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日蓮大聖人・池田大作

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訳者あとがき  

「二十一世紀への対話」アーノルド・トインビー(池田大作全集第3巻)

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1  あとがき
 本書は、アーノルド・トインビー博士と池田大作創価学会会長の間で行われた対談の日本語版である。対談は通訳を介して英語で行われたので英語版がいわば原著になるが、編集は日本で進められたので、原著よりも邦訳版が先に出版されるということになった。
 英語版は Choose Life― A Dialoge― Arnord J. Toynbee and Daisaku Ikeda という題名で近く発刊の運びである。また、それに続いてフランス語版、ドイツ語版、スペイン語版、中国語版なども刊行の予定と聞く。
 二人の対話者については、いまさら紹介するまでもなく、アーノルド・トインビー博士は、今世紀最大の歴史家・文明批評家の一人、池田大作氏は日本が生んだ偉大な宗教的・文化的リーダーである。両者の人となり、思想については、ともに数多くの著作を通じて広く知られているので、ここではふれない。
 また、本書の内容についても、トインビー博士自身が「序文」のなかできわめて適切に要約されており、あえて付言する必要はないと思う。
 全体として、本書の作業は、実際に行われた対談の録音テープ再生から始まり、リチャード・L・ゲージ氏による編集をへて、翻訳(邦訳、英訳)という順序で進められた。原著における池田氏の発言部分の英訳は、編集者であるゲージ氏が担当された。私たち数名からなるメンバーが担当したのは、トインビー博士の発言部分の邦訳である。この依頼を受けたのは、一九七二年五月、第一回の対談が行われた直後、池田氏が帰国されてまもなくのことであった。その後、第二回対談が七三年五月に行われ、内容はさらに充実した。
 邦訳にあたって、私たちは録音テープを何度も聴き直したが、これはじつに楽しい作業であった。ともに現代を代表する両対話者の声をテープで聴くのは、心躍る思いであった。現代世界の抱えるあらゆる難問題を、縦横無尽に、よどみなく、高度な表現で論じ合い、それぞれに明快な解答を与えていく――。あるときは現代科学の最先端の問題を論じ、あるときは国際政治を論じ、またあるときは人類の歴史を何千年も遡り、あるいはまた仏教哲理の奥義にまで立ち至る――両対話者のそうした語り合う姿が、目に浮かぶのであった。
 本書の原題 Choose Life は、『旧約聖書』の「私は生と死、および祝福と呪いをあなたの前に置いた。あなたは生を選ばなければならない。そうすれば、あなたとあなたの子孫は生きながらえることができるであろう」(申命記第三十章十九節)から引用して、トインビー博士が付けたものである。原題通りに訳せば、『生への選択』などとなったであろうが、検討の結果、日本語版としてはむしろ原題から離れ
 て、『二十一世紀への対話』とした。
 また、本書中の各項目のタイトルについても、できるだけ原タイトルに近づけるよう努力したが、ときには内容を汲んで意訳したり、別な表現を用いたものもある。たとえば、 Imminent Doo, は「終末論に対して」、 Demise of Local State は「国家解消論」、 Soon No Will Want to King は「王制の将来」などとした。
 ただし、トインビー博士の発言部分の訳については、当然のことながら、厳正を期したつもりである。むしろ、正確を期すのあまり直訳に過ぎて、日本語としての生硬さが残り、意に満たない個所もある。読者諸氏の御叱正をあおぎたい。
 また本書には、訳者註は一切付していない。それによって対話の流れが損なわれるのを、極力避けたためである。
 翻訳上苦労したのは、やはリトインビー博士特有のいいまわしと、その基本概念を示す用語の表現の仕方だった。 creative minority, rich minority, poor majority などは、それぞれ″創造的少数者″″富裕少数者″″貧困多数者″に、また challenge and response は″挑戦と応戦″にと、おおむね従来の翻訳書の訳語を踏襲したが、たとえば″究極の霊的実在″とも訳せる ultimate spiritual reality については、本書では″究極の精神的実在″に統一した。また nationalism は、トインビー概念では″民族主義″よりも″国家主義″に近いと思われるので後者をとったが、たんに″ナショナリズム″とした個所もある。
 仏教哲学に関するものについては、池田氏が日本語で表現したのを受けて、トインビー博士もそのまま使用していることが多く、その点では、だいぶ手間が省けた。たとえば″十如是″は Ju-nyoze(Ten Life Factors)、″慈悲″は Jihi(compassion, mercy)などと、原稿でもローマ字で表記されている。なお、これらの仏教用語や概念に関しては、創価学会教学部主任部長の桐村泰次氏から、貴重な助言をいただいた。心からお礼申し上げる。
 また、次の翻訳書ならびに著書を参考にした。あわせて謝意を表するしだいである。
 『歴史の研究』(全二十五巻「歴史の研究」刊行会訳・経済往来社)『歴史の研究〈サマヴェル縮冊版〉(『トインビー著作集』一〜三・長谷川松治訳・社会思想社)『回想録』1・2(山口光朔、増田英夫共訳・オックスフォード大学出版局)『一歴史家の宗教観』『試煉に立つ文明』(ともに深瀬基寛訳・社会思想研究会出版部)『現代が受けている挑戦』(吉田健一訳・新潮社)『歴史の教訓』(松本重治編訳・岩波書店)『未来を生きる』(若泉敬共著・毎日新聞社外信部訳・毎日新聞社)『トインビーと″あなた″の対話』(毎日新聞社外信部訳。毎日新聞社)『トインビーと文明論の争点』(山本新著・勁草書房)『文明の構造と変動』(同・創文社)『トインビーの宗教観』(同編・第三文明社)『トインビー研究』(平田家就著・経済往来社)、その他。
 最後に、未熟な私たちに本書の邦訳を委託してくださった両対話者、とくに池田大作氏の寛大な計らいに、深く感謝している。
 昭和五十年一月                 『二十一世紀への対話』翻訳委員会

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