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社会を見る目  

「人生問答」松下幸之助(池田大作全集第8巻)

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1  物価騰貴の根本原因
 松下 昨今の物価騰貴はまことに激しいものがあります。物価の上昇については、ずっと以前から大きな問題とされ、国民の最大関心事ともなり、また政府もその対策に腐心しておられるようですが、一向に沈静の兆しがみえません。いったい、日本の物価騰貴の根本原因はどこにあるのでしょうか。また、これを解決する道はないものでしょうか。
 池田 世界的に著名な『フォーチュン』誌や『フィナンシャル・タイムス』紙でも、日本の物価の異常な高騰を、各国との物価水準と比較して、しばしば伝えていますが、日本の物価騰貴は世界的なインフレ傾向にある現代でも、とくに上昇カーブが垂直的であることがわかります。
 そして、とくに物価が極端に上昇するのは、例年、春闘を終え、労働者の賃金がアップしたときです。つまり「人件費の値上げによる生産コスト上昇」という大義名分をかざし、公共料金を筆頭にして、あらゆる生活物資が、ここぞとばかり軒並みに暴騰するわけです。結局、労働者は賃金上昇を勝ち取ったけれども、生活物資があがっているので相対的には上昇分は相殺されてしまうことになります。″賃金と物価のイタチゴッコ″は営々とつづけられているわけです。
 賃金と物価の関係を図式的にみれば、賃金上昇←生産コスト上昇←物価上昇←賃金上昇という循環となりますが、これには企業の利潤が明示されていません。
 賃金の上昇分は企業の利潤の放出でかなりまかなうべきであって、賃金アップを盾にとって物価をつりあげるというのは、企業が負担すべきものを国民笙肩代わりさせているようなもので、筋違いの論理ということになります。国民は、″消費者は王様″などとオダテられるのでなく、鋭くこのカラクリを看破していかねばならないと思います。
 次に、これに関連することですが、このように物価と賃金の循環的上昇によって貨幣価値はどんどん下がっていきます。このことは銀行などに預金する庶民が損をし、そのお金を借りている企業が得をすることになります。つまり、物価と賃金の悪循環は、結局のところ、一人ひとりの庶民のうえにシワ寄せされてくるようになっているのが、現代の日本経済の仕組みです。したがって物価上昇の根源には日本経済の構造の問題があり、政府の経済政策に責任があるといえます。
 政府のこれまでの物価への取り組み方は、″あるていどの物価上昇は経済が成長するためにはやむをえない″という認識のもとに講じられてきたわけですが、今日の物価騰貴のスピードは、そのマヤカシの論理を、庶民の生活実感によって暴いてしまったといえましょう。
 国家としての日本経済が世界のファースト・ランナーになりながら、その実、庶民の生活の実態は少しも良くなっていない。つまり国家としての繁栄が、その推進母体である国民に公平に分配されていない。ここに物価問題のポイントがあるというべきでしょう。
 ″日本が経済的に繁栄しなければ分配も多くならない″というのは馬の鼻先にニンジンをぶらさげる論理で、開発途上国にあっては一時的に有効な経済成長政策でしょうが、今日の日本では全く実情にそぐわないものです。
 経済大国から福祉大国への転換を迫られているときに、政府の経済政策が、旧来の財界との癒着のうえにたてられている、この姿勢を改めないうちは、物価問題の根本解決は不可能と思われます。
2  インフレ抑制の施策
 池田 四十八年から四十九年にかけてのインフレの進行は、まことにすさまじいものがありました。政府は、このインフレ収束の時期を、先へ先へと延ばした発言をしているように、この勢いはまだ止まりそうにもありません。
 いったい、現在の自民党政府に、インフレの進行を止める施策を期待できるとお考えですか。また、インフレ経済を構造的に大転換するには、どのような方策が望ましいとお考えですか。
 松下 最近のわが国にみられるインフレの原因は、とくにその一年に限っていえば、石油価格の高騰があると思います。燃料、原材料として、各方面で多量に使われている石油の価格が、ニドル台から十ドルと四倍にもなったことが、まず根本の原因といえるでしょう。また石油以外の非鉄金属その他、原材料の世界的な高騰、世界的な食糧不足による穀物の値上がり、さらにはアメリカ経済がベトナム戦争によって安定を失い物価上昇を招いたこと、そういったもろもろの世界的な動きが大きな原因となっています。そういう情勢が、現在の日本の急速なインフレを起こしていると思います。
 しかし、そういった世界的な原因については、これを日本人がただちにどうこうするというわけにもいきませんから、ここでは見方を変えて、お互い日本人自身にも原因がありはしないかを考えてみたいと思うのです。
