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日蓮大聖人・池田大作

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第26巻 「奮迅」 奮迅

小説「新・人間革命」

前後
1  奮迅(1)
 大鷲は飛翔した!
 力強く羽音を響かせ、光り輝く勝利の空へ。
 高く、高く、また高く……。
 おお! 戦う心に歓喜はたぎる。
 あの頂を越えれば、新しき明日が待っている。新しき世界が広がっている。
 さあ、進もう! 幸の行進を始めよう!
 広布第二章の「支部制」は、堂々と飛翔を開始した。しかし、それが確かなる軌道に乗るまでは、翼を休めることはできなかった。
 山本伸一は、必死であった。
 一九七八年(昭和五十三年)一月、彼は、愛媛、香川、奈良の指導を終えて、二十六日に東京へ戻ると、翌二十七日には、東京・杉並区の方南支部結成大会に出席するため、杉並文化会館を訪れた。「支部制」のスタートに際し、全国で行われる支部結成大会の冒頭を飾ろうと、勇んで駆けつけたのだ。
 杉並には、草創の十二支部の時代に、杉並支部があった。初代支部長は清原かつ。十二支部中ただ一人の女性支部長であった。出発当初は、圧倒的に女性の力が強い支部であった。しかし、やがて創価学会の中核となる多彩な男性リーダーが育っていった。
 伸一が東京の支部結成大会に出席することにしたのは、広布第二章の重要なテーマは、東京の、なかでも「山の手」の強化にあると考えていたからだ。草創期、学会は、主に下町方面を中心に広宣流布の拡大の輪を広げてきた。気さくで隣近所の交流も盛んな下町は、人のつながりも強く、広宣流布の伸展も早かった。
 それに対して「山の手」は、家の造りからして門を構えた住宅が多く、ともすれば人間関係も希薄化し、弘教を推進するうえでも、何かと苦労があった。しかし、そこで、仏法流布の新しき道が開かれなければ、首都・東京の未来は閉ざされてしまう。
 厳しい条件、大変な事態は、常に、どの地域にもある。唱題根本に、智慧を絞り、勇気ある行動で、そこに、広宣流布の大道を切り開いていくのが、師子の使命である。
2  奮迅(2)
 方南支部は、杉並区南東部に位置し、方南一・二丁目と、和田一・二丁目の一部を含む、環状七号線沿いの住宅街と商店街からなる。中野区、渋谷区、世田谷区に接し、支部内を善福寺川と神田川が流れている。
 会員世帯数は四百八十余世帯で、大ブロック(現在の地区)が九つある大きな支部であった。皆が広宣流布の拡大の意欲に燃え、前々年の一九七六年(昭和五十一年)には七十二世帯、前年の七七年(同五十二年)には七十五世帯の弘教を達成していた。
 一月十一日のことであった。新宿区内で行われた、東京の代表者会議に出席した山本伸一は、杉並長の三枝木健次の姿を見ると、微笑みながら言った。
 「私は、できれば、東京の支部結成大会に出席したいと思っています。杉並で推薦できるところはありますか」
 三枝木は、即座に答えた。
 「ございます。方南総ブロックといって、会員世帯は五百近い大きな組織です。模範的な活動を推進しております」
 「そうですか。今回は、これまで最大に頑張ってきたところに出て、皆さんを讃え、励ましたいんです。必ず行けるかどうかはわかりませんが、これから日程を検討します」
 三枝木は、降って湧いたような朗報に、小躍りしたい思いにかられた。
 その後、学会本部と連絡を取り合い、開催は一月二十七日の夜に決まった。「この日ならば、山本会長が出席できる可能性が高い」ということであった。
 二十七日の支部結成大会は、全国に先駆けての開催となる。伸一の出席のいかんを問わず、その成否は、全国の支部に大きな影響を与えることになる。何事も初めが大事である。それが、一つの基準となり、目標となって、全体が続いていくことになるからだ。
 「最初の1歩は最後の1歩につながる。最後の1歩も最初の1歩からである」とは、イタリアの登山家ラインホルト・メスナーの言葉である。
3  奮迅(3)
 杉並長の三枝木健次は、方南総ブロックの総ブロック長らの幹部に伝えた。
 「会長の山本先生から、杉並区の支部結成大会に出席してくださるというお話があり、方南総ブロックを推薦しました。それで日程は、一月二十七日の夜ということになりました。先生のご出席は、まだ確定ではありませんが、ほぼ間違いないと思います」
 総ブロック長も、総ブロック委員も、喜びと緊張の入り交じった声で、口々に応えた。
 「本当ですか! 武者震いを覚えます」
 「必ず大成功の支部結成大会にいたします」
 十八日夜、三枝木が出席し、大ブロック幹部の打ち合わせが行われた。
 ここで、この支部結成大会は全国初となることが発表された。会場は杉並文化会館の大広間と決まった。六百人ほど入る大会場である。支部の世帯数を上回る結集ができなければ、寂しい会合になってしまう。
 集った大ブロック幹部は、″よし、大結集して、全国の先駆として恥じない支部結成大会にしよう″と、決意を固めた。
 大会当日まで既に十日を切っている。しかも、二十九日には、任用試験が実施される。大ブロック幹部の多くが、ほぼ連日、受験者と勉強を行うことになっていた。そのなかでの結集である。
 だが、皆が燃えていた。各大ブロックでは幹部が集い、誰がどの人に会って連絡、激励するかなどを詳細に詰めていった。そして、時間をやりくりしてはメンバーと語り合い、支部結成大会の意義を訴え、「題目を唱え抜いて、はつらつとした姿で参加しましょう」と呼びかけていったのである。
 物事を進めるには、大綱が決まったら、一つ一つの事柄に対して、いつ、どこで、誰が、何を行うのかなどを、具体的に検討していくことが肝要である。
 活動の推進にあたって、あいまいさを残しておけば、そこから破綻が生じてしまう。こまやかな漏れのない対応、小事の完璧な積み重ねのなかに、計画の成就があるのだ。

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