのうえ、暖房用に使われている燃料油は、工業用のそれと比肩する量になります。この結末は、人間の身体組織、とくに肺にとって有害であるとともに、種々の記念建造物や彫刻にとっても有害です。それらをつくっている石はしだいに崩れています。ギリシャのパルテノン神殿やフランスの聖堂、ベルサイユの彫像、ベニスの建築物などは、その証明役です。破壊作用は速く、広場に置かれている彫像などは、今から半世紀もたつと、見分けのつかないものになっているでしょう。

1
1