Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

従地涌出品(第十五章) 「蓮華の文化史…  

講義「法華経の智慧」(池田大作全集第29-31巻)

前後
1  生命の法を「蓮華」が象徴、東西文化を結ぶ「蓮華の道」
 斉藤 従地涌出品では、地涌の菩薩のことを「如蓮華在水(蓮華の水に在るが如し)」(法華経四七一ページ)と言っています。蓮華に譬えて称賛しているわけです。そこで、今回は、涌出品を深く理解するためにも、「蓮華」に焦点を当てて、語っていただければと思います。
 池田 いいでしょう。「蓮華」は不思議な花です。仏法上、深き重々の意義がある。ただ、それらの法義を語るだけで、何十巻の本になるかわからない。この連載も、永遠に終わらなくなる(笑い)。
 そこで、仏法上の深義は、今後、少しずつ学んでいくことにして、まずは、もっと身近な「蓮華の文化史」というか、蓮華が歴史上、世界の人々から、どのように見られてきたかを、ざっと見ておいたらどうだろうか。これまでも、さまざまな機会に「蓮華」の意義について語ってきたが、読者のためにもあらためて紹介しておきたい。
2  「ハス」と「スイレン」
 斉藤 たしかに「蓮華」という同じ花でも、国や時代によって、ずいぶん受けとめ方が違います。第一、最近の若い人の中には「実物を見たことがない」という人もいます(笑い)。
 須田 蓮華というと「お盆かお葬式を思い出す」(笑い)という人も多いでしょうね。しかし本当は、古来、「蓮華」は最も高貴な人間の姿を象徴していました。中国では「君子の花」とも呼ばれています。
 遠藤 美人のことを「芙蓉の人」といいますが、あの「芙蓉」も、もともとは蓮華のことですね。以前、先生がカラン・シン博士(インド文化関係評議会会長)の言葉を紹介してくださいましたが、インドでも、女性の目の美しさを「蓮華のような」と譬えるようです。(『生命と仏法を語る』参照)
 斉藤 今、「ハスの花のようだ」と言われても、ほめられた気がしない女性もいるかもしれません(笑い)。
 池田 文化の違いだね。そう言えば、こんなことがあった。初めてポルトガルに行った時だが、菊の花を来客に差し上げようと思って、花屋に行ったら、現地在住の方から、やめたほうがいいと言われた。
 日本では、気品ある花とされているが、ポルトガルでは、悲しさや寂しさを表す花で、葬式に使うものだということだった。国や文化によって、花の受けとめ方はいろいろです。
 それでは、少し三人をテストしてみよう。みんなは、いつも試験をみる側だから、たまには試験されるのもいいだろう(笑い)。
 まず、蓮華といっても、ハスもあればスイレンもある。どういう関係になるのか?
 遠藤 はい。蓮華は、植物学の分類で、ハスとスイレンに分かれます(スイレン科のハス属とスイレン属)。スイレンは、漢字では「睡る蓮」──「睡蓮」と書きます。スイレンには昼咲きと夜咲きがありますが、時間がくると、咲いていた花を閉じて「睡っているみたい」だからです。
 斉藤 ヒツジグサというのがあります。日本に自生していた(もともと繁殖していた)スイレンですが、未の刻、つまり午後二時ごろに開くところから、「ヒツジグサ」と名づけられたようです。
 遠藤 日が沈むと閉じて「睡ってしまう」わけですね。
 須田 ハスも、夜明けごろに開き、午後には閉じるようです。
 池田 ハスとスイレンには、似ているところも、違うところも、いろいろあるね。形の上ではどうだろう。
 須田 ハスの場合、茎とか、蓮根(地下茎)には、穴が通っています。蓮根には節がありますが、この節から葉や花が出てきます。水面から離れたところまで生長して、蕾は花開きます。その後も、そのまま空気中で実がなります。
 これに対して、スイレンには、茎にも根にも穴は通っていません。地下茎はサツマイモのようで、ぎっしり詰まっています。花も水面に浮かんで咲き、花がしぼむと水の中に沈んで実がなります。
 斉藤 仏法でいう蓮華には、「ハス」も「スイレン」も含まれます。ただし、妙法蓮華経の蓮華というのは、「ハス」なかんずく「白いハス」のことです。
3  池田 それでは、ハスやスイレンは何種ぐらいあるのだろうか?
 遠藤 植物学的には、ハスには二種しかありません。アジア・オセアニアに分布するハスと、北アメリカのキバナハスです。一方、スイレンは、世界中に約四十種もあります。その多くは熱帯性です。温帯性のものは、地中海周辺の原産の白いスイレン(ユーラシア大陸に広く分布する)、日本のヒツジグサなどです。
 須田 南米・アマゾン河流域には、オオオニバスがあります。これはスイレンの一種です。小さな子どもなら、その葉の上に乗っても水に浮いています。
 池田 そうだったね。ヨーロッパにも蓮華はあるのかな。
 遠藤 先ほど述べた白いスイレン(地中海周辺の原産)は自生するようですがハスは自生していないようです。化石としてはありますが。
 池田 ハスは古くからあったのだったね。確か、白亜紀(およそ一億三千五百年前)にもさかのぼると言われている。種子植物(花が咲いて種ができる植物)ができてすぐから繁栄していたようだ。
 須田 ヨーロッパでは、白いスイレンは、「純潔」のしるしです。スイレンの花ことばも「心の純潔」とされ、「純情」「信頼」という寓意があります。
 池田 ヨーロッパのスイレンといえば、フランス印象派の画家モネが描いたスイレンが有名だ。東京富士美術館にもあります。モネの睡蓮については、ルネ・ユイグ氏(フランスの高名な美術史家)とも語り合ったことがある。では、アフリカはどうかな。
 斉藤 エジプトなどには、スイレンがあります。エジプトの国花は、スイレンです。
 ナイル河には、多くのスイレンが生えています。「夜咲きの白いスイレン」と「昼咲きの青いスイレン」があり、青が多いそうです。
 池田 ナイルに浮かぶ青と白の睡蓮の群れ──美しい光景です。ヘロドトス(古代ギリシャの歴史家)だったか、古代エジプトでは蓮華を食用にしていたと書いていたと思ったが。
 遠藤 はい。彼の著作『歴史』では、蓮華をユリの一種としています。英語では、スイレンに「ウオーター・リリー(水の百合)」という別名があります。
 須田 スズランは「谷間の百合」といいますね。ユリには何か意味があるのですか。
 遠藤 清らかで美しい花をユリといったようです。ユリは″清純さ″の象徴だったようです。
 斉藤 婦人部のシンボルは「白ユリ」ですが、まさにぴったりです。
 池田 古代エジプトにはスイレンだけかな?ハスは?
 遠藤 ハスもあったようですが、それは「バラに似たユリの一種」とされています。実際は、よくわかりません。
 池田 それでは次に、日本語で「ハス」のことを、どうして「ハス」というのか。
 これは、どうだろうか?
 斉藤 はい。ハスは古くは「ハチス」いいました。「蜂の巣」のことです。ハスの花が開くと、シャワーの先を真上に向けたような形の実が現れます。この部分が「蜂の巣」に似ていることから「ハチス」になり、「ハス」になったわけです。漢字で「蓮」というのは、この部分です。

1
1