Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第30巻 「雌伏」 雌伏

小説「新・人間革命」

前後
1  雌伏(1)
 さあ、対話をしよう!
 友の眼に秘められた
 哀しみ、苦しみを見すえ、
 ためらいの言葉に耳をそばだて、
 勇気を奮い起こして
 励ましの対話を始めよう!
 同苦の腕を広げ、
 弾む生命で、
 希望と正義の哲学を語ろう!
 ほとばしる情熱と
 金剛の確信をもって、
 忍耐強く、
 共感の調べを奏でよう!
   
 さあ、対話を続けよう!
 一個の人間に
 内在する力は無限だ!
 一人の発心は、
 友から友へと
 蘇生の波を広げ、
 やがて万波を呼び起こす。
 「一は万が母」と。
    
 われらは、
 対話をもって
 人びとの心田に幸福の種子を植え、
 この世の尊き使命を呼び覚ます。
 対話をもって
 心をつなぎ、世界を結び、
 難攻不落の
 恒久平和の城塞を築く。
 さあ、今日も、対話を進めよう!
   
 第三代会長を辞任し、名誉会長になった山本伸一は、一九七九年(昭和五十四年)五月三日の本部総会で、十条潔新会長のもと、新体制がスタートしたことを見届けると、世界広布の新しい雄飛のために行動を開始した。同志との励ましの対話に徹し、また、世界平和への流れを開くために、各国の大使や識者らとの語らいに努めた。
 対話の力こそが、時代を開く平和力となる。
2  雌伏(2)
 山本伸一は、学会本部に行くことを、なるべく控えるようにしていた。
 会長になった十条潔たちに、思う存分、指揮を執ってほしかったし、自分が本部にいることによって、ついつい皆が頼ってしまうようになることを避けたかったのである。
 伸一の最大の願いは、後を託した首脳たちが、創価の師弟の大精神を受け継ぎ、すべて自分たちの力で学会の運営や会員の指導にあたり、広宣流布の使命と責任を果たしていくことであった。また、次代を担う青年たちの成長であった。
 彼は、深い祈りを捧げながら、「獅子の子落とし」の言い伝えを思い起こした。獅子は、子が生まれると深い谷底に突き落とし、生き抜いたものを育てるとの俗説がある。あえてわが子に、大成のために試練を与えることを意味するが、今、彼も、同じ思いで、後継の奮闘を見守っていたのである。
 週刊誌などのマスコミは、毎週のように伸一の会長辞任などを取り上げ、囂しかった。学会批判を繰り返してきた評論家らが登場し、学会は滅亡に向かうといった、邪推に基づく無責任な報道も続いていた。
 そのなかで彼は、神奈川文化会館で、立川文化会館で、静岡研修道場で、行く先々で学会員の姿を見ると声をかけ、激励を重ねていった。記念のカメラにも納まった。
 何があろうが、広宣流布の軌道を外さず、自ら定めたことを、日々、黙々と実行していく――まさに太陽の運行のごとき前進のなかにこそ、人生の栄光も広布の勝利もある。
 五月十一日、伸一は、立川文化会館で、日天、月天と対話する思いで、詩を詠んだ。
  西に 満々たる夕日
  東に 満月 煌々たり
  天空は 薄暮 爽やか
  この一瞬の静寂
  元初の生命の一幅の絵画
  我が境涯も又
  自在無礙に相似たり
3  雌伏(3)
 山本伸一は、世界を結び、確かな平和への道を開くために、各国の識者や大使らとも積極的に交流を図っていった。五月十九日には、親善交流のために、中日友好の船「明華」で、交流団の団長として来日した中日友好協会の廖承志会長と都内のホテルで会談した。
 語らいのなかで伸一は、いかなる立場になろうが、日中の平和・文化・教育の交流を推進し、両国の友好に、さらに尽力していきたいと決意を披瀝した。そして、万代にわたって崩れることのない友好のためには、民間次元の強いつながりが重要になると訴えた。
 また、廖会長は、伸一に、五度目となる訪中を要請したのである。
 二人は、第一次訪中以来、幾度となく対話を重ね、深い友情に結ばれてきた。廖会長は、この四年後の一九八三年(昭和五十八年)六月に他界する。伸一は、その翌年、廖家を弔問し、経普椿夫人、子息と、廖承志の尊き生涯を偲びつつ語り合った。
 二〇〇九年(平成二十一年)十月、中国・広州市にある仲農業工程学院から、伸一と妻の峯子に、それぞれ名誉教授の称号が贈られる。「仲」とは、孫文の盟友で、廖承志の父・廖仲のことである。同校の淵源となる仲農工学校は、彼と共に新中国の建設に生きた夫人の何香凝によって創立されている。
 さらに同校には、廖承志と伸一の研究センターがつくられ、二〇一〇年(同二十二年)十一月に開所式が行われた。
 伸一の植えた友誼の苗木は、二十一世紀の大空に大きく枝を広げていったのである。
 彼は、廖承志会長との会談に続いて、五月二十二日にはソ連のノーボスチ通信社の国際部長や論説委員、大使館関係者らと神奈川文化会館で語り合った。米ソ第二次戦略兵器制限交渉(SALTII)や、アジア及び世界の平和・文化・教育の問題などをめぐって意見交換したのである。その席で伸一に、強い訪ソの要請が出されたのだ。
 恒久平和の実現を願い、懸命に努力し、行動していくことこそ、仏法者の責務である。

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