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2 原子力の平和利用  

「二十一世紀への対話」アーノルド・トインビー(池田大作全集第3巻)

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1  池田 今後のエネルギー資源問題を考えるとき、原子力の平和利用が一つの重要な解決策になるものとみられています。一九五五年に、第一回原子力平和利用国際会議がジュネーブで開かれて、原子力平和利用への機運が世界的に盛り上がって以来、先進工業国では競ってその開発が進められています。原子力が、新たな、将来性あるエネルギー源として平和的に利用されることは、喜ばしいことだと思います。
 十九世紀から二十世紀初めにかけては、石炭がエネルギー源の王座を占めていたのが、すでに石油によってその地位は取って代わられ、その石油も、現在のところは主要な役割を果たしているものの、世界的に資源の枯渇はそう遠い先のことではないといわれています。とくに二十世紀に入ってからの急激な産業の発展は、太古の昔から自然が蓄えてきたエネルギー資源を、まさに食い尽くそうとしているといえましょう。
 原子力といっても、むろん鉱物資源の一種である以上有限であり、将来いつかは枯渇する時がくるでしよう。しかし、世界的にはこれからといってよい分野であり、その単位当たりのエネルギー量からいっても、石油、石炭に代わる動力源として、大いに期待できると思います。
 しかし、よく知られているように、原子力は非常に危険な、諸刃の剣ともいうべきものです。一方では、人類の福祉増進に限りなく貢献できると同時に、他方では、その用途を誤れば、人類を地球上から抹殺してしまう危険性をもはらんでいます。また、取り扱い上の問題、燃料廃棄の問題など、石油、石炭とは比較にならないほど多くの未解決の問題点を抱えています。したがって、原子力の平和利用それ自体には異存はないにしても、その困難、障害を除去するために、今後、非常な研究と努力とが必要とされるでしょう。
 なかでも、最大の課題は、平和利用のためになされた研究の成果が、軍事目的に利用されるのをいかに防ぐかということです。これはきわめて困難なことですが、どうしてもなさねばならないことです。
 トインビー 原子力の、平和目的への利用が進むのは望ましいことであり、また事実、必要不可欠なことです。その理由は、ただいまご指摘の通りです。また、原子力は、これまで人間が利用してきたあらゆる無生物資源のうち最も危険であるという点でも、私の考えはあなたと一致しています。
 池田 取り扱い上の問題、燃料廃棄の問題などについて、世界的な研究・協力体制が必要でしょうが、とくに原子力が軍事目的に利用されるのを防ぐため、私は原子力の平和利用に関する国際的な査察機構を国連などに設けて、随時各国の状況を査察しうるようにすることを提案したいのです。もちろん、そのためには、この目的を遂行するに必要な権限が、この機構に賦与されなければなりません。そして、核兵器を保有していないとされている国も含めて、いかなる国も査察を拒否できないようにするわけです。
 平和利用を本格的に進めるにあたっては、当然、核軍備撤廃が前提条件となりますが、これを一挙に全廃することがむずかしければ、段階的な廃棄でもよいと思います。また、原子力利用に関する技術開発は、すべて公開の方式をとって、人類共有の技術としていく必要があると考えます。
 こうした構想は、当然、各国で国内的にも適用されるべきでしょう。たとえば、日本の原子力開発研究についても、憲法の精神からみて、軍事目的への転用は絶対に許されないことです。その歯止めになるものとして、超党派の、それも学者など民間人をまじえた査察団を設け、時の政府の干渉を受けない立場で、常時査察が行えるようにすべきだと思います。
 さらに、原子力平和利用のより根本的な課題としては、核保有国の対立関係を解消することが先決であるともいえましょう。それは、人類の平和と福祉向上を願う以上、当然、取り組んでいかなければならない問題であると思います。
 トインビー 世界中の人々が、原子力の、戦争目的への使用を放棄することに同意しないかぎりは、またその放棄を実質的に厳守せしめる、有効な権限をもった世界機関が樹立されるまでは、平和目的への原子力利用を進めるのは安全ではないでしょう。
 原子エネルギーの使用を管理すべき有効な世界機構は、実効性のある世界政府の樹立を前提条件とします。ここにいう世界政府とは、あたかも紀元前二二一年以後、秦の始皇帝が中国全土にその意思を徹底しえたように、また秀吉や家康が日本全土にその意思を徹底しえたように、効果的にその意思を全世界に徹底しうる政府のことです。

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