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日蓮大聖人・池田大作

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第30巻 「大山」 大山

小説「新・人間革命」

前後
1  大山(1)
 日蓮大聖人は叫ばれた。
 「我が弟子等・大願ををこせ」、「大願とは法華弘通なり」と。そして「一閻浮提に広宣流布せん事も疑うべからざるか」と予見された。一閻浮提とは世界である。
 世界広宣流布の実現へ、われら創価の同志は、まっしぐらに突き進む。
 “私に連なるすべての人を幸せに!”
 家族、親戚、友人、近隣、地域、職場……。
 人は、人の絆のなかで育まれ、成長し、学び合い、助け合って真実の人間となる。
 ゆえに、自分一人だけの幸せはない。自他共の幸福のなかにこそ、本当の幸福もある。
 弘教とは、相手の幸福を願う心の発露である。自分に関わる一人の人に、誠実に、真摯に、懸命に仏法を語り説くことから、幸のスクラムは広がり、平和の道が開かれる。
 一九七九年(昭和五十四年)二月十六日の夕刻、インドのカルカッタ(後のコルカタ)を発った山本伸一たち訪印団一行が香港に到着したのは、午後十時過ぎ(現地時間)のことであった。十八年前、東洋広布の旅は、この香港の地から始まった。そして、「七つの鐘」の掉尾を飾る平和旅の舞台もまた、香港となったのである。
 翌十七日の朝、伸一は、東洋広布の“平和の港”香港で東天に昇る太陽を仰ぎ、決意を新たにし、世界広布の未来図を描いた。
 夕刻には、香港中文大学の馬臨副総長(学長)主催の晩餐会に臨み、学術・教育交流の進め方などについて意見交換した。
 伸一は、二十一世紀のため、世界の平和のために、今こそ教育・文化の橋を幾重にも架けておかねばならないと必死であった。未来は今にある。この一瞬を、一日一日を、いかに戦い生きるかが、未来を決定づけていく。
 経文には「未来の果を知らんと欲せば其の現在の因を見よ」と。
 “今しかない! 黄金の時を逃すな!” 
 彼は、こう自分に言い聞かせていた。
2  大山(2)
 二月十八日、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシアなど九カ国の代表と、香港、マカオの二地域の代表六十五人が集い、山本伸一が出席して、香港島のホテルで東南アジア代表者懇談会が行われた。
 「七つの鐘」を総仕上げし、新しい東南アジアの新出発を期す集いとあって、色鮮やかな民族衣装が目立った。
 参加者はいずれも、それぞれの国・地域にあって、広宣流布の茨の道を切り開いてきたメンバーである。なかには、当初、現地の言葉がほとんど話せず、身振り手振りで懸命に弘教に励んだ日系人のメンバーもいた。
 東南アジアの国々は、戦時中、日本軍の侵略を受けており、反日感情も根強い。学会が日本で誕生した宗教というだけで、嫌悪感をあらわにする人たちも少なくなかった。
 しかし、どんなに無理解や誤解の壁が厚かろうが、退くわけにはいかなかった。“この信心で、ここで幸せになるしかない! 学会員は自分しかいない。自分がやらなければ、この国の広宣流布は誰がやるのだ!”との強い思いがあった。
 一人立つことこそが広布の原動力であり、いかに時代が変わろうが、その決意なくして前進はない。
 宗教事情も、風俗、習慣も異なるなかで、粘り強く対話を重ね、一人、二人、何十人、何百人、何千人……と、創価の同志のスクラムが広がっていったのである。
 日蓮大聖人は「地涌の大菩薩・末法の初めに出現せさせ給いて本門寿量品の肝心たる南無妙法蓮華経の五字を一閻浮提の一切衆生に唱えさせ給う」と御断言である。
 同志は皆、さまざまな苦悩と格闘しながら、広布の道を開き進む無名の民衆である。しかし、この方々こそ、紛れもなく仏から遣わされ、偉大なる広宣流布の使命を担って末法濁世に出現した、地涌の菩薩なのである。伸一は仏を仰ぐ思いで、皆に視線を注ぎ、最大の感謝と敬意を表し、賞讃した。
3  大山(3)
 東南アジア代表者懇談会で山本伸一は、各国・地域のリーダーとしての在り方を語っていった。
 「何も社会に貢献せず、自分のことだけを考えて生きていく一生もある。仏法のため、自他共の永遠の幸福のために、一生懸命、仏道修行に励むのも一生である。なかには、信心していても、本気になって広宣流布に取り組むのではなく、要領よく立ち回ろうという人もいるかもしれない。
 しかし、人の目はごまかせたとしても、誰人も因果の理法から逃れることはできない。仏法の因果は厳然です。御本尊は一切を御照覧です。したがって、仏法の眼から見た時、アジアの広布の先駆者として立派に道を切り開かれてきた皆さんの功績は偉大であり、その功徳はあまりにも大きい。
 日蓮大聖人は、『始より終りまでいよいよ信心をいたすべし・さなくして後悔やあらんずらん』と仰せである。ゆえに、皆さんは、妙法流布の生涯を凜々しく生き抜いていただきたい。信心を全うしていくならば、何があっても崩れることのない幸福境涯を確立し、福運に輝く人生を謳歌できることは間違いありません」
 そして、これからの世界のリーダーが心すべきこととして、次の三点を語った。
 「第一に、皆が尊い仏子です。学会には、組織の機能のうえでの役職はありますが、人間としての上下の関係はありません。ゆえに組織にあって、幹部だからといって、決して人を叱るようなことがあってはならない。
 第二に、世法と信心を混同し、学会のなかで、利害の対立などによって、争いを起こすようなことがあっては絶対になりません。
 第三に、どこまでもメンバーの幸福こそが目的であり、組織は手段であることを銘記していただきたい。その意味からも、信心の姿勢について厳格であることはよいが、組織の運営等については皆の意見をよく聴き、各人の主体性を尊重し、人間共和の組織をめざしていくことが肝要です」

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