 そう考えてみると、私は、お互い国民の諸活動のうえに大きなムダがあり、そのムダが、徐々に、しかも基本的に進行しつつあるインフレに結びついているような気がするのです。つまり、海外要因によるここ一年の急速なインフレの一方で、国民お互いのムダによる緩慢にして継続的な、より大きなインフレが進行しているのではないかと思われるのです。
 たとえば、会社における活動を一つ取り上げて考えてみても、重要な会議を一時間ですませる会社もあれば、なかなか意見がまとまらず三日もかかる会社もあります。前者をA、後者をBとすれば、Bの会社はインフレを招く会社で、Aの会社はインフレに打ち勝っている会社ということになります。
 今の日本は、はたしてA、Bどちらの姿でしょうか。インフレを招くBの姿になってはいないでしょうか。議会にしても、三か月ですむものを一年もかかるとすれば、これはBの姿です。そして、それが議会だけでなく、会社も団体も、社会のあらゆる面の姿になっていないでしょうか。もしそうであるとするなら、日本にインフレが起こるのは、いわば起こるべくして起こる姿だといえると思います。
 そういう国民全般にわたるムダを指摘し、それをなくすような政治を行なうなら、どの政党でもインフレを止めることができると思います。反対に、それができないなら、どの政党が政権についてもインフレを止めることはできないのではないかと思うのです。
 仕事のムダ、施設のムダ、物資のムダ、時間のムダ、機構のムダ、企業間の過当競争から起こるムダ、そういうムダがインフレに結びついていることに気がつかねば、どの政党でもインフレを止めることはできないでしょう。
 もちろん、現在のインフレは、初めにもふれたように、世界的な動きが大きな原因となっていると思いますが、しかし、国民お互いのムダな活動の積み重ねがさらに大きな原因となっていると思うのです。したがって、このインフレを止めるためにお互いがなすべきことは、国民全般にわたってそれぞれの生活、活動をムダなきように正す、ということではないかと思います。
3  物不足と買い占め
 松下 先般のいわゆる物不足にともなって、買い占め、買いだめといった姿が、国民の間に起こりました。これは、人情としてはムリからぬものがあるかもしれませんが、このように、とかく自己中心的な行動に国民が走りがちなのは、いったいどこに原因があるのでしょうか。いわば国家国民的な躾が研究され、なされていないということとも関連してこようかとも思われますが、非常時になっても、あのような姿の起こらないような安定した社会を、どうすればつくりあげることができるのでしょうか。
 池田 この問題については、私はお説と異なった見解と意見をもっております。
 まず「物不足」ということですが、ほんとうに物資が不足していたのでしょうか。これは後に明るみに出たことですが、実際はメーカーや流通機構が売り惜しみ、価格をつりあげるために隠匿していたのです。洗剤にしても、紙にしても、何か月か倉庫に眠らされていたわけです。そのため当時は、どこも倉庫が一杯で、ないのは倉庫だけだ、などと皮肉られています。これは、国会でも厳しく糾弾されたように、まさに反社会的行為といえるでしょう。
 次に「買い占め」「買いだめ」ということですが、自己の生活防衛のためにこれを行なった庶民を責めることは筋違いであり、巨大な資金によって買い占め、値を自在に操って暴利を貪った大手商社こそ責められるべきです。これも国会で責任を追及されましたが、大手商社による生活必需物資の「買い占め」が、一時的に「物不足」の現象を生み、一部にパニック現象によってトイレット・ペーパーや洗剤を「買いだめ」した主婦もあったでしょう。しかし、毎月の家計のやりくりに四苦八苦している庶民の買いだめも、それはたかが知れた量です。しかも、それを転売するために買ったのではなく必要に迫られての買いだめであって、商社のように「買い占め」によって価格を上げ、高い値段で放出して利益を得ようとするものではありません。ですから、国民が自己中心的な行動に走ったというより、庶民は犠牲者であったわけです。
 ただ、たしかに、現代社会において大衆は、情報や暉や周囲のふんいきに影響されやすく、自分で冷静な判断が下せないといった弱さがあり、一つの方向に突っ走るところがあります。その点、ご指摘のとおりですが、石油危機にしても、またそれにつづくインフレ、物不足、買い占め、物価上昇といった一連の現象は、何者かが演出した行為であるとまでいわれております。大事なことは「非常時」といわれるような事態を生まないことであり、それこそ政治をとる者、世論の形成に大きい影響力をもつ者の責任であるということではないでしょうか。

